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MASEGO @THE GARDEN HALL(20231010)

 甘美で彩色豊かな音楽性とレディスキラーぶりに酔う一夜。

 ジャズ、ヒップホップ、R&B、トラップ、ハウスなどの要素をオーガニックなアプローチで繰り出し、自ら“トラップ・ハウス・ジャズ”と称したサウンドで魅了するジャズ・サックス奏者/マルチインストゥルメンタリスト/シンガー・ソングライター/ラッパー/プロデューサーと多彩な顔を持つ、ジャマイカ・キングストン生まれ、米・ヴァージニア州育ちのミカ・デイヴィスのプロジェクト、マセーゴ。いわゆる自給自足的にオールラウンドで全てをこなすセルフコンテインド・グループならぬ、気鋭のセルフコンテインド・アーティストとして精力的に活動し、その高いタレント性を発揮している。

 2017年に仏・トゥール出身のマルチインストゥルメンタリスト、FKJ(フレンチ・キウイ・ジュース)とセッションした2017年の「タドウ」(Tadow)が話題となって以降、FKJとともにその名を広めた彼が、2019年の代官山UNIT以来約4年8ヵ月ぶりの単独来日公演を開催。この3月にはセルフ・タイトル・アルバム『マセーゴ』をリリースし、新たな一面も見せたとあってか、会場となる恵比寿ザ・ガーデン・ホールには、ヒップホップやR&Bを好む若い世代や外国人が数多く駆け付けた。

MASEGO 〈LIVE IN TOKYO〉 at THE GARDEN HALL

 マセーゴを知った当初はFKJと同じように目が向くも、個人的にはそれほどレゲエやラスタ・ミュージックに食指が動かないので、ジャマイカンといこともあって、マセーゴもそのひとつの部類かと感じていた。だが、もちろんジャマイカ訛りの歌い口やアフタービートが見られるとはいえ、スッと耳に違和感を抱かずに入ってくるのは、育ったヴァージニアという土地の音楽環境、ヒップホップ/R&Bで言えば、ミッシー・エリオット、ティンバランド、ファレル・ウィリアムス、クリス・ブラウンらを輩出した土地柄の影響が少なくないのかもしれない。官能的に彩るサックスの音色や切なさを帯びたノスタルジックなメロディなどはR&Bの得意とするところのそれで、ジャズの洒脱さに愛嬌も伝わるポジティヴなヴァイブスが合わさったレイドバック感は、非常に魅力的なムードとなって脳内を刺激する。

 2017年のビルボードライブ東京での初来日、2019年の前回公演はタイミングが合わず、今回が初観賞となるのだが、実際ステージを体感してみると、音源の印象とは異なるダンサブルなグルーヴで包まれていた。流麗に、また妖艶に彩色するサックスを響かせながら、ジャズの洗練性やモダニズムに寄せ過ぎず、ダンス・ミュージックやヒップホップを基盤としたアグレッシヴなアティテュードで魅せるといった感じだ。バンドは、左にドラム、右にベース&シンセを従えたシンプルなものだが、フィーチャリング楽曲などは同期音源を用いて、そこへマセーゴがサックスとヴォーカルやラップが加わる。時にステージ左端のシーケンサー/サンプラーに向かってプレイし、ヴォイスパーカションも添えたりしながら、ビートメイクも披露。特に長いMCタイムなどもせず、メドレーと思わせるほどに次々と楽曲を繰り出し、終始ホットなパッションとグルーヴでフロアを沸かせていく。

 シカゴのジャズ・コーラス・グループ、ザ・シンガーズ・アンリミテッドが1972年に放った「ミッシェル」をサンプリングし、米南西部に先住するインディアン部族の名を冠した「ナバホ」でスタート。フロアには海外経験者やインターナショナルスクールの出身、外国人などネイティヴイングリッシュが解かる音楽ファンが多く占めているとあって、序盤からマセーゴの語り掛けに即座に“黄色い声”で反応。ジャマイカ訛りの人懐っこい歌い口と艶やかに包み込むセクシーなサックスの音色というスウィートの“二刀流”を序盤から発揮するものだから、フロアにはホットなコール&レスポンスが飛び交い、一気にヴォルテージも上昇していく。

 さまざまな遊び心溢れる“仕掛け”も登場。「レディ・レディ」のアウトロではマイクをサックスに持ち替えて片膝をつき、アニタ・ベイカーの名曲「スウィート・ラヴ」のメロディを奏でて、優しく髪をなでるかのように艶やかな音色で愛を問いかけると、続く「ミステリー・レディ」では薔薇の一輪挿しの束をフロアへ投げ込み(ちゃんと棘はとってあった)、「ブラック・アニメ」ではマセーゴの自画像が描かれた“100マセーゴ紙幣”をばら撒き、オーディエンスと「マネー、マネー、マネー」とコール&レスポンスを繰り広げる。

 「グッド&プレンティ」では、マイクを挟んで両隣に置かれたアルト・サックスとテナー・サックスを指差しながら、オーディエンスに「アルトがいい?それともテナー?」と聞き、レスポンスが多かったテナーサックスでアウトロを締めたり、その直後には、左端のシーケンサー&サンプラーでオーディエンスに「キョウノ・ヨルハ・ヒマ・デスカ?」と問いかけながら、そのフレーズを汲み入れ、エフェクトを効かせた「キョウノ、ヨルハ、ヒマデスカーァ?」というビートをメイクしてザ・ガーデン・ホールに集ったファンたちを歓迎していた。

 「シルヴァー・タン・デヴィル」ではバックスクリーンにたなびくジャマイカ国旗が映し出されるなか、ジャマイカ国旗を肩にかけて、パッション漲るヴォーカルと哀愁漂うサックスを披露。続けて「パーティしようぜ、声を出せー!」と煽ると、バックスクリーンはジャマイカ国旗から南アフリカ国旗へ。マセーゴが南アフリカでパフォーマンスした時の経験について綴り、ジャマイカ・クレオール/パトワ語をサンプリングし、ジャズ、R&B、フュージョン、アフロビートなどをミックスさせたダンサブルなビートの「イェボ/セマ」で、熱狂的なダンス・パーティ・フロアを創り上げていく。

 「ミステリー・レディ(セゴズ・リミックス)」からはスタッフに促されて手渡された(前にポケットがついた)白地の柄エプロンを纏ってステージを右に左に往来。コミカルなことでもするかと思いきや、歌唱は至ってシリアスなので、それがまた愛らしく映るのだろう。フロアの女性からは歓喜の声が方々から聞こえてきた。自分も「スヌープ・ドッグの料理本(『スヌープ・ドッグのお料理教室』)が日本でも売られる時代だから、そういうこともあるか」と思って観ていたのだが、それがかえって面白く感じてしまったりした(セクシーな楽曲なのに)。

 「キングス・ラント」になるとエプロンを脱ぎ捨て、王冠を被り、“トラップ・ハウス・ジャズ”の王を高らかに宣言。「マセーゴ、マセーゴ」のコール&レスポンスは、マセーゴの音楽に、キャラクターに、一挙手一投足に魅せられたファンたちによる、王を崇めるセレブレーションのようにも思えた。

 ラストは、イントロの一音が響いた瞬間にフロアが歓喜の声の渦で包まれた「タドウ」。FKJとコラボレーションしたこの曲の人気はやはり絶大だ。魅惑的なサックスのメロディに身体を揺らし、何かをやり遂げた時に発する“Tada”と感激を表わす“Wow”を組み合わせた造語という「Tadow」(発音ではテェデーに近く、日本語で「ジャジャーン!」という擬音語を意味する間投詞“ta-da”(タダー)の意味も重ねているのかも)なるコーラスがフロアを支配していく光景は圧巻だ。その折り重なる声と放たれるラヴリーなヴァイブスに応えるかのように、最後はサックスを右手で高く掲げ、エキサイティングなショウは幕を閉じた。

 開演前に組まれたセットを見て、バンドはベースとドラムのみとあって音圧的にどうなのかと思ったりもしたが、そんな余計な杞憂は早々に終わった。もちろん、同期で賄ったパートを生演奏で増やして所帯を大きくしてのバンドも(ゲスト・ヴォーカルの部分も含めて)観てみたいところだが、3名という編成でもまったく気にならないゴージャスなサウンドメイクではあった(音響という意味では、また別の問題もあるが)。オーディエンスを喜ばせる仕掛けも多彩で(そういえば、サツマイモ?を片手に持って「スウィート」と歌ったりもしていた)、オーディエンスの女性陣が沸き散らかす(笑)のも納得のエンターテイナーぶり。しっかりとジャズからR&B、エレクトロニック、ダンスホールなどまで豊かな色彩感覚の音と歌で、痒い所に手が届くエンタメ性で魅了した。美しく鮮やかな配色によるバックスクリーンの映像も、その効用を高める演出の一助になっていた。

 客演なども少なくないため、日本で楽曲通りのクレジットメンバーで演奏する機会を求めるのは相当難しいだろうが、ソロアーティストとしてもさらに飛躍するであろうパフォーマンスを再度観てみたいと思わせた約4年8ヵ月ぶりの来日公演。情熱と胸躍る昂揚が駆け抜けたステージを惜しみながら快哉を叫び、充足の表情や歓喜に満ちた声を発してフロアを離れるオーディエンスの姿が溢れていたことが、このライヴの充実を物語っていたといえるのではないだろうか。

Masego

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Navajo (including sampled "Michelle" by The Singers Unlimited)
02 Queen Tings (Original by Masego feat. Tiffany Gouche)
03 Old Age (Original by Masego feat. SiR)
04 Lady Lady (including outro phrase of Anita Baker "Sweet Love" on the sax / contains a sample of "Prototype" by Outkast)
05 Mystery Lady (Original by Masego feat. Don Toliver)
06 Two Sides (I'm So Gemini)
07 Black Anime (including sampled "Cha-Cha Slide" by Mr. C The Slide Man)
08 Veg Out(Wasting Thyme)
09 Yamz (Original by Masego & Devin Morrison)
10 What You Wanna Try(including sampled "What's Your Flava?" by Craig David & "Tom's Diner" by Suzanne Vega)
11 Prone
12 Sides Of Me
13 Drum Solo ~ You Never Visit Me
14 Good & Plenty (Original by Alex Isley, Masego & Jack Dine)
15 BEAT MAKE by sequencer & sampler "Kyou no Yoru ha Hima desuka?"
16 Silver Tongue Devil (Original by Masego feat. Shenseea)
17 Yebo/Sema
18 Mystery Lady(Sego's Remix)
19 Passport
20 King's Rant
21 Tadow (Original by FKJ & Masego)

<MEMBERS>
Masego(vo,sax,sequencer)

(b,key)
(ds)

MASEGO 〈LIVE IN TOKYO〉 at THE GARDEN HALL


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