
Musiq Soulchild @BLUE NOTE TOKYO(20250112)
ネオソウルの申し子が湛えた、R&Bの醍醐味と恍惚のグルーヴ。
ネオソウル・シーンから数々の“ポスト・スティーヴィー・ワンダー”と称される逸材がデビューした際、その最右翼とされたミュージック・ソウルチャイルドの来日公演から2025年のライヴ観賞はスタート。2019年10月のブルーノート東京公演は台風のため来日キャンセル、2020年5月の同公演はコロナ禍によるパンデミックで公演延期と、近年予定されていた公演は立て続けに中止となっていたため、2016年の東京と大阪のビルボードライブ公演以来の久しぶりの来日となる。個人的には2016年は残念ながら観賞出来なかったため、その前年の2015年のビルボードライブ東京公演(→記事「Musiq Soulchild@Billboard Live TOKYO」)以来、約10年ぶりにミュージック・ソウルチャイルドのステージを観ることになった(十年一昔というが、本当にそんなに時が経ったのか! というのを実感)。
メンバーは、左からドラムのデショーン・アレン、中央にベースのアール・ジョーダン(メンバー紹介の時は“EJ”と言っていた)、右にミュージックディレクターでキーボードのコートニー・ドワイトがバンド隊として、ポーラ・アブドゥル風のカーリーアフロヘアのチャスティティ・ヒンソン、クロップ風の短髪ショートのユニセックスな感じのブリアナ・ヴォーンの女性2名がコーラス&ダンサーとして、それぞれミュージック・ソウルチャイルドをバックアップ。特に女性2名はミュージック・ソウルチャイルドとヴァラエティ豊かなコンビネーションを披露。情感豊かな表情やポージングを駆使した挑発的・誘惑的なダンスで楽曲の導入を華やかに飾ったかと思うと、ミュージック・ソウルチャイルドの両脇の近い距離で歌うのだが、ステージの左端、右端、そして中央と曲ごとあるいは曲中に立ち位置を変えていく。時には、女性ヴォーカル2名が左、その対角となる右端にミュージック・ソウルチャイルドが対峙するように顔を見つめながら歌ったかと思えば、スツール(椅子)に座りながら語り掛けるようなシーンを描き出すなど、構図の変化で楽曲の世界観を投影させる着想と演出で、楽曲の説得力を増幅させていたのは良かった。また、ミュージック・ソウルチャイルドはオーヴァーオールの上部を折り返し、ヒンソンとヴォーンはデニム地のパンツと、ヴォーカル陣がともに同色のデニム地で揃えるなど、“チーム・ソウルチャイルド”といったフレンドシップも窺わせ、視覚でも楽しませてくれた。
メジャー期の『ミュージックインザマジック』(2011年)の後、シリーナ・ジョンソンとレゲエ・プロジェクト(『9ine』)を始めたり、ザ・ハッスルを名乗ってオートチューンでサウス・ヒップホップ風の『ハッスル・ミュージック』を出した時はやや戸惑ったが、その後は軌道修正(笑)。出自がペンシルヴェニア州フィラデルフィアゆえ、“フィリー・ソウルを継承”という文字が付きまとうが、近年はジョージア州アトランタを拠点とし、当地の制作陣を登用しているから、サウンド的には“Aタウン”寄り。ただ、デビュー当時から耳にしている声色はフィリー・ソウルのそれだから、なかなかにややこしい。最後を歌い終えたミュージック・ソウルチャイルドがステージアウトするやいなや、アウトロとしてバンドが熱い演奏で盛り上がりを再燃させていたが、その時にアトランタのクランク代表格、ヤングブラッズの「プレジデンシャル」をバックに流していたから、やはり現在は“Aタウン”を軸としているのだろう。
2017年の『フィール・ザ・リアル』(ミュージック・ソウルチャイルド名義のアルバムとしては初めて全米100位以下となったこともあってか)の後はやや空いたが、2023年にヒット・ボーイとの共作『ヴィクティムズ・アンド・ヴィランズ』をリリース。それゆえ、近年の楽曲を多めに組み込んでくるかと予想したが、デビュー作『アイジュスワナシング』から7曲、2作目の『ジャスリスン』から3曲と、初期2作で約半数を占める“フィリー仕様”に。
それでも、各曲短くアレンジしてはいるものの、3作目以降の各アルバムからも1、2曲ほど組み込んだほぼオールタイム・ベストといった曲構成。余計なMCは廃して、極力スムーズに流れるような演出で、フィラデルフィアからアトランタへの移り変わりも併せて辿ったステージともいえるか。
過去の記事を読み返すと、案外もの足りなさを感じていた公演が少なくなかったのだが、「ハーフクレイジー」「イフユーリーヴ」「ティーチミー」あたりの序盤は、それをフラッシュバックさせるかのようだった。メリハリの効いたドラミングや、深みのある褐色のボトムを響かせるベース、鮮やかな色彩感をもたらす鍵盤とそれぞれの演奏は良いのだが、同期の音源との音圧の差なのか、バランスが不安定なのか、はたまたPAの問題なのか、要因は分からないが、音がややくぐもっていて、特にヴォーカルが埋もれてしまう感じに聴こえてしまっていた。ミュージック・ソウルチャイルド自身や女性ヴォーカル陣も情趣深いヴォーカルワークを披露していただけに、惜しい時間だった。しかしながら、次第に修正され、女性ヴォーカル2名のみで歌った、パトリース・ラッシェンのカヴァー「セトル・フォー・マイ・ラヴ」(ミュージック・ソウルチャイルドは『アイジュスワナシング』にてアーリーズをフィーチャーしてカヴァー)あたりからは、ヴォーカルもしっかりと前へ出るように。「イエス」などでR&B王道の珠玉のミディアム・バラードを展開した。
アルバム曲以外では客演した楽曲もラインナップ。序盤ではザ・ルーツに客演した「ブレイク・ユー・オフ」を、中盤ではロバート・グラスパー・エクスペリメントがミュージック・ソウルチャイルドとクリセット・ミシェルを迎えた「アー・イェー」を披露。なかでも「アー・イェー」は一気にブラックネスを纏い、雰囲気を変えるチェンジャーの役割を担うとともに、クリセット・ミシェルのパートを務めた女性ヴォーカル陣が、ミュージック・ソウルチャイルドと対話するかの如く歌唱し、パッションを湛えていた。
「ドンチェンジ」で素早く客席にマイクを向けたら、反応があまりなく、つい自ら笑ってしまうこともあったが(おそらく流暢に英語が話せ、ミュージック・ソウルチャイルドの熱狂的“陽キャ”フリークが多かったら、そんな事態にはならなかったとは思う…苦笑)、陰影と抑揚を深く刻んだエネルギッシュなバンド・サウンドと、表現力多彩の女性ヴォーカル陣の熱演も奏功して、ミュージック・ソウルチャイルドの歌唱も高いレヴェルで安定。「ラヴ」「ソービューティフル」などのミュージック印の代表格ともいえるラヴソングでは、ホイッスルヴォイスやハイトーンファルセットを連発。心地よいグルーヴがフロアを支配していくにつれてヴォルテージも高まり、曲の最後を待たずに四方から歓声が響き渡った。
軽快なビートが駆け抜ける「フォーザナイト」でさらにギアが上がり、ヴォルテージの加速度が増すと、「これ知ってるかい?(知ってるだろ)」のフリから「ジャスト・フレンズ」へ。フロアがクラップの渦で包まれると、ラストは「バディ」でクライマックス。自身の顔をフロントのマークにデザインしたキャップとサングラスを外すことはなかったが、自身の音楽を愉しみ、音に揺れるオーディエンスを眺めて感謝を述べると、満足した表情でステージを離れたのだった。
序盤の音響の印象やフル・ヴァージョンで演奏した楽曲が少なかったこともあったが、ブルーノート東京公演ならではの緊密性と瀟洒なムード、レスポンスの良さもあり、特に中盤以降は瑞々しくたおやかなヴァイブスと心地よいグルーヴで充溢(過去の公演の印象から比べればなおさら)。R&B、そしてネオソウルの醍醐味を噛み締めることが出来た。憎めない、母性をくすぐるような人柄と、真摯にソウル・グルーヴを探求する姿は、まさに名は体を表すかのごとし。ソウル・ミュージック・チルドレンが放つ芳醇な音の薫香を存分に浴びた一夜となった。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Halfcrazy (*J)
02 ifuleave (*O)
03 teachme (*Lu)
04 Girl Next Door (*A)
05 Break You Off (original by The Roots feat. Musiq)
06 Settle For My Love(vocal by Chastity Hinson, Briana Vaughn) (original by Patrice Rushen) (*A)
07 Mary Go Round (*A)
08 I Do (*LE)
09 Previouscats (*J)
10 143 (*A)
11 yes (*M)
12 Ah Yeah (original by Robert Glasper Experiment feat. Musiq Soulchild and Chrisette Michele)
13 Whoknows (*S)
14 Dontchange (*J)
15 Love (*A)
16 sobeautiful (*O)
17 My Girl (*A)
18 Forthenight (*S)
19 Just Friends (Sunny) (*A)
20 B.U.D.D.Y. (*Lu)
21 OUTRO(sampling of "Presidential" by YoungBloodZ)
(*A):song from album "Aijuswanaseing"
(*J):song from album "Juslisen"
(*S):song from album "Soulstar"
(*Lu):song from album "Luvanmusiq"
(*O):song from album "OnMyRadio"
(*M):song from album "Musiqinthemagiq"
(*LE):song from album "Life On Earth"
<MEMBERS>
Musiq Soulchild / ミュージック・ソウルチャイルド(vo)
Courtney Dwight / コートニー・ドワイト(key, Music Director)
Earl Jordan / アール・ジョーダン(b, syn)
Deshaun Allen / デショーン・アレン(ds)
Chastity Hinson / チャスティティ・ヒンソン(vo, dance)
Briana Vaughn / ブリアナ・ヴォーン(vo, dance)

◇◇◇
【Musiq Soulchildに関する記事】
2007/07/05 MUSIQ SOULCHILD『LUVANMUSIQ』
2009/09/26 MUSIQ SOULCHILD@Billboard Live TOKYO
2012/05/08 MUSIQ SOULCHILD@Billboard Live TOKYO
2015/02/20 Musiq Soulchild@Billboard Live TOKYO
2025/01/12 Musiq Soulchild @BLUE NOTE TOKYO(20250112)(本記事)
いいなと思ったら応援しよう!
