HALLCA @LIVE STUDIO LODGE(20230717)
感謝と希望が充溢した、愉悦のメモリアル。
「音楽が心の底から楽しいと思えてきている」「音楽を楽しめている自分がいることが、続けられていることかなと思っている」……アンコール明けのMCでそう語ったHALLCAは、Especiaとして活動していた4年9ヵ月を越えて5年目を走り出している“今”の自身に、ようやくシンガーとしての真の充実を感じ始めているのかもしれない。
ソロとして初のフィジカル作品『Aperitif e.p.』(レヴュー →「HALLCA『Aperitif e.p』」)をリリースしたのが、2018年7月。ジェイムズ・ブレイクのアルバムを意識したようにも思えた"ブレ”を活かしたセルフィによるアートワークは、おそらくEspecia時代(第1章)を知る人の多くが思い浮かべる、派手やかでキュートな印象とは離れたもので、コンシャスでアーティスティックなヴィジュアルに驚いた人もいただろう。“食前酒”をタイトルに掲げ、「さあ、これからがHALLCAとしての新たなステージの始まり、どうぞ召し上がれ」との心持ちから名付けた……かどうかは分からないが、そんなフレッシュな心境もあったはずだ。当時、非常に個人的な考えだったが、「新たな自身を踏み出す、いわば名刺的な一枚となる作品に、“ブレ”たヴィジュアルを用いるだろうか。自身がデザインを手掛けることはなくとも、それにゴーサインを出しているのは自身だろうから、そう許容したというのは、内省的な部分で揺れる動く不安が潜んでいるのではないか」などと邪推したことを覚えている。
実際は、HALLCA当人でないゆえ、どう思っていたかは知るところではないが、兎にも角にも5年という時を刻むことが出来た。ライヴタイトル〈5th anniversary live "Dear my sweet love"〉に冠した“Dear my sweet love”というフレーズは、『Aperitif e.p.』に収録されたファンたちへの想いを天の川に馳せることになぞらえた「Milky Way」の歌詞から引用したもの。その「Milky Way」をオーヴァーチュアに用いながら、バンドマスターのクマガイユウヤが「デビューEPを5年経った今のHALLCAが演じたら」というコンセプトでアレンジした『Aperitif e.p.』から幕を開け、本編ラストで再び「Milky Way」をリプライズ的に配してまとめたHALLCAの5年の軌跡。Especia時代から、ソロ・シンガーとして出発してから、最近存在を知ったなど、さまざまなオーディエンスへ向けた感謝と愛を、HALLCAが信頼する“最幸”のバンドメンバーとともに紡いだ90分となった。
そのバンド・メンバーは、6月の親友kiarayuiとのコラボレーション・ライヴ〈MOON BRIDGE〉(記事 →「kiarayui × HALLCA @LIVE HAUS(20230604)」)でも共演したクマガイユウヤ、多田涼馬、kiarayuiと、今回はベースに北川淳人を招聘。北川は松任谷由実をはじめ、SKY-HI、Jun. K(from 2PM)、クリス・ハートほかのサポートやレコーディングに参加している辣腕だ。クマガイユウヤがダメ元でオファーしたところ快諾し、HALLCAとともに声を上げて喜びを示したという待望の人材だ。
『Aperitif e.p.』メドレーでは、「Dreamer」ではスクラッチ音を差し込み、「guilty pleasure」でディアンジェロ&ザ・ヴァンガードの「シュガー・ダディ」のボトムを用いながら、アッパーへと急がせないジャジィなタイム感で元来同曲が持つブラックネスをよりクールに仕立てるなど、ジャズ・ミーツ・ヒップホップやネオソウルを体現しているロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ』的なアティテュードで、大人になったHALLCAを強調。ベースの北川、ジャズ畑で目を見張る多田という手慣れが生み出すグルーヴは、クマガイユウヤの思惑通りといったところだろうか。
「コンプレックス・シティー」からは、HALLCAが持つカラフルなポップネスを活かしつつ、時折クマガイユウヤのエッジ―なギターを挟み込む、推進力を削がないエモーショナルなアレンジへと転換。オーディエンスのコール&レスポンスやシンガロングがHALLCAの破顔をもたらす新装ライヴ版「WANNA DANCE!」では、バンドメンバーのソロパートも加えて、クライマックスでも可笑しくないテンションとグルーヴを創り上げていた。
中盤は「Twisted Rainbow」「Precious Flight」「Paradise Gate」といったフュージョンやアーバンポップスといったHALLCAらしい明澄さが映える楽曲群のなかに、うねるホーンとアシッドジャズマナーのファンク・トラックがセクシーに走る「Spiral」を挟み込んでくるなど、その楽曲の振り幅の広さとともに、無邪気にコロコロと表情を変えるかのごとく可憐と妖艶とを往来させる、HALLCAの表現の懐具合の拡がりも感じさせた。このあたりは、HALLCAの清爽で伸びやかなヴォーカルを削がずに滑らかに投影させる、クマガイユウヤのアレンジの妙味の助けも大きいといえよう。
後半は、HALLCAのシンガーとしての成長を窺わせる最近の楽曲群をラインナップ。儚げで切ない機微を添えるkiarayuiのコーラスや、胸に迫るエモーショナルな嘶きを放つクマガイユウヤのギターが特に楽曲の世界観を鮮明にさせる「Night Driver」や「Starry Rain」では、息を呑むような壮観な世界を眼前に映し出すことで、HALLCAも高い没入感でヴォーカルを披露。可憐やポップ、カラフルと評されることが少なくなかったHALLCAに、さらに豊かな表情をもたらす、新境地が芽生えそうなパフォーマンスにも感じた。
上述2曲に比べれば「Sugar」は抑揚が抑えられたメロディで、それゆえに“惹き”を生むヴォーカルワークが肝となるが、たとえば(この日は演奏しなかったが)「Labyrinth」「Fall Back asleep」などのような、一見掴まえ所のない楽曲で感情の襞を震わせるヴォーカルにトライしてきた効果か、自らがグルーヴにハマるのではなく、自らのヴォーカルでグルーヴをアジャストさせる力が付いてきているのかもしれない。
オーディエンスのスマホライトによる天の川の演出と、星空へと駆け上がるような雄大なギターのなかで、安らいだ面持ちを見せながらの「Milky Way」で本編ラストを終えた後は、アンコールへ。「辞めるとか続けるとかそういう次元ではなくて、ライフスタイルの一つとして音楽を続けていきたい」「売れないんじゃないかと心配になったりもしたけど、それは応援してくれているファンに対して失礼だし、多くの人に聴いてもらえるように、自分ひとりの夢だけじゃなく、ファンやバンドメンバー、スタッフなどと一緒にもうひとつ上のステージへと、夢を追いかけられたら」と、決して長くはないけれども短くもない5年を振り返り、次なるステップへと歩き出す決心を吐露していた。
5周年のメモリアルライヴを締めくくったのは、HALLCAらしい麗しく伸びやかなヴォーカルが映える「Dream Dancer」。「思い出してたしかなfever」「どんな時も忘れたくない 夢は続くよ」と自身に言い聞かせるようなフレーズを並べたこの曲を、オーディエンスのコール&レスポンスやバンドやコーラスの力を手にして、歌うことの楽しさを実感する姿には、シンガーとしてのHALLCAの成長と未来への希望の一端が垣間見えた……とするのは、決して大袈裟なことではないと思う。
"食前酒”で幕を開けたHALLCAのストーリーは、非日常を体験する別荘"VILLA”や、はるかりまあこの出会いを得た"TERMINAL”を経て、楽園へ繋がる途への扉"PARADISE GATE”に着いたばかり。たった5年、されど5年。さまざまな思いを抱えながら過ごした時間を糧に、旅はここからが本番となる。高らかに歌い上げる「you can't stop the beat!!!」のフレーズよろしく鼓動を走らせながら、自身に偽らない音楽の旅を続けてもらいたい。ファンはその旅のチケットを確保し、新しい行先へ向かうタラップを渡り、搭乗する準備は出来ているはずなのだから。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION~"Dear my sweet love"
01 ~"Aperitif e.p" Medley~
Milky Way(overture)
Diamond
Dreamer
guilty pleasure(including riff of "Sugah Daddy" by D'Angelo & The Vanguard)
02 コンプレックス・シティー
03 WANNA DANCE!
04 Twisted Rainbow
05 Precious Flight
06 Spiral
07 Paradise Gate
08 Night Driver
09 Starry Rain (Original by 宮野弦士 feat. HALLCA)
10 Sugar
11 Mind's Eye
12 Milky Way
≪ENCORE≫
13 Dream Dancer
<MEMBERS>
HALLCA(vo,key)
クマガイユウヤ(g / Band Master)
北川淳人(b)
多田涼馬(ds)
kiarayui(cho)
◇◇◇
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2023/07/17 HALLCA @LIVE STUDIO LODGE(20230717)(本記事)
もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。