見出し画像

美点

今朝、父親から突然連絡が来た。出張ついでに東京の私の家に来るのだという。急いで部屋の片付けをした。
帰りの飛行機までの短い時間、電車で1時間かかる娘の家に来る父を思うと、なんとも言えない気持ちになる。

私には美点がある。美味しいと思ったものを人に分けるところだ。それは小さい頃から今もずっと、父が私にそうしてきたからだ。「お腹いっぱいだから」とお肉の一番美味しいところをいつもくれた。それが優しい嘘なのは小さい私もわかっていた。

頭の回転が速く、無口だが人情味にあふれ、人から頼りにされる父親は小さい頃から私の誇りだった。
何不自由なく育ててもらった。こんなに目をかけてもらっているのに父親を越えられない自分を不甲斐なく思い悩む時期もあった。

私の幸せは私自身の力ではないとよく思う。そう思うのは父と母が幸せを惜しみなく与えてくれたからだ。両親からの無償の愛は私の幸せの土台となっている。

昨日、村井理子さんの『家族』(亜紀書房、2022)を読んだ。崩壊した家族についてのエッセイだ。村井さんのエッセイは本当に沁みる。
村井さんの父、母、兄は、村井さんにとって重圧になっていたのかも知れない。
しかし、家族を観察する村井さんの目は、冷めているようで温かい。家族に対し自らの罪悪感を吐露していてもそれは、村井さんの優しさと愛情の深さの証左に思える。

本の装丁がとても好きだ。カフェの本棚にあったものだが2時間ほどで読み終えてしまった。そのあとしばらく忘れられず本屋で購入した。
このような本に出会えることはとても幸福だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?