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パジャマで海なんかいかない / NAGAN SERVER and DANCEMBLE @代官山UNIT〈DEEP DIVE〉(20230918)

 ゲストとともに創生した、エクスペリメンタルなグルーヴ。

 キーボード奏者の別所和洋が創始したエクスペリメンタル・ネオソウル/ジャズ・クルー、パジャ海(PAJAUMI)ことパジャマで海なんかいかないが、東京・代官山UNITにて主宰ライヴ〈DEEP DIVE〉を開催。ツーマンライヴの相手として、時にウッドベースを片手にしながら言葉を畳み掛けるラッパーのNAGAN SERVER(ナガンサーバー)擁するファンキー・コレクティヴ、NAGAN SERVER and DANCEMBLEが登場。さらに、パジャ海のステージのスペシャルゲストとして、米・ミズーリ州カンザスシティ出身のA.Valley(エー・ヴァリー)と米・メリーランド州ボルチモア出身で湘南に居住し、東京が拠点のラップ・グループ“ザ・ヒルト”の一員でもあるMJ the Sensei(エムジェイ・ザ・センセイ)という2名のラッパーを招き、ヒップホップやジャズなどを軸とした褐色のグルーヴでフロアを酔わせた。

 開演前にフロアを温めていたのは、名門レーベル〈ドイツ・グラモフォン〉からクラシック音楽専門のDJとしてメジャー・デビューし、葉加瀬太郎のオーケストラツアーに帯同するなど、クラシカルDJ/指揮者/作曲家として活躍する水野蒼生(みずの・あおい)。バンドの転換時となるインターミッションでもプレイしていたが、いわゆるキャッチーな(馴染みのある)フロアキラーとなる楽曲をチョイスするDJプレイとは異なり、(おそらく著名曲ではない)荘厳で雄大なクラシック曲を駆使して、静謐から大地が鳴動するかのごとくの空間を創り上げていた。その壮大さは宇宙的でもあり、フロアを照らすミラーボールの輝きにリンクしているようにも感じた。

パジャマで海なんかいかない presents〈DEEP DIVE〉 at 代官山UNIT

 定刻より10分弱遅れて、トップバッターのNAGAN SERVER and DANCEMBLEがステージイン。NAGAN SERVERは、ダンス・ミュージックをテーマに、ヒップホップ、ジャズ、ブレイクビーツ、ハウス、テクノ、アンビエントなどの要素を採り入れたサウンドと、楽曲によってはウッドベースを奏でながら言葉を紡ぐラップ・スタイルが特色。日本の代表的スケートボードプロダクション「TIGHTBOOTH PRODUCTION」によるヴィデオ『LENZ II』『LENZ III』をはじめ、資生堂「マキアージュ」やPARCOのCMなどへの楽曲提供でも知られている。

 左からSuchmosや賽(SAI)のキーボード奏者でもあるTAIHEI、渡米後にファーサイドやスラム・ヴィレッジらのオープニングアクトのドラマー経験も持つベーシスト/パーカッション奏者のJACKSON、ドラマー"第七世代"として注目され、パジャ海の別所とはSUGIZO率いるサイケデリック・ジャムバンド"SHAG”のメンバーでもある松浦千昇(まつうら・ゆきの:先日のeillの公演→「eill @EX THEATER ROPPONGI(20230622)」でもサポートしていた)、JazztronikやSOIL & “PIMP“ SESSIONS、Monday満ちるほか多くのアーティストとの共演を果たしているサックス/フルート奏者で、画家としても活動しているというTAKESHI KURIHARA(栗原健)が、NAGAN SERVERとともにグルーヴを唸らせる"DANCEMBLE”として機能する。さらに広島からフォトグラファーとしてCARLOS(Yoshiyuki Asada)がこのコレクティヴに参加。メンバー紹介の際に、ハットを被り長い顎髭を蓄えたTAKESHI KURIHARAと、同じく顎髭を生やしたCARLOSが並んだ野性味あふれる2ショットを見て、NAGAN SERVERが「ここからの(見る)角度、ヤバいね!」と言って笑いを呼んでいたが、演奏中にさまざまな位置からステージで躍動するメンバーの姿を撮影していたCARLOSを含め、結成してまだ1年とは思えないフィーリングやグルーヴのシンクロ性を感じる面々だ。

 全くの初見なのだが、軸となるのはジャズ・ファンク・ヒップホップ(ラップ)ということになるのだろうか。哀愁や色香が薫るアダルトなサックスや鍵盤に、心と体躯を躍らせるビートを繰り出すパーカッションやドラム、そこへ焚きつけるようなラップが流動的に絡み合う。

 辣腕揃いのメンバーゆえ、テクニックがどうこうというのは愚問で、何よりも一瞬にしてグルーヴの渦でフロアを包み込むエナジーと躍動感が耳目を惹き付ける。NAGAN SERVERの畳み掛けるラップは、胸に宿る感情を直情的に発露するパッションが迸りながらもビタースウィートな声色もあって、KREVAのそれを想起させる瞬間も。ただ、鋭く切りかかるというより、肩に手を回し、手を引き、ともに興奮を昂ぶらせていこうとするハートウォームなアティテュードが声に滲んでいることもあって、フロアを一体化させるアジテーションとしても有機的に働いている感じがした。NAGAN SERVERは曲の間や曲中で幾度も「遊んでる?」「楽しい?」と語りかけていたが、フロアとともに"楽しめる”ということが、何よりも彼らたちのご馳走であり、恍惚の瞬間ということなのだろう。

 後半には、ジャクソンのパーカッションと松浦のドラムとのセッションに感化されたNAGAN SERVERが、「こんなの見せられたら……やるしかない」と松浦とセッションへ。「失敗する可能性は……ゼロです!」との宣言通りにフロウを決めると、その流れのままにメンバー全員で白熱するグルーヴと興奮を宿らせていく。音楽を介してフロアに享楽という一体感を沸き起こした瞬間だったといえよう。

 現在はアルバムを制作中とのこと。「最高の音楽をやってるつもり……いや、やってる!」と自負する楽曲がどのような形で創られていくのか。たっぷりと唸らせてくれるようなアルバムの誕生に期待したい。

NAGAN SERVER and DANCEMBLE

 パジャ海としての公演を観賞するのは今年で4回目。前回は6月の渋谷Spotify O-nestでの、仏のソウル/ジャズ・ファンク・バンドのファンクインダストリーやポップ・バンドのLaura day romanceらとの対バンイヴェント〈O-nest presents colors〉(→「Funkindustry / パジャマで海なんかいかない @O-nest〈colors〉(20230627)」)以来だから、約3ヵ月ぶりとなる。初めて"パジャマで海なんかいかない”という名を目にした時、「中二病を拗らせた初期衝動だけで突っ走っちゃうみたいなパンク、ロック系のバンドだろう」「それか、ヒゲダン(Official髭男dism)、ヤバT(ヤバイTシャツ屋さん)、ずとまよ(ずっと真夜中でいいのに。)みたいな通称で浸透=ヒットを狙ってるJ-POPバンドか」などと一瞥で終わってしまったが、ライヴを観賞するたびにネーミングの先入観だけで判断してしまい、チェックするのが遅れた自身を恥じるという情けないことになっているのは、ここだけの話だ。

 序盤は、パジャ海のバンド隊3名によるライヴの定番オープニング・インストゥルメンタル・チューンといえる「Dream Journey」で幕開けし、FiJA(フィージャ)とChloe(クロエ)のヴォーカル勢が加わって「Blue」「Rain」とアルバム『Trip』の比較的緩やかな楽曲を披露。そして、新曲を4曲並べてきた。日本にいるから日本語を分かってればいいんだと強がる昭和生まれのこれぞ日本人的な人間かつ、英語、特にリスニング能力が壊滅的なので、英語でスラスラと話されると脳内真っ白になるのだが、おそらく新曲の1曲目は「Mind Game」。清廉と甘美が薫るジャジィなミディアム・ネオソウル作風で、FiJAとChloeのしっとりとした、そして熱情も見え隠れするヴォーカルがたっぷりと味わえる。中盤でのハイトーンでの"It's mind game”(?)のリフレインからのフェイクがスウィートだ。

 2曲目では「Mind Game」よりも明澄で軽やかなミディアムで、爽やかな風や陽光を受けて伸びやかに歌うようなフックに多幸感が溢れる。その合間のバンドパートで、2名のヴォーカルに代わるかのごとく歌うように低音ベースを鳴らすHarunaとその躍動を過不足ないドラミングで後押しするSeiyaのコンビネーションに合わせ、Besshoがキラキラとした水面を想起させるウォームな鍵盤で吹き抜けていく展開は痛快だった。

 3曲目は"leave me alone” "記憶から消さないで"というフレーズも印象的な、グッと深みを増したミッドナイト・ラヴァー風R&Bか。中盤以降でSeiyaがほだされた情感を吐露するようなヒリヒリと焚きつけていくドラムを鳴らすなか、Besshoが対照的に安らぎや愛に触れられた心境が浮かぶような幻想的な鍵盤で包み込んでいくサウンドスケープを描いたラストは、穏やかに夜明けを迎えるようで美しいアウトロだった。

 4曲目は、新曲とはいえ「〈Trip〉を超えるインパクトの曲」として創られ、既にいくつかのステージで盛り上がりが"確定”した意欲作「Electric」。Besshoのコーラスも加わった、オーディエンスとの「何が始まる 踊りたくなる」のコール&レスポンスが快哉と愉悦を呼び込む曲だが、それ以上にベース、ドラム、鍵盤が生み出す快活なグルーヴに心酔できる。ネオソウルやヒップホップの"ボトム”を嗜好するタイプなら、その心地よさが分かるのではないだろうか。

A.Valley & MJ the Sensei

 終盤は、A.ValleyとMJ the Senseiのラッパー2名を招いてのスペシャルゲスト・セクションへ。FiJAとChloeが一旦ステージアウトして、MJ the Senseiが登場。インストゥルメンタル曲「HARU」にラップを乗せて、ヒップホップ・チューンへと昇華。MJ the Senseiが「オレハヒトリジャナイ」と言うと、パジャ海のタオルを頭に被せたキャップ姿のA.Valleyがステージインし、早速オーディエンスとのコール&レスポンスでフロアのヴォルテージをさらに上げていく。

 MJ the Senseiがマイクを持ち、Nujabesやケロ・ワン(Kero One)あたりを想わせるジャジィ・ヒップホップを展開すると、それまでのネオソウル然としたムードからヒップホップのそれへと景色が一変。さらにA.Valleyの登場でデ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クエスト、メイン・ソース、ザ・ルーツなどの東海岸のオルタナティヴ・ヒップホップのスタンスへ。Seiyaが刻むチチチチというドラミングから移行するドラムンベースや、Harunaの(表現は難しいのだが)頑強なボトムを鳴らすベース然としたものではなくて、決して大きくはない身体を揺らしながら、歌うように弾ませるベースに、Besshoが滑らかな鍵盤でネオソウルやヒップホップの要素を包含しながらジャジィなテイストに纏め上げるというアプローチは、ロバート・グラスパーがロバート・グラスパー・エクスペリメント名義でジャズ、ラップ、ヒップホップ、R&Bなどのブラック・ミュージックを邂逅、融合させた『ブラック・レディオ』シリーズのそれに近いものかもしれない。

 これは、Besshoがロバート・グラスパーを意識しているという訳ではなくて、あくまでも立ち位置の話ではあるが、このステージでA.ValleyとMJ the Senseiのラッパーがフィーチャーされたことで、ヤシーン・ベイ(旧名モス・デフ)をフィーチャーした「ブラック・レディオ」や、コモンとパトリック・スタンプを迎えた「アイ・スタンド・アロン」などに親和性を感じたり、Seiyaのドラミングがロバート・グラスパー・エクスペリメントのドラマー(初代)で、セルフコンテインドR&Bグループのミント・コンディションやマックスウェル『BLACKsummer'snight』、日本では宇多田ヒカル 『初恋』に参加した名ドラマー、クリス・デイヴのマナーっぽく感じることもあったことが、その印象を強めたかもしれない。
 ただ、全てがそうということでもなく、時にヒップホップよりもソウルやR&Bソウル/ロックに重心を寄せたようなアレンジも見え隠れするゆえ、ロバート・グラスパーというよりも、ディアンジェロがディアンジェロ&ザ・ヴァンガード名義でリリースした『ブラック・メサイア』に親和性を感じたりする音もあるから、パジャ海=和製ロバート・グラスパー・エクスペリメントみたいな安易な惹句には無縁ではある。

 考えてみれば、クリス・デイヴは『ブラック・メサイア』にも参加しているし、ロバート・グラスパーであれ、ディアンジェロであれ、そのあたりの音の影響や"探り方”という部分ではメンバーそれぞれにもちろん共通・共感するところがあってしかるべきだと思う。だが、そういった根幹の上で、実験精神に偏重し過ぎないポップネスの創出を意識したBesshoが、オリジナリティ溢れる音を奏でる才を有したメンバーたちのリズムやグルーヴを最大限に活かすバランス感覚で指揮ぶりするセンスが、パジャ海の強みでもあるのではないだろうか。

 そんなことが頭の片隅でチラチラと顔を覗かせながらも、しっかりとフロアキラー・アンセム「Trip」のヴァイブスの渦の中へ。後半ではA.ValleyとMJ the Senseiが意気揚々としたフロウを畳み掛け、いつもの「Trip」とはまた異なる高揚を生んで、パジャ海サウンドとヒップホップとの浸透性を改めて認識した次第。

 アンコールは、本編の鋭気が滾る「Trip」から一変し、パジャ海の音楽性の深みを感じられるような、憂いと悲哀が伝わるソウル・バラードへ。FiJAのハイトーン・ファルセットが静謐を突き抜けるなか、Besshoの嵐の前の静けさを感じさせる打ち寄せるさざ波のように弾かれる鍵盤から、NAGAN SERVERが登場。リリシスト然としたフロウでヒリヒリとした緊張感とともに痛快に駆け抜けて、再びFiJAのファルセットへと帰結してのエンディングとなった。スリリングに、ジョイフルに、緩やかに、シリアスにと喜怒哀楽のさまざまな表情を、彼らが備えた音と音楽性振幅の広さで示したパフォーマンス。その音やグルーヴの余韻が身体に充溢するなか、代官山を後にした。

パジャマで海なんかいかない

◇◇◇
<SET LIST>
≪PAJAUMI SECTION≫
00 INTRODUCTION
01 Dream Journey
02 Blue
03 Rain
04 New Song(”Mind game”)
05 New Song 
06 New Song("Don't forget me")
07 Electric(New Song)
08 HARU(special guest with A.Valley and MJ the Sensei)
09 Trip(special guest with A.Valley and MJ the Sensei)
≪ENCORE≫
10 New Song(guest with NAGAN SERVER)

<MEMBERS>
パジャマで海なんかいかない are:
Bessho(別所和洋 / key)
FiJA(vo)
Chloe(Chloe Kibble / vo)
Haruna(まきやまはる菜 / b)
Seiya(小名坂誠哉 / ds)

Special guest:
A.Valley(rap)
MJ the Sensei(rap)
NAGAN SERVER(rap)

NAGAN SERVER and DANCEMBLE are:
NAGAN SERVER(vo,b)
TAKESHI KURIHARA(栗原健/sax,effector)
TAIHEI(key / Suchmos, 賽)
松浦千昇(ds)
JACKSON(b,perc)

OPENING / INTERMISSION DJ:水野蒼生

◇◇◇
【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
2023/04/23 パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
2023/05/19 Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)(Chloe出演)
2023/05/21 EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)
2023/06/27 Funkindustry / パジャマで海なんかいかない @O-nest〈colors〉(20230627)
2023/09/18 パジャマで海なんかいかない / NAGAN SERVER and DANCEMBLE @代官山UNIT〈DEEP DIVE〉(20230918)(本記事)


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