見出し画像

HALLCA @CHELSEA HOTEL(20230108)

 二つの涙とシンガーとして芽吹いた自我。

 振り返ってみれば、2019年の自身の誕生日に行なわれたソロとしての本格的な初ワンマンライヴは、渋谷チェルシーホテル(→「HALLCA @CHELSEA HOTEL」)だった。それから3年強。再びこのステージに立ったHALLCAの心には、ソロシンガーとして生きる想いがより強く宿っていたはずだ。

 感情豊かなHALLCAだが、この日は別の意味で二つの涙をステージで見せた。一つは後半での「WANNA DANCE!」。「久しぶりに聞かせてください!」とコール&レスポンスを煽り、フロアからの生の声を耳にした瞬間に、思わず感極まってしまった。コロナ禍によってライヴ・スタイルに制限がなされ、ファンであるオーディエンスからの声を受けられずにいたことと、未曽有のパンデミックで物事が思う通りに進まず、精神的に厳しく、燃え尽きたような心境にもなっていた自身を重ねていたのだろう。

 もう一つは、アンコール明けのMCでバンドマスターのクマガイユウヤに「本当に、友達……」と言いかけての涙。「こんなに自分のことのようにやってくれる人はいない……ありがとう」とクマガイへの感謝を述べていたが、この日も本ライヴのためだけのアレンジを丹念に構成し、サウンドの指揮を担っていた。HALLCAはこれまでパーマネントなバンド・メンバーではなく、流動的にバックの面々が変化してきたが、安定したバンド・セット・パフォーマンスを遂行出来るのは、HALLCAバンド・サウンドの核となっている盟友・クマガイの存在が非常に大きい。もちろんテクニックという部分での信頼性もそうだが、最もバンド・サウンドに好影響をもたらしているのは、その人間性だ。

 バンド・セットのステージになれば、生音の迫力や音に厚みが増す、スケール感が大きくなるなど、その効果ばかりにフォーカスしがちだが、クマガイが仕切るバンド・セットはそれだけではない、付け焼刃で終わらせたくないという単純なものではなく、何か強い信念のような想いが伝わってくる。大袈裟に言えば、ライヴをHALLCAという壮大な人生の旅程にある一つの章と捉え、HALLCAを主人公としたそのステージで一つの物語を完結させるくらいの想いを秘めているのではないか。バンド・メンバーの選定も、主人公・HALLCAが輝くための“助演”に相応しいと思しき人物を連れてくるから、HALLCAが初顔合わせでもしっくりくるのも頷ける。そういった好転のサイクルが、HALLCAが全幅の信頼を置くクマガイの人柄と、二人の関係性から生まれているのではないだろうか。

 コール&レスポンスでの涙とクマガイやバンド・メンバーへの感謝の涙。そこには単に涙腺を緩ませたというだけではない、HALLCAの世界に触れることで心豊かにさせたい、支えてくれるバンド・メンバーたちの期待に応えられるシンガーになりたいという、HALLCAの確固たる信念と自我の芽生えがあったはずだ。その気持ちが、ようやくソロシンガーとしての成熟のレールへと乗り始めたのだ。

 HALLCAは非常に表情豊かな歌唱が持ち味だ。たとえば、Especia時代からの流れのポップスや黒さを感じる楽曲、シティポップやAORなど自身の嗜好の作風はじめ、さまざまなサウンドの色に染まることが出来るのも強みだ。ただ、正直なことを言えば、個人的にはそのフットワークの軽さや、憑依とまでは言わないが、すんなりと色を変えることを厭わないがゆえ、自身ならではのクセ、もっと言えば、シンガーとしての“惹き”が弱いというウィークポイントもあった。聴いていて心地よさはあるのだけれど、何か時には心を抉るような刺激や爪痕を残すまでには足らないと。
 
 しかしながら、この日のステージでは、さまざまに大胆な取り組みを企てて、シンガーや演者としてチャレンジを試みていた。冒頭の「Diamond」のイントロで変化をつけたのを皮切りに、これまではメンバー紹介を兼ねたソロパートで使われるなどライヴでの重要曲の一つでもあった「guilty pleasure」をヴォルテージが高まるところであっさりとクール&ジャジィな「Eternal Light」に、さらに小林洋介と寺谷光のCalmeraコンビによるホーン・セクションのブリッジを経由して「Dreamer」へ移行するという、どれもフル尺に適う楽曲を贅沢にシームレスに繋ぎ合わせるアレンジとともに、表面的な派手さだけではない、内なる情感の熱のようなものを歌唱とバンド・サウンドで表現していた。

 kiarayuiとタカハシリツとの過不足ないコーラスと重なることで、甘美やミステリアスな濃度を高めることにも成功した「Labyrinth」では、華やかさのなかに艶やかさをもたらし、本編ラストに披露した「Jewel Rain」では、これまで以上に物憂げでメランコリックな佇まいを窺わせ、歌唱にも深みを感じた。なによりも、歌に込められる意志、表現したいという思いの強さだけでなく、さまざまなアレンジに寄り添うなかでいかに魅惑的に伝えられるかという試行錯誤が、シンガーとしての振り幅を拡張させたのだと思う。

 そのさまざまなアレンジは、クマガイのもとに集められた気鋭の面々だからこそなし得た、大胆と遊びを包含。ファットなボトムと推進力あるドラミングで安定感をもたらすベースの高野逸馬とドラムの多田涼馬は、昨年2月のアルバム『PARADISE GATE』のリリース・パーティ(→「HALLCA @GARRET udagawa」)から引き続き名を連ね、HALLCAの高校時代からの親友kiarayuiも再び参加。キーボードの内村勇希、Calmeraのホーン隊の小林洋介、寺谷光、コーラスのタカハシリツは初めての参加となるが、やはりクマガイの指揮ぶりによるコンビネーションが奏功。HALLCAのヴォーカルを強調させる、カラフルで主張し過ぎない絶妙の塩梅で、軽快なリズムとグルーヴを重ねていく。

 「WANNA DANCE!」では明らかにルーサー・ヴァンドロス「ネヴァー・トゥー・マッチ」を下敷きにしたモードで演奏したかと思えば、「このヴァージョンもオシャレでいいけど、もっと〈WANNA DANCE!〉したい人!」というHALLCAの掛け声からアッパー・ファンク・テイストに変貌。前述のコール&レスポンスでのHALLCAの涙というハプニングとバンド・メンバーのソロパートというアクションが熱度に加速をつけ、フロアのヴォルテージを高めて「Dream Dancer」へ突入するという流れは、まさに“you can't stop the beat!!!”な胸高鳴るものに。このライヴの印象的なシーンの一つとなった。

 対照的に感傷的なムードで覆われた本編ラストの「Jewel Rain」では、HALLCAが歌い終わってステージアウトしたのをきっかけに、演奏を終えたメンバーが一人ずつステージを後にしていくという演出。これは“ハウ・ダズ・イット・フィール”のフレーズを繰り返しながらバンド・メンバーのソロを経て一人ずつステージアウトしていくディアンジェロの「アンタイトルド」でのパフォーマンスのオマージュか。最後は今回初参加となる内村勇希の儚くも麗らかな鍵盤で本編の幕が下りた。

 (演奏終了が予定より早かったということで)急遽1曲追加され2曲となったアンコールは、当初本来のラスト曲「Paradise Gate」にライヴ・タイトル〈Into a DREAM〉に由来し、昨年10月にリリースした2nd EP『Seaside Bar』の冒頭曲でもある「Dream Dancer」を改めて。当初はなかなかもどかしい日々が続くなかで、この日だけは夢のような空間で楽しみたいという思いも込めて〈Into a DREAM〉というタイトルを冠したのかもしれないが、この日は“夢の中へ”ではなく、しっかりと現実にオーディエンスの鼓動を鳴らすビートやグルーヴを舞い放ってくれた。

 3年前のチェルシーホテルで思い描いた“未来予想図”は、おぼろげなものになってしまったのかもしれない。だが、重ねた苦難や葛藤を経験値に、支えられてきた良き仲間たちや愛されているファンへの想いを活力の源に代えた今のHALLCAには、新たな未来予想図を描くだけの意欲とパワーが漲っている。アンコール明けのMCで照れながらボソッと「ジャズ箱でやりたい」という目標も吐露したHALLCA。2ndアルバム『PARADISE GATE』で描かれた輝かしい楽園への航路は、次にどのような光景で現れるのか。大いなる期待を抱きながら、2023年のHALLCAに注目していきたい。

◇◇◇

<SET LIST>
00 BAND INTRODUCTION ~"Into a DREAM"
01 Diamond
02 Inner Heaven (*SB)
03 Marble (*SB)
04 guilty pleasure
05 Eternal Light (Original by Blackstone Village feat. HALLCA)
06 Dreamer
07 Utopia
08 モイスチャーミルク
09 Labyrinth
10 コンプレックス・シティー
11 WANNA DANCE!(“Never Too Much” Remix)(Include phrase of “Never Too Much” by Luther Vandross)~ WANNA DANCE!
12 Dream Dancer (*SB)
13 Precious Flight
14 Jewel Rain (*SB)
≪ENCORE≫
15 Paradise Gate
16 Dream Dancer (*SB)

(*SB):song from EP『Seaside Bar』

<MEMBER>
HALLCA(vo,key)
クマガイユウヤ(g)
高野逸馬(b)
多田涼馬(ds)
内村勇希(key)
小林洋介(tp/from Calmera)
寺谷光(tb/from Calmera)
kiarayui(cho)
タカハシリツ(cho)

◇◇◇

【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
2018/11/26 HALLCA@中目黒 楽屋
2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
2019/11/02 HALLCA @CHELSEA HOTEL
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.
2020/11/01 HALLCA @六本木Varit.
2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2021/05/31 〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP
2021/07/25 HALLCA @GARRET udagawa
2021/09/19 HALLCA @代々木LODGE
2021/11/24 HALLCA @TOWER RECORDS渋谷【In-store Live】
2022/01/11 HALLCA『PARADISE GATE』
2022/01/26 〈生存戦略〉@高円寺HIGH 【HALLCA / 仮谷せいら / hy4_4yh】
2022/02/23 HALLCA @GARRET udagawa
2022/07/27 HALLCA @渋谷 7thFLOOR
2022/08/06 HALLCA @代々木LODGE〈Hang Out!!〉
2022/08/11 WAY WAVE @GARRET udagawa
2023/01/08 HALLCA @CHELSEA HOTEL(20230108)(本記事)

もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。