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INCOGNITO @BLUE NOTE TOKYO(20241221)
愛と感謝を込めながらフロアを揺らした、45年を祝す饗宴。
80年代にアシッド・ジャズ・ムーヴメントを牽引して以来、クラブシーンを超えて活躍を続けている、ジャン=ポール・“ブルーイ”・モーニックが総帥を務めるジャズ・ファンク・コレクティヴ、インコグニートの45周年アニヴァーサリー来日公演も後半戦。前日に熱狂を巻き起こした高崎芸術劇場(スタジオシアター)から場所をブルーノート東京に移して、自身の45周年の活動とイヤーエンドを祝した。
高崎公演(記事→「INCOGNITO @高崎芸術劇場(20241220)」)は前方スタンディングでの2時間強といういやが上にも盛り上がり必至のスタイルだったが、ブルーノート東京公演はそれより時間は30分ほど短縮。演奏曲数も減らしてはいるが、総勢14名がステージから溢れんばかりにギュッと所狭しに配されているのと同様、ブルーノート東京ならではの緊密性で、前日に比肩する快活なグルーヴを届けてくれた。
高崎では、ちょっとした所作からブルーイの腕やドラムのフランチェスコ・メンドリアの足(?)の状態が気がかりだったが、大きなダメージはなかったようで一安心。時間がコンパクトになるゆえ、セットリストも変更。そのためか、ブルーイがヴォーカリストの紹介するタイミングを間違えて、“忘れやすいオジサン”と自虐して笑いを取る場面もあった。
この日は、高崎で披露した「エクスプレッソ・マドゥレイラ」はカットして、バンド演奏が始まるとともに登壇したナタリー・ダンカン以下4名のヴォーカリストのスキャットによる「シンキング・アバウト・トゥモロー」から幕開け。続く「トーキング・ラウド」で“ヴォイス・オブ・インコグニート”ことメイザが満を持して登場。深みと奥行きをもたらすヴォーカルワークで貫禄を示した。
ゼビュロン・エリスが天に突き刺さるかのごとくのホイッスル・ヴォイスを駆使し、迫力と技巧で感嘆を呼んだスティーヴィー・ワンダーの名曲「アズ」(永遠の誓い)を歌い終えると、ブルーイも思わず「ナンデスカー!」と一言。「アウトロで披露した(声の)メッセージは、ロサンゼルスにいるスティーヴィーにきっと届いているよ!」という賛辞も送っていた。また、チャーリー・アレンによる手練なギターも映える演目となった。
高崎では演奏しなかった「ルーツ」を組み込んだ後は、この日はフード&キャップを被らずに登壇したジョー・サムのフットワーク良く跳ねるベースとキッコ・アロッタの鍵盤とのジャムを経て、ジョアン・カエタノとフランチェスコ・メンドリアの“元気ドラマーズ”による興奮の融点を超える超絶のドラム・セッション「スーパーソニック・ロード・スモー」へ。近年のインコグニート公演では恒例だが、その技巧とシンクロ性、破壊力は、いつ見ても目を見開くほど圧倒的だ。
その刺激的かつ圧巻なパフォーマンスの余韻を、しなやかに麗しいメロディを堪能させる空気へ持っていったのが、キッコ・アロッタ。“ドレミ”音階で歌う「1993」に、前日より短めに坂本龍一「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」(戦場のメリークリスマス)の一節をプラスして、親しみと美しさが伝う声のマジックを披露してくれた。
メイザがリード・ヴォーカルを執る『ポジティヴィティ』からの一曲「スマイリング・フェイセズ」は、ブルーイいわく「日本に来た時(前日には渋谷の交差点で歩く日本人たちを見てと言っていた)、笑顔でいる日本人たちからインスピレーションを受けて曲を書いたんだ」とのこと。日本人にとっては嬉しい、ブルーイの親日家としての始まりの一つとなったエピソードとも言えるだろう。
ヴォーカル陣のなかでは唯一バックヴォーカルとしてクレジットされたものの、メリハリあるハーモニーやコーラスでヴォーカルに厚みを加えていたメーガン・カーンの美麗な独唱の導入から、メイザにリード・ヴォーカルを引き継いでの「ドント・ユー・ウォリー・アバウト・ア・シング」でヴォルテージがさらにグッと高まると、ブルーイの「ワン・モア!」の発声を機に「オールウェイズ・ゼア」へ雪崩れ込み。これまでも印象的なアクセントを加えていたホーン・セクションが興奮の高みへの道しるべとなって胸躍らせ、14名による心を豊かにする愛すべきアンサンブルが、フロアの隅々までに愉悦をもたらした。
2部制で行なわれるブルーノート東京公演とあって、高崎よりは曲数が少なく、楽曲によってはショート・ヴァージョンのアレンジでまとめたものもいくつかあったが、それでも大勢が凝縮したステージから放たれる圧倒的なグルーヴと、テンポよく展開していくパフォーマンスでオーディエンスを存分に魅了。今回も、日本を愛し、未来の世代へのメッセージを伝え、ハッピーなヴァイブスのまま、ダンサブルな宴は幕を閉じたのだった。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Thinking About Tomorrow
02 Talkin' Loud (M)
03 Still a Friend of Mine (M)(Z)
04 Keep Me in the Dark (N)
05 Nothing Makes Me Feel Better
06 I See the Sun (D)
07 As (original by Stevie Wonder) (Z)
08 Roots (Back To A Way Of Life) (N)
09 Bass-Keyboard session ~ Supersonic Lord Sumo(Drum-Percussion session)
10 1993 / Merry Christmas Mr. Lawrence (original by Ryuichi Sakamoto) (C)
11 Smiling Faces (M)
12 Don't You Worry 'bout a Thing (original by Stevie Wonder) (M)
《ENCORE》
13 Always There (original by Ronnie Laws, well known as Side Effect song) (M)
14 OUTRO~BGM "One Love" by Bob Marley
(M): Lead vocal by Maysa
(N): Lead vocal by Natalie Duncan
(D): Lead vocal by Deborah Bond
(Z): Lead vocal by Zebulon Ellis
(C): Lead vocal by Chicco Allotta
<MEMBERS>
Jean-Paul 'Bluey' Maunick / ジャン=ポール “ブルーイ” モーニック(g)
Natalie Duncan / ナタリー・ダンカン(vo)
Deborah Bond / デボラ・ボンド(vo)
Zebulon Ellis / ゼビュロン・エリス(vo)
Megan Khan / メーガン・カーン(back vo)
Sid Gauld / シド・ゴウルド(tp)
Trevor Mires / トレヴァー・マイアズ(tb)
Andy Ross / アンディ・ロス(sax,fl)
Francesco Mendolia / フランチェスコ・メンドリア(ds)
Chicco Allotta / キッコ・アロッタ(key.vo)
Joao Caetano / ジョアン・カエタノ(perc)
Charlie Allen / チャーリー・アレン(g)
Joe Sam / ジョー・サム(b)
Special Guest:
Maysa / メイザ(vo)
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