BONNIE PINK @Billboard Live TOKYO(20231213)
新旧楽曲を旬の彩りで紡いだ、朗色湛えたステージ。
9月の約11年ぶり(!)となる13thフルアルバム『Infinity』リリースに先駆けて、7月より同作をタイトルに冠したツアー〈BONNIE PINK LIVE 2023 ”Infinity”〉を展開してきたBONNIE PINKが、12月に大阪と東京にてビルボードライブ公演を開催。その〈BONNIE PINK Billboard Live 2023〉東京公演を観賞。7月スタートのツアーから考えれば、これにて『Infinity』を掲げたライヴは締めということになるか。その2ndショウは3~5階まで満員で、あらためてBONNIE PINKの人気を肌で実感することになった。
バンドメンバーは、左前方からギターの八橋義幸、キーボードの松本圭司、ドラムの白根賢一、右端にベースでバンマスの鈴木正人という布陣。松本以外はおなじみの面々で、ツアーではこちらもおなじみの奥野真哉や、レミオロメンをはじめ、秦基博、CHARA、ポルノグラフィティなどのサポートも行なう皆川真人がキーボードを担当していたようだ。松本は葉加瀬太郎のバンドへの参加やT-SQUAREのメンバーとして注目され、T-SQUAREを離れてからは、自身のソロ活動のほか、ゴスペラーズ、中島美嘉、森山直太朗などのサポートや編曲家として活躍している、ジャズ/フュージョン畑出身の鍵盤奏者で、BONNIE PINKとは同い年とのこと。
長年制作やライヴを共にした気心知れた盟友たちとのステージゆえ、演奏については抜群の安心をもって聴ける。とはいっても、何度も演奏してきた手慣れたアレンジを繰り返すということはなく、バンマスの鈴木を中心に、楽曲が有する世界観を土台としながら、現在のBONNIE PINKの声色とマッチするような、それでいて旬の音楽性も踏まえたアプローチを考慮した肌感覚のアンサンブルで纏め上げていく。
お団子ヘアにカラフルなフリンジがついた民族衣装風のブルーのロングススカートドレスという出で立ちで登場したBONNIE PINK。フリンジ付きの民族衣装風といっても、たとえば、チベットや中南米などのエスニックな感じというよりも、トータルであまり色がごちゃごちゃしない北欧っぽさを感じる佇まいだ。結婚、出産を経て、フェスや客演したアーティストのステージなどを含めて、断続的に歌ってきたBONNIE PINKだが、昨年11月にビルボードライブ公演〈BONNIE PINK Billboard Live "Hello Again"〉(記事→「BONNIE PINK @Billboard Live YOKOHAMA」)の開催後、加速度を高めて再始動してきたなかで、「アルバム出すぞ出すぞ詐欺」(笑)の終結となった『Infinity』をどのように“調理”していくのかにも注目していた。
通常2部制で行なわれるビルボードライブ公演ということもあって、時間的なことも考慮してか、『Infinity』の楽曲を軸としながらも、ガッツリとアルバム曲を演奏するのではなく、過去の楽曲も取り入れた構成。だいぶ懐かしい「Your Butterfly」(1998年)から幕を開けたステージは、ほぼ1曲置きに『Infinity』収録曲を挟みながら展開。「Broken Hearts, City Lights and Me Just Thinking out Loud」を終えた後のMCで、BONNIE PINKの楽曲にちなんだドリンク「ギムレット」「Irish Coffee」を3名限定で(BONNIE PINKによるくじ引きで)観客にプレゼントする粋な計らいの後に「Irish Coffee」を演奏したり、度々挟むMCではメンバーとのトークがついつい長くなり、ついにはBONNIE PINKからの押しが実ったか、フロントにビラビラの襞がついたシャツ&シースルー、ディオールの装飾を纏った派手やかなファッションの白根が鳥羽一郎「兄弟船」の独唱を披露(「おれと兄貴のヨ~ 夢の揺り籠さ~」を「おれとBONNIEのヨ~」と替え歌も)するなど、終始ジョイフルなムードが漂う、微笑ましい瞬間がいくつもあった。
個人的には『Infinity』のなかでは、「Like a Tattoo」「Bittersweet」「Butter」あたりが特に気になっていたので、そのうち「Like a Tattoo」を除く2曲を聴くことができて良かった。序盤に早速披露された「Butter」は、ラップ風の早い歌回しとなかなか抑揚の激しいヴァースから、ニヤリと笑みをこぼしそうな粋も感じる痛快なフックへと展開する、軽快ながらもなかなかに難しいファンクロックだが、ツアーで歌い上げてきたヴァイブスがしっかり脂となって歌唱に乗ったようで、フットワークの軽い、晴れやかなグルーヴで魅了。続く「Broken Hearts, City Lights and Me Just Thinking out Loud」への流れも(選曲含めて)見事だった。
エスニックでオリエンタルなアクセントが耳を惹く「World Peace」を歌い終えると中央に運んだスツールに腰かけ、人気のラヴソング「Last Kiss」へ。松本のキーボードのみがそっと寄り添う1番を経て、次第にバンドが加わるアレンジも琴線に触れるのに十分だが、何よりBONNIE PINKの歌唱が好調。特にハイトーンやファルセットに淀みがなく、それでいて単に清らかなのではなくて、微かに軽いトゲの痛みを感じるようなセンチメンタルを含んでグルーヴを生んでいて、素直に「ああ、これがBONNIE PINKの声だ」と感じたのだった。
「Last Kiss」が終わった際には、同曲をプロデュースしたトーレ・ヨハンソンの話を。BONNIE PINKが活動再開を伝え、アルバム制作を一緒にしないかと誘った際に、当初はその予定だったものの、実は既に音楽活動はやり切ったということで、現在は木工彫刻やインテリアなどの創作活動に専念しているらしく、「やはり制作参加は難しい」と断念したとのこと。BONNIE PINK自身は何とかヨハンソンの重い腰を上げさせようとしたそうだが、結果実現せず。そんな経緯のなか、キーボードの松本と「いつ引退するか」という話を交わしたようで、さまざま考えることが増えたりはするが、歌い続けられる限り歌いたいし、まだ引退は考えてないとの言葉に、観客からは温かい拍手が送られていた。
中盤には、ビルボードライブ公演では恒例になりそうな“BONNIEの青春ソング”カヴァーを。前述の昨年11月末のビルボードライブ横浜公演ではオリヴィア・ニュートン=ジョンの「フィジカル」を歌ったが、本公演ではプリンスがザ・ファミリーに書き、その後90年にシネイド・オコナー(当時はシニード・オコナー、シンニード・オコーナーなどさまざま表記があり。その後、イスラム教に改宗してシュハダ・サダカットへ改名)が世界的にヒットさせた「ナッシング・コンペアーズ・トゥー・ユー」(邦題「愛の哀しみ」)をカヴァー。前回はオリヴィア・ニュートン=ジョンの追悼を込めて歌ったが、今回も7月にオコナーが死去しての追悼カヴァーとなった。プリンスを意識した襞つきのシャツを着た八橋の昂ぶるギターの嘶きと、伸びやかなBONNIE PINKの歌声が折り重なって、レクイエムとなって響いているような気もした。プリンス版とシネイド・オコナー版の中間を意識したようなアレンジを手掛けた鈴木の仕事もさすがの腕利きだった。
白根による「兄弟船」独唱で沸いたところで、再び「Bittersweet」からBONNIE PINK楽曲へ復帰。代名詞となったビッグヒット「A Perfect Sky」はコール&レスポンスも交えての熱唱。何度も言うようだが、この日はハイトーンが素晴らしい。自身もその調子ぶりと楽しさを実感しているからか、フェイクも波乗りのように跳ね、フロアの熱気をさらに上昇させていく。
本編ラストは『Infinity』収録曲から「Control」を。途中から背後のカーテンが開き、ミッドタウンガーデンのイルミネーションの輝きとともに充実感溢れる演奏と歌唱で本編を締めた。
アンコールは、引き続き綺麗な輝きが注ぎ込むなかで「Is This Love?」をチョイス。“Flash Flash Is this love?”のフレーズとともに右腕を突き上げ、クラップやコール&レスポンスとともにフロア全体が愉悦に包み込まれた大団円となった。歌い終わった瞬間に口にした「楽しかったー!」という快哉の言葉に、BONNIE PINKの歌うことへのポジティヴな意識としっかりとエンジョイできたという充溢が垣間見えたようだった。
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<SET LIST>
01 Your Butterfly
02 Butter (*I)
03 Broken Hearts, City Lights and Me Just Thinking out Loud
04 Irish Coffee (*I)
05 World Peace
06 Last Kiss
07 Waiting 4 U (*I)
08 Infinity (*I)
09 Nothing Compares 2 U(Original by The Family, also known as Sinead O'Connor singing)
10 MC ~ 兄弟船(a cappella by 白根賢一, Original by 鳥羽一郎)
11 Bittersweet (*I)
12 A Perfect Sky
13 Control (*I)
≪ENCORE≫
14 Is This Love?
(*I):song from album "Infinity"
<MEMBERS>
BONNIE PINK(vo)
鈴木正人(b)
八橋義幸(g)
松本圭司(key)
白根賢一(ds)
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【BONNIE PINKのライヴに関する記事】
2005/10/24 BONNIE PINK@東京厚生年金会館
2006/09/28 BONNIE PINK@東京厚生年金会館
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2007/10/26 BONNIE PINK@日本武道館
2008/09/26 BONNIE PINK@NHKホール
2009/07/31 BONNIE PINK@赤坂BLITZ
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2014/12/16 BONNIE PINK@O-EAST
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2015/12/19 BONNIE PINK@Zepp Tokyo
2022/11/29 BONNIE PINK @Billboard Live YOKOHAMA
2023/12/13 BONNIE PINK @Billboard Live TOKYO(20231213)(本記事)
もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。