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黒川沙良 @BANK30(20231225)

 安らぎと感謝で湛えたクリスマスナイト。

 アーバンなウォーターフロント竹芝にあるラグジュアリーオーシャンビューラウンジ「BANK30」にて、シンガー・ソングライター/ピアニストの黒川沙良が恒例ともいえるイヴェント〈TALIKA JAPON presents MOMENT feat. 黒川沙良〉を開催。クリスマスの夜らしい選曲で、2023年を締めくくった。

 BANK30での公演は、30分のインターミッションを挟み、30~40分程度のショウを2セット。ライヴというよりもリサイタルの雰囲気が強いが、クリスマス・ナイトというタイミングもあって、ほどよい華やかさと滋味に満ちたステージとなった。

 R&B/ソウルマナーの楽曲も少なくない黒川だからか、ダニー・ハサウェイの「ディス・クリスマス」からスタート。「私がクリスマスを一人で過ごしたくないから」という理由で、クリスマス当日にライヴを開催したとのこと。ここでギターの藤山周を招き入れて、(年末になると1年のリスニングの〈まとめ〉を知らせてくれる)Spotifyで今年2番目に聴いた楽曲(1番は自身の曲とのこと)というマニ・ロングの「アワーズ・アンド・アワーズ」(「Hrs & Hrs」)を。マニ・ロングはプリシア・レネイ(Priscilla Renea)名義では正直パッとしなかったが、リアーナやメアリー・J.ブライジ、アリアナ・グランデ、マライア・キャリーらのコ・ライトなど作家として活躍し、2020年からマニ・ロング名義で始動。昨年はH.E.R.のグラミーノミネート曲「バック・オン・マイ・マインド」の共作でも話題となった。TikTok経由という現代らしいアプローチでバイラルヒットした「アワーズ・アンド・アワーズ」だが、ここではアコースティックギターの爪弾きが響くシンプルなアレンジで披露。どこか物憂げなモードに聴こえがちな黒川の歌唱は、原曲のマニ・ロングもやるせなさや物悲しさが伝わる歌唱だが(ほんのりブランディっぽさも)、黒川のそれは音数が少ないせいか、よりグッと沁みる感じもした。

 一転して明澄なギターと鍵盤で朗らかに歌った「いいじゃん」でジョイフルな表情を見せた後は、2023年の振り返りを藤山とともに。藤山はライヴに明け暮れた1年とのこと。黒川は、テレビ東京系特撮ドラマ『ガールズ×戦士』シリーズの出演者でもあるガールズ・パフォーマンス・グループのGirls²(ガールズガールズ)とLucky²(ラッキーラッキー)のヴォーカル指導やレコーディング、ディレクションなど仕事に燃えた1年で、プライヴェートでは1人で初めて海外(スペイン)へ旅行したこととのこと。普段触れることのない世界に触れて刺激を受けたようなので、この体験が今後楽曲制作や歌唱に活きてくるのかもしれない。

 海外旅行の経験を受けて「小さな世界に飲み込まれないで 世界は広い」と歌われる「Blue」を終えた後は、クリスマス・ソングと聞いて多くが思い浮かべる定番曲のひとつで、ナット・キング・コールのヒットで著名な「ザ・クリスマス・ソング」へ。暖かい暖炉や家族で過ごすアットホームなクリスマスの夜が目に浮かぶような、ハートウォームで安らぎのあるムードを作っていく。黒川がクリスマスの夜に一人で歩いていた時に目に入ってきた仲睦まじいカップルたちを見ていたら、頭に沸いてきたという「Silent Night」では、R&Bマナーのビタースウィートなメロディと切ないヴォーカルが、雪の冷たさや冬の寒さが身に染みる切ない心境を描き、それぞれ異なるクリスマスの夜の光景が浮かびあがらせていた。

 2ndは、昨年以降に発表した楽曲を中心に選曲。まずは、黒川の電子ピアノ弾き語りで「Pulse」「Secret Call」といった、なかなか想いが届かず、もどかしい感情のやりどころに迷う、報われないラヴソング群は、R&B楽曲の定番ではあるけれど、張り裂けそうな胸をグッと堪えるような黒川の翳りを帯びたヴォーカルもあって、グッと深みとセンチメンタリズムが伝うアクトとなった。

 R&Bのバラードを作りたいということから生まれた「LOVE」は、R&Bラヴソングの王道ともいえるミディアム・スローで、“Love Love Love Lovin' you」というフレーズとファルセットにしっとりとたゆたうピアノのコードが寄り添う、スウィートな仕上がりに。再び藤川を招き入れての「また来世」は、ほとんどが愛しい彼との日々を綴っていながら、別れを示唆する“また来世”というワンフレーズで穏やかな表情が急変。藤山の爪弾く優しいギターとゆっくりと歩みを進めるような歌い口は終始安らぎが漂うのに、そのワンフレーズで感情がガラッと変わるのは、ヴォーカルディレクションの和田昌哉の手腕か。

 12月27日のリリースとなった新曲「あなたの太陽でいたいから」は、月のようなイメージだった自分が、太陽のようになれたらいいという気持ちを込めて作ったという。久保田利伸やCHEMISTRY、JUJUなどの編曲で知られる川口大輔がアレンジを担当したこの曲は、瑞々しい鍵盤と晴れやかなヴォーカルワークもあって、前向きで希望に満ちたものになった。

 その明るさを受けた2ndラストは、人気曲の一つでもある「ガールズトーク」。この日唯一ともいえるリズミカルなポップ・チューンで、オーディエンスのクラップを受けながら、楽しげに歌ってのエンディングとなった。
 アンコールは、“感謝”を冠した「Appreciate」を。黒川がファンへの日頃の感謝の想いを、抑揚や強弱をつけながら、たっぷりと詰め込んで歌い上げていた。

 しっとりと、そして煌びやかなエンディングは、クリスマスの夜に余韻を残すスペシャルな演出に。その余韻に来年の飛躍への期待を重ねながら、イルミネーション輝く竹芝を後にした。

◇◇◇
<SET LIST>
≪1st Set≫
01 This Christmas(Original by Donny Hathaway)
02 Hrs & Hrs(Original by Muni Long)
03 いいじゃん
04 Blue
05 The Christmas Song(Chestnuts Roasting On An Open Fire)(well known as the Nat King Cole song)
06 Silent Night

≪2nd Set≫
01 Pulse
02 Secret Call
03 LOVE
04 また来世
05 あなたの太陽でいたいから
06 ガールズトーク
≪ENCORE≫
07 Appreciate

<MEMBERS>
黒川沙良(vo,key)
藤山周(g)

◇◇◇
【黒川沙良に関する記事】
2020/09/12 黒川沙良「イイネシナイデ/ブリコー」
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黒川沙良 @BANK30(20231225)(本記事)


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