Rina Sawayama @東京ガーデンシアター(20230120)
多彩で変幻自在なアクトと信念で紡ぐ、Rina流ポップ・ワールド。
1月17日の愛知・名古屋公演を皮切りに、翌18日の大阪公演を経て、20日に東京ガーデンシアターでファイナルを迎えたRina Sawayamaの初となるソロ・ジャパンツアー〈HOLD THE GIRL TOUR 2023〉を観賞。会場の東京ガーデンシアターは最大収容8000名の劇場型イヴェントホールで、(Rinaいわく6000名を集客した)当会場は、自身最大規模のキャパシティとのこと。若い層が多いが、10代から60代くらいまで年齢層も幅広く、まさに老若男女問わずといった感じでオーディエンスが集結。Rina自身がパンセクシャル(全性愛者)をカミングアウトし、クィア(性的指向・自認が定まらない性的マイノリティ)であることから、LGBTQ(L:レズビアン=女性同性愛者、G:ゲイ=男性同性愛者、B:バイセクシャル=両性愛者、T:トランスジェンダー=出生時の性別と心性が異なる者、Q:クィア、クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない者)というセクシュアルマイノリティ・コミュニティのファンも少なくなく、Rina自身のカミングアウト・ソングとなった「Cherry」などでは同コミュニティの象徴でもあるレインボーフラッグが掲げられる様子も窺えた。
Rinaの楽曲は、性的なものに限らず、マイノリティや弱者についてのコンシャスなメッセージ性が強いものが話題となっていることもあって、楽曲およびそれを表現するステージについては、それらが不可分なものであるのは承知しているが、ここでは単純にエンターテインメントとしてのステージというアプローチから筆を走らせることにしたい。もちろん、そういったコミュニティに反するとか異を唱えるということではなく、単純にオーディエンスとしての感想を述べたいということだ。当然、Rinaの楽曲をはじめ、それらが披露されるステージから生まれる世界観や言動においてもその意識は通底しているから、それらに言及しないというのは骨格を排除しているも同じと考える人もいるだろうし、それも一理あるとは思う。だが、たとえば、海外アーティストの楽曲を聴いたり、ステージを観賞する際に、自分は英語が分からないので、歌詞の内容も分からないまま聴いていたりするし、ステージでもネイティヴレヴェルで話されるとほぼ聴き取れない。それでも感動したり、充足を得たりするのは、言葉によらない何かの力が伝わってくるからだと考えている。それがフィーリングなのかグルーヴなのか、それ以外の胸の襞を揺らせる刺激やムードなのかは分からないが、そういったものは確実にある。それゆえ、ここではエンターテインメントとして観た際の感想を述べさせてもらうことにする(ちょっと大袈裟か)。純粋にステージを観た率直な感想をダラダラと綴っている凡庸なテキストと思ってもらえればいいし、それ以上でもそれ以下でもない。
Rinaの作品やライヴレポートに関して、マイノリティについての言及を含めなければ、レポートの類をなさないという方は、おそらく本ライヴにおいても、しっかりとその要素を含めたテキストやレポートは長短含めて数多く上がっているだろうから、そちらを参照してもらえればと思う。
さて、前置きが長くなったが、ジャパンツアーは、バンド・メンバーとしてギターとドラムの2名、ダンサーの2名が帯同。同期した音源にギターとドラムを重ねる形だが、ベースレスゆえファットなボトムがグイグイくるような感じはあまりない。といはいえ、東京ガーデンシアター自体の音響が良いのか、サウンドとしてのもの足りなさなどはなし。そのあたりは、エレクトロニックからガレージ、ロック、メタル、インダストリアル、カントリーなどの多彩なジャンルを横断する楽曲性を鑑みたアレンジやミキシングを施しているのだろう。
ステージ奥には横一直線の高台のウォーキングステージが作られていて、両端の階段を通ってステージと行き来しながら、ダンサーとともにパフォーマンスを繰り広げていく。ステージの装飾としてはウォーキングステージ中央奥に大きなリング状の鉄骨風オブジェが組まれるくらいで、鉄骨剥き出しのストリート感ある無骨な印象のものだったが、ステージ両端の前後に立てられた塔とともにカラフルなライトやレーザービームを放って、その無骨さを豪華な彩色に変化させていく。
曲構成は、ツアータイトルに掲げたアルバム『ホールド・ザ・ガール』の楽曲を軸に、前作アルバム『Sawayama』収録曲などを加えたもの。威風堂々といった形容が似合う「イントロダクション」が流れるなか、満を持して登場するラスボスのごとく、背後からの白色のライトに照らされたカウボーイハットとマント姿のRinaがダンサーを従えてウォーキングステージ中央に現れると、オーディエンスの期待と歓声を受けながら「Minor Feelings」へ。アルバム・タイトル曲「Hold The Girl」のイントロで「TOKYO, Make some noise!」と煽ると、ハットとマントを外してショートなデニム・スカート&ロングブーツ・スタイルで「Hold The Girl」を披露。歌い終え、一斉に歓声を浴びると、ステージ前方に歩み寄り、「『Hold The Girl』を書き終えた時に、音楽って癒す力があるって気づいた」「今夜は癒されて、より幸せで、より自分らしくなって帰って欲しい」「ここを安全でリスペクトに満ちた場所にして欲しい」「金曜だからなにより騒いで欲しいし、楽しんでいってください」とオーディエンスに呼びかける。「このショーは私が経験した感情の旅路を辿ってます。私と一緒に出掛けましょうか」と告げると、澄み渡る空を自由に舞うような開放感に溢れた「Catch Me In The Air」へ。
ロッキンなギターや畳み掛けるような推進力あるビートで攻める「Hurricanes」や「STFU!」「Frankenstein」といった楽曲では、滾るような熱情や苛立ちとも捉えられる心の葛藤をハードで尖ったサウンドで描出。変に奇を衒った演出もないので、テンポ良くステージが進行し、オーディエンスの興奮を阻むことがない。Rinaは時折ステージ前方などに備えられたサーキュレーターの前に立ち、長い髪をなびかせるクールな姿でオーディエンスを沸かせていく。(本人はそういった感覚はないかもしれないが)モデルならではの奇抜というかユニークなファッションやメイクのイメージが強いRinaだが、この日はいくつか衣装チェンジをしたが、奇抜なものはなく、シンプルな美が伝わるようなファッションやメイクという印象。そして、やはり母国でのツアーということで、日本語でMCをしていることもあって、通常目にする英語での会話でのクールでヴィヴィッドな印象とは若干異なる、ほんのりと心を許したような、親しみあるというか、チャーミングな部分も垣間見えたりしたのも良かった。
オーディエンスのクラップが後押ししながら、雲一つない空に響きわたるような清々しさを纏った「Bad Friend」を終えると、ステージ中央に置かれたスツールにギタリストとともに腰かけて「ちょっとみんなと本音で語りたい」として、「口の中にめっちゃ髪の毛が入っちゃうんだよね」と茶目っ気を見せながら、「私の音楽のモットーはありのままの自分を受け入れるということ」と語り出すRina。「でも、そういう自分を受け入れてくれない人も、時々いる」「馬鹿にしたり、怒らせたり、気分を悪くしたり、悲しくなるようなことを言ってくる人もいる」「でも、この世界にはそのままのあなたを愛して、自分を受け入れてくれる人もいる。だから、諦めずに自分を貫いて、生きていきましょう」とメッセージを贈る。オーディエンスからの喝采を浴びると、滑舌悪かった部分に自ら「嚙んでる私を受け入れてありがとう」とユーモアに変えるなど、機知に富んだ聡明なところも感じられた。
トピックのひとつとして挙げられるのは、後半で披露したアコースティック・セッションだろう。「携帯のライトを点けてみて」とリクエストしてホールを星たちが瞬く宇宙空間に仕立てたなかでの「Send My Love To John」や、麗らかでハートウォームなムードが横溢した「Chosen Family」を経て、歌い出したのは宇多田ヒカルの「First Love」。事前に自身のSNS(Instagram)でRina史上これまでで最も規模が大きな会場の記念としてスペシャルな邦楽カヴァー曲のリクエストを募っていたが、そこでファンの多くがコメントした楽曲だったようだ。「このアーティスト、この曲がなかったら、アーティストになっていなかった」「このアーティスト、昨日40歳の誕生日を迎えて、それを記念に歌ってみようかなって思いました」と告げた後で、自身においてさまざまなパーソナルな感情を綴った楽曲があるなかで、Rinaのルーツといえる素朴でピュアな感情が込み上げるであろう「First Love」を、シンプルなギターのみの伴奏で情感に満ちて歌い上げていた。デジタルなビートやヘヴィな音色のない、剥き出しの歌声の訴求力と迫力に目を見張ったと同時に、年齢層は広いものの会場に集った多くのファンが知り得るだろう宇多田ヒカルの代表的なラヴソングの影響力を、今となってはことさら強調することもないが、再認識した瞬間でもあった。
続いて「シティポップを歌おう」と言ってから披露した「Cherry」では、イントロに竹内まりや「プラスティック・ラブ」をモチーフにしたアレンジを導入。Rinaの楽曲自体にはシティポップの要素はこれまで見受けられなかったと思うが、宇多田ヒカルのカヴァー含め、ジャパンツアーならではのサプライズ・プレゼントといったところだろうか。
クライマックスは、再びハードで刺激的なモードに立ち返って「Comme des Galcons(Like the Boys)」「XS」、さらにアンコールで「This Hell」という、Rinaの強烈な個性が放たれる、ビートが鋭く強固な楽曲群で走り抜けた。ミュージック・ヴィデオなどではファッシネイトでありながらも下世話さが見え隠れするような印象もあるが、ステージではスタイリッシュでパワフルな所作とともに、凛とした(日本人らしいといっては語弊があるか)美しさも醸し出していた。「XS」のミュージック・ヴィデオよろしくコミカルかつチャーミングなロボット風ダンスでのパフォーマンスは、ファンの感情をさらに昂ぶらせる火花となって、フロアへ降り注がれていった。
アンコール後、ライトによって地獄色(?)の赤に染められたステージにRinaが再度登場すると「今日は地獄で"華金”だぁーッ」と叫んで「This Hell」へ。アンチテーゼに対面した心境を地獄になぞらえて、炎が盛んに燃え上がる情景を描くとともに、フロアの熱気ともども巻き添えにして興奮のるつぼへと投下していった。
さまざまなメッセージを問いかけ、共感を呼んだステージだったと思うが、冒頭で述べたように、それらを意識しなくとも、エンターテインメントとしてシリアスに、スリリングに、キャッチーに、チャーミングにと、カメレオンか、はたまた万華鏡のようにカラフルに目まぐるしく色を変えながらパフォーマンスを遂行。自身の感情を曝け出しながら、時にウィットに富み、人間味が溢れるステージは、非常にエネルギッシュでダイナミックだった。そして、多彩なジャンルを往来しながらも、常にポップ・ミュージックとして昇華しているところが、なにより秀抜。「諦めずに自分を貫いて」という信念どおりに、自らの偽らざる心を歌やサウンドに投影した、コンシャスでジョイフルなエンターテインメント・アクトだった。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Minor Feelings (*H)
02 Hold The Girl (*H)
03 Catch Me In The Air (*H)
04 Hurricanes (*H)
05 Your Age (*H)
06 Imagining (*H)
07 STFU! (*S)
08 Frankenstein (*H)
09 Holy(Til You Let Me Go) (*H)
10 Bad Friend (*S)
11 Send My Love To John(with acoustic guitar session) (*H)
12 Chosen Family(with acoustic guitar session) (*S)
13 First Love(Original by Hikaru Utada)(with acoustic guitar session)
14 Cherry(include intro phrase of "Plastic Love" by Mariya Takeuchi)
15 Comme des Galcons(Like the Boys) (*S)
16 XS (*S)
≪ENCORE≫
17 This Hell (*H)
(*S):song from album "Sawayama"
(*H):song from album "Hold The Girl"
<MEMBERS>
Rina Sawayama(vo)
Emily Rosenfield(g)
Simone Odaranile(ds)
Summer Jay Jones(dancer)
Shola B Riley(dancer)
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