脇田もなり @代官山SPACE ODD(20230923)
“UNI”という幸運の呪文が導く、シンガーとしての喜悦と未来。
2019年リリースの『RIGHT HERE』以来約4年ぶりとなる4thアルバム『UNI』のタイトル曲「UNI」の“Don't You Feel Me?”や“Can't You Hear Me?”という詞は、自身が手掛けたものではないが、その詞世界とは別に「私の音楽や歌は届いてるよね!?」という想いが詰まったフレーズといえるのかもしれない。奇しくも、ライヴにおいてオーディエンスに歌唱を求めて(本人いわく「みなさんに(そのパートを)歌ってもらえないと、息が出来ません」とのこと)フロアの一体感を高めるのに奏功するフレーズとなっているが、その自身の想いや信念が、オーディエンスに、ファンに届いたことを実感したステージになったのではないだろうか。
脇田もなりのソロキャリア7周年と4thアルバム『UNI』のリリースを記念したリリース・パーティ〈MONARI WAKITA 7th Anniversary & "UNI" Release Party〉が、代官山SPACE ODDにて開催。通称“ドリカヨ”セットことDorianとKAYO-CHAAANによるダンサブルなサウンドを軸とした音楽で、フロアに所狭しと集った“もならー”を含む多くのファンたちを興奮の境地へと導いていった。
本来なら開演から存分にその展開を楽しみたかったのだが、個人的にこの日は味の素スタジアムで行なわれたFC東京の試合後に急遽駆け付けたため、会場に到着した時は既に「Sweet Pain」までを終えていて、残念ながら実際にはライヴの後半しか観賞出来ず。後半の良し悪しだけでライヴ全体について言及することは難しいゆえ(この日のFC東京の試合のように、前半は地獄、後半は天国と感じる可能性もゼロではないので)、全体の印象ではなく、後半でのみで感じたことを述べる程度に留めておこうと思う。
脇田のステージは、9月10日のWAY WAVEの定期公演「部員集会」〈WAY WAVE presents「部員集会Special 2023」〉でのゲストステージ(記事→「WAY WAVE w/ 仮谷せいら、脇田もなり、PARIS on the City! @GARRET udagawa(20230910)」)や、8月12日に行なわれた代々木公園野外ステージでのフリーライヴ〈東京渋谷ポップシティ〉と比較的最近のパフォーマンスも観賞してはいるが、単独となると昨年の9月23日の〈MONARI WAKITA 6th Anniversary Live - SEXENNIAL CELEBRATION! -〉以来になる。ソロ活動6周年記念の公演においても感じたことだが(詳細は「脇田もなり @月見ル君想フ」に譲るとして)、2017年の『I am ONLY』から『AHEAD!』『RIGHT HERE』と1年毎にアルバムをリリースする順調ぶりも、コロナ禍なども影響してか、心的な揺らぎや喪失感で覆われたこともあり、鬱屈とした時間も過ごしてきたようだ。だが、時間が傷を癒したのか、ようやくシンガーとして自ら羽根を広げることを厭わなくなり、ついに4thアルバム『UNI』のリリースまでに漕ぎつけた。
単純にシンガーとして7周年を迎えられたことは嬉しいこと。ただ、2019年までのペースや勢いを考えれば、SPACE ODDのキャパシティ(350名収容)は正直寂しい気もしなくもない。しかしながら、肝心なのは集ったファンやオーディエンスにどれほど感情やグルーヴを届け、伝えられているかということ。その意味では「La Shangri La」以降のハウシーなアレンジを中心としたステージで心底から歌い踊り、フロアの反応に受けて享楽に耽る姿からは、喉に刺さって支えていたトゲやホネから解消されたような、スッキリとした晴れやかさが窺え、現在の歌うことへの充実ぶりも伝わってきた。
ソロとして初めてハウスに触れたシングル「I'm with you」のみならず、あらためてハウスシーなアレンジとの相性の良さを再認識。コール&レスポンスで沸き上がる「Boy Friend」では、後のMCで脇田からアルバム『UNI』をどのような気持ちで制作したかを尋ねられた際、Dorianが「ディスられないように(作りました)。ディスるヤツ半分以上いるでしょ。性格悪すぎ」と吐露していたが、その感情を少しは意識してか、通常のオーディエンスがレスポンスしやすいビートではなく、アシッドに彩色したミックスに仕立てたのは、「これでもノレるかい?」と試した(ファンを煽った)遊び的な要素があったのかも……というのは穿った見方過ぎるか。
KAYO-CHAAANがファットなベースで鳴らす「古いディスコの~」というフレーズを“途切れ途切れに聞こえてくる”音として重ね、ヴォルテージを高めるフロアバンガーなイントロダクションから雪崩れ込むソロデビュー・シングル「IN THE CITY」で、指を何度も高く突き上げ、ポニーテールの髪を振り乱す光景は、自分の歌でフロアを揺らしている快感に酔う、この上ない瞬間を実感しているようでもあった。
歌の巧拙という些末なことは置いておいて、脇田が最も音やグルーヴに乗って、快く伸びやかな歌を響かせていたのは、アルバム・タイトル曲でもある「UNI」か。ラテン語の“unus”を語源とし、“one”や“mono”(「一つの」)を意味するこの言葉に、どれほどの想いを重ねたかは定かではないが、アルバムのアートワークにも登場するシアン・マゼンタ・イエロー・キューブ(CMY CUBE)のオブジェを高く掲げ、肩を揺らしてはにかみ、オーディエンスを煽りながら手を左右に振り、ステージを闊歩する姿は、脇田もなりというシンガーのチャーミングな部分を存分に発露させたアクトだったといえる。“UNI”よろしくフロアが“一つ”になって、熱量が融点に達した痛快なシーンの一つと言えそうだ。
本編ラストの「ONDO」、アンコールで歌った「めくるMake Love」など終盤は穏やかなメロディの楽曲で、シンガーとしての深みや奥行きの部分も垣間見せてのエンディング。「ONDO」では声色に大人の色香も滲ませたシックな部分を、「めくるMake Love」ではスウィートな濃度を高めた愛らしいヴォーカルをそれぞれに披露した。ダンサブルなセクションで効果的な演出となった、ミラーボールをはじめ、ストロボ点滅やレーザーライトが縦横無尽に行き交うライティングなどがフロアを昂ぶらせたのとは対照的に、心地よい疲労感を帯びながら、ソロキャリア7年の軌跡のなかで培ってきた滋味をしっとりと、噛み締めるように歌い紡いでいた。
経験も重ね、不安やもの憂げな心持ちというトンネルから抜け出し、『UNI』が起爆剤にもなって辿り着いたステージは、ソロキャリア史上最高との声もちらほら聞こえてきた。一頓挫とまでは言わないものの、心が空洞化していた時期からの上昇曲線ゆえに、観客によっては、そういった感想を抱くことも理解は出来る。しかしながら、元来有している資質と、さまざまな戸惑いや苦悩を介して得た経験が生み出すことから見出せる成長は、このあたりで留まるものではないはずで、以前にも今回に比肩するパフォーマンスを見せていた瞬間はあった。自身のこだわりとも言えるほんの僅かな我儘と、それを許容しながら、良い意味でのバランス感覚が備わってきている今をたとえるなら、再び輝かしいスポットライトを浴びるに相応しい状態へ戻ってきたという印象が強いか。以前と異なるのは、力みや気負いがなく、自然体に近い立脚にあることで、それが何よりも優れた資質を伸びやかに放出する一助になっている。
『UNI』という名の信念や決心を秘め、バラバラになりかけていた時もあったかもしれないピースが、次第に一つのベクトルへと走り始めた。そんな感覚が、歌い終えた後の脳裡を過ぎった。“UNI”に端を発し、もなりならではのユニーク(“uni”que)を発揮し、ドリカヨをはじめとする盟友たちと生命力溢れるグルーヴという名のユニゾン("uni”son)を奏で、駆け上がろうとする“Neo Universe”という世界には、どんな運命(Destiny)が待ち受けているか。その未来を確かめたくなる、微笑みが絶えない好アクトになったことは間違いない。
◇◇◇
<SET LIST>
01 IRIS (*U)
02 PLACE (*U)
03 エスパドリーユでつかまえて
04 FRIEND IN NEED
05 青の夢 -Yanagi dori dub-
06 Sweet Pain (*U)
07 La Shangri La (*U)
08 Deflated Balloons(Toshiya Arai Remix)
09 I'm with you
10 Boy Friend
11 IN THE CITY
12 UNI (*U)
13 もなりの8ビート (*U)
14 ONDO (*U)
≪ENCORE≫
15 めくるMake Love (*U)
(*U):song from album “UNI”
<MEMBERS>
脇田もなり(vo)
Dorian(syn)
KAYO-CHAAAN(key, syn b, sampler)
◇◇◇
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