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パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)

 成熟と融合のケミストリーに快哉した一夜。

 安易な物言いかもしれないが、脳裏を過ぎったのは“PAJAUMI are unstoppable!”という言葉だ。さまざまなステージでも明確にグッドヴァイブスを響かせてきたが、このコットンクラブという舞台でもそれは変わらず。寧ろ、気鋭のホーンセクションとシンガー・ソングライターを招き入れたケミストリーで、新たな視野と可能性を広げていた。

 “パジャ海”の通称で知られるネオソウル/ジャズ・エクスペリメンタル・コレクティヴ、パジャマで海なんかいかない(以下、パジャ海)が、〈PAJAUMI SESSION featuring 佐瀬悠輔 & 馬場智章 with special guest 竹内アンナ〉と題して、東京・コットンクラブでの一夜限りの公演を開催。コットンクラブ公演は1年ぶりとのこと。前回はトランペットの佐瀬悠輔とサックスの馬場智章というジャズ・シーンで活躍する気鋭のホーンセクションに、Ovallのギタリストの関口シンゴを迎えたセッションだったようだが、今回は佐瀬と馬場に加え、スペシャルゲストとして「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」でコラボレーションを果たした竹内アンナをフィーチャーするスペシャルな編成に。竹内目当てと思しきファンも含め、フロアにこぞって集ったオーディエンスが興奮と破顔を帯びたステージとなった。2部あるうちの2ndショウを観賞。

 コットンクラブという上質な空間でのライヴだからなのか、いつもはアーシーな柄のパジャマスウェット姿の5人が、FiJA、Chloe、Harunaの女性陣はグレー/カーキ系のスカートやロングパンツのボトムを、Bessho、Seiyaの男性陣はパジャマスウェットにジャケットや上着を羽織るという“余所行き”スタイルに。のちに、佐瀬と馬場、さらに竹内が登場するのだが、こちらはしっかりとストライプ柄のパジャマ仕様。初のコットンクラブがパジャマという竹内が開口一番「ゲストの方がパジャマ味強くないですか?」と漏らしたのは、確かにその通りで面白かった。

〈PAJAUMI SESSION featuring 佐瀬悠輔 & 馬場智章 with special guest 竹内アンナ〉

 まず、驚いたのは冒頭曲に「Trip」を配してきたこと。今年からパジャ海のライヴをいくつか観賞している新参ゆえ、実は珍しくもないのかもしれないが、「(最初に壇上にいるのは楽器隊の3名のみだし)冒頭は定番の〈Dream Journey〉だろう」と高を括っていたから、なおさら。これまでにライヴのトリを飾ったり、本編のクライマックスで演奏されてきたパジャ海を代表するキラー・アンセムを初っ端からもってくるとは予想していなかった。Besshoが鍵盤に触れて音を響かせ「Trip」と認識した瞬間、惜しげもなく冒頭から鳴らしてくるとは、よほど自信と充実が漲っているのだろうと感じたが、終わってみれば、それに違わぬパフォーマンスだった。

 「Mind Game」から続く新曲群も披露する毎に新たなアクセントが加わり、研ぎ澄まされていく印象。ディープな音空間のなかで放つ「記憶から消さないで~」(この新曲はほんのりSZA「Snooze」のヴァースような雰囲気も感じる)という伸びやかなフレーズをはじめ、澄み渡るように凛として純度の高いヴォーカルを繰り出すChloeと、たとえば苛立ちや深い情愛といったエナジーが宿る感情を時にブルージィに、時に内にあるものが零れるかのごとくグッと胎に力を溜めて吐き出すようなFiJAという彩りの異なるソングストレスが、ネオソウルやジャズを下敷きにした心地よいグルーヴとともに舞い、音を浴びるオーディエンスに力強く訴求していく。

 鮮やかなバーガンディあるいはワインレッドで囲まれたコットンクラブの雰囲気に合わせたのか、「Between the Lines」にはエレガントで大胆なアレンジが施された。通常ならグイグイとグルーヴが加速していくところを、Besshoの春めいたような晴れやかな鍵盤でエレガントに進めていく。まろやかな陽光にも思わせる肌当たりの優しいトラックのなかで、HarunaのベースとSeiyaのドラムが勢いをもたらし、決してまろやかでは終わらない、日本らしい四季を感じさせるような多彩なサウンドスケープへと昇華。オーガニックからジャジィ・ハウス、アシッド・ジャズなども包含した、パジャ海ならではのアレンジが、オーディエンスの音楽欲を満たしていく。

 その音楽欲は、佐瀬と馬場のホーンセクションが加わることで、さらに活性化。音を鳴らさずに佇んでいる時は、生活感漂うパジャマ姿に見えたりしても(笑)、一度その音を放ち始めると、アダルトで洒脱なムードが加速。生命力漲るインプロヴィゼーションを含め、生々流転のごときうねりをフロアに渦巻いていく。そのなかで特に情念を纏わせるようなFiJAのヴォーカルは、よりディープかつドープな世界へといざなう道しるべとして、オーディエンスの心を穿っていく。

 後半にはキュートな顔立ちで、ギターを持つ姿がガーリーな竹内アンナが登場。彼女の存在は知っていたのだが、恥ずかしながら偶然出会った「TOKYO NITE」とAFRO PARKER経由で知った「Now For Ever」くらいしか曲を知らず。ものすごく雑な第一印象で言うと、声色や佇まいは大塚愛あたりの小動物系の可憐さがあるのだけれど、媚びるような甘ったるさやあざとさなどはなくて、芯にあるソウルネスやファンクネスを垣間見せながら、可憐と外連味のなさを行き来するような感じ……とでも言えばいいか。竹内のオリジナル「Free! Free! Free!」を聴くと、うっすらと70年代のファンクやらソウル/R&Bのヴァイブスをポップにアウトプットする作風、たとえばマルーン5やらママズ・ガンあたりのライトな質感が窺えるか(などと勝手に思っていたら、既に竹内の曲に、ママズ・ガンのフロントマンのアンディ・プラッツと共作した「Striking gold」があるとのこと!)。フックで刻まれるキレのある“Free! Free! Free!”のフレーズや小気味よいギターカッティングから加速するグルーヴが、パジャ海の楽器隊の流麗かつ颯爽としたアレンジとともに重なっていくさまは、非常に清々しく胸がすくものとなった。

 FiJAとChloeを呼び戻して、竹内のEP『at FIVE』の収録曲「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」は、「Free! Free! Free!」と楽曲性は一変し、ジャズ・セッション・マナーに重心を寄せたソフィスティケートな即興的アレンジに。ラップ調や可憐な声色までと変幻自在なヴォーカルで突き進む竹内にパジャ海シンガーズが寄り添うなか、SeiyaのドラムとHarunaのベースが刻まれていくたびに風景が変化し、次々とコマ送りで切り取られた日常が眼前に展開していく、まさに“生活”というタイトルになぞらえたような推進力あるサウンドは、この日の白眉の一つだった。

 本編ラストは、以前Besshoが「Trip」を超えるキラー・チューンが完成したと告げた「Electric」へ。竹内が明澄なカッティングギターとヴォーカルを披露してギアが上がると、Chloeが「Time is Everybodyジカンデスヨ!」とオーディエンスにコール&レスポンス「何か始まる 踊りたくなる」を要求。クラップの波のなかで竹内もそのフレーズを歌って歓声を受け、コール&レスポンスを続けていくなか、Besshoが「何か足りない! 何かが足りねえゾ!」と発して佐瀬と馬場を呼び込んで、ソロパートへと雪崩れ込み、さらなる高揚を巻き起こす。パジャ海、竹内、ホーン隊、オーディエンスとがないまぜになり、興奮と快哉がフロアを包んでいった。

 アンコールにて、本格的にアルバムを制作することと、それに伴い、この日発表された12月13日に青山・月見ル君想フにて行なわれる水野蒼生の弦楽編成との〈寝具寝具寝具vol.4〉をもって、5名でのライヴ活動をしばらく休止するとのこと(それを事前に知っていれば、別件を入れていなかったのに!)。このアルバムがフィジカルになるのかは分からないが、2022年9月リリースの1stアルバム『Trip』以降の楽曲が増えるなか、アルバムという世界観に落とし込んだプロダクツ制作に取り組んでいくというのは嬉しい。そして、5名編成でのライヴは休止するも、楽器隊や楽器隊+ヴォーカルといった編成のほか、FiJAやChloeのソロ・ワークスなど、活動そのものが取りやめになることはないとのこと。それを聞くやいなや、パジャ海クインテットとしてのライヴが待ち遠しくなるファンもいただろうが、さまざまな形態やコラボレーション、セッションなどで刺激や吸収し、アルバムとともに力を蓄えた姿で出会えることを楽しみに待ちたい。個人的にはパジャ海をChloe(Chloe Kibble「Unhiding」)経由で知ったので、Chloeのソロ作にも期待したいところだ。

 エンディング・ソングは、Besshoの生ピアノも駆使した「Blue」。制作当初はピアノで作ったというこの曲は、1stショウで弾いた時にも全部のハーモニーが聴こえてくるようで、生ピアノ版はすこぶる良いとのことだったが、その言葉とタイトルよろしく、より色彩を鮮明に感じる麗しいものに。終盤は、MC時にBesshoが首を下げているSeiyaに向かって「オレ40だぜ、20代のクセに疲れたとかいってんじゃねぇよ!」言われたからかどうかは分からないが(笑)、Seiyaの畳み掛けるドラミングと、それを見つめながらHarunaが爪弾くファットなボトムも相まって、再び融点へと辿り着いた。

 セッションというさまざまな刺激とともに、自らも進化していく気概と成熟を体感した75分。1年後にこの会場でパジャ海クインテットでの登場があるかどうかは不明だが、5名で再登場するあかつきには、規格外の成長を持って現れるに違いない……そんな確かな予兆も感じたワンナイトアクトとなった。

◇◇◇
<SET LIST>
01 Trip
02 Mind Game(New Song)
03 (New Song)
04 Between the Lines
05 Dawn (New Song) (with 佐瀬悠輔 & 馬場智章)
06 Don't forget me (New Song)(with 佐瀬悠輔 & 馬場智章)
07 Free! Free! Free! (with 竹内アンナ / except FiJA & Chloe)(Original by 竹内アンナ)
08 生活 feat. パジャマで海なんかいかない(Original by 竹内アンナ)
09 Electric(with 竹内アンナ, 佐瀬悠輔 & 馬場智章)
≪ENCORE≫
10 Blue

<MEMBERS>
パジャマで海なんかいかない are:
Bessho(別所和洋 / key)
FiJA(vo)
Chloe(Chloe Kibble / vo)
Haruna(まきやまはる菜 / b)
Seiya(小名坂誠哉 / ds)

佐瀬悠輔(tp)
馬場智章(ts)

Special guest:
竹内アンナ(vo,g)

パジャマで海なんかいかない

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【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
2023/04/23 パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
2023/05/19 Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)(Chloe出演)
2023/05/21 EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)
2023/06/27 Funkindustry / パジャマで海なんかいかない @O-nest〈colors〉(20230627)
2023/09/18 パジャマで海なんかいかない / NAGAN SERVER and DANCEMBLE @代官山UNIT〈DEEP DIVE〉(20230918)
2023/11/02 パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)(本記事)

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