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Mndsgn & The Rare Pleasures with Devin Morrison @Billboard Live TOKYO(20230913)

 メロウなフュージョンで染め上げた、レア・プレジャーズ流戯曲。

 マッドリブ、J・ディラ、MF・ドゥーム、デイム・ファンク、メイヤー・ホーソーン、ノレッジ、アンダーソン・パークなど多くの才能あるアーティストを輩出する米・ロサンゼルスのインディ・レーベル〈ストーンズ・スロウ〉の看板アーティストへ成長を遂げたビートメイカー/プロデューサーのリンゴ・アンチェタ(Ringgo Ancheta)のプロジェクト、マインドデザイン(Mndsgn)の来日公演を観賞。

 マインドデザインは本名のアンチェタがスペイン語由来ということからも分かるように、フィリピンにルーツを持ち、アジアや日本にも親和性が高い。これまでも多くの来日ツアーを行なっているが、『ヨーン・ゼン』『ボディ・ウォッシュ』に続く2021年リリースの3rdアルバム『レア・プレジャー』にて構成されたフルバンド・スタイル“ザ・レア・プレジャーズ”名義としては“初来日”となる。9月10日に横浜・赤レンガ倉庫で行なわれた「Local Green Festival」で日本初披露目を終え、その3日後、スペシャル・ゲストとしてデヴィン・モリソンを迎えた“マインドデザイン&ザ・レア・プレジャーズ・ウィズ・デヴィン・モリソン”としてビルボードライブ東京に登場した。

 以前よりマインドデザインのオリジナル曲を真摯に聴いてきたというよりは、ジョイス・ライスをはじめ、サー、タイラー・ザ・クリエイター、ドージャ・キャットらのプロデューサーとして触れてきた方が強い。2021年にデュラン・デュラン「モア・ジョイ!」に客演した日本の“NEOかわいい”ガールズ・バンド、CHAIの楽曲「In Pink」をプロデュースおよび客演したりと、都度動向は気にしてはいる存在だが、ソロとしては久しぶりに向き合うことになった。

 人気レーベル〈ストーンズ・スロウ〉を代表するアーティストゆえ、平日でも盛況だろうと踏んでいたが、ほぼ満席という(予想以上の)活況。ステージには左にライオンミルク(ロサンゼルスを拠点とする日本人キーボーディストのMoki Kawaguchiのプロジェクトで、2020年にはマインドデザインとの共作『フォーエヴァー・イン・ユア・サン』を発表)、後列左からギターのブランドン・ベイ、ドラムのウィル・ローガン、ベースのスワーヴィーと並び、右端にはアナウンスされていなかった高身長のサックス奏者(メンバー紹介時にサイレント・ジェイと言っていた気がするがどうだろう)が配された。前方右のキーボードの位置にはスペシャル・ゲストのデヴィン・モリソンが既にメンバーの一員のごとく加わっており、中央のサンプラー/シーケンサーが置かれた位置に、遅れてマインドデザインがステージイン。メンバー全員が麻のような薄手の白地の上下に緑、黄、赤などの線や模様がペイントされた衣装を身に纏っていて、長袖・長丈でおさげ髪のマインドデザインは、どこか弥生時代のシャーマン風の雰囲気も。元来アーティスティックでスピリチュアルな資質も有しているようだから、ステージもスピリチュアルな成分が多いかと思いきや、アヴァンギャルドやアシッドな要素はあったにせよ、そこはあくまでもザ・レア・プレジャーズというバンド・スタイルを遂行していた。マインドデザイン、ライオンミルク、チリチリロングヘアのウィル・ローガンを含めた3名がヒッピー風で、ペタッとした短髪のブランドン・ベイ、坊主頭にヘアバンドのスワーヴィー、長身のサックス奏者の3名が香港の武闘派抗争に出てくるギャング風という構図のなかに、R&Bシンガー然としたデヴィン・モリソンが入っている光景は、なかなか面白かった。

Devin Morrison

 ステージはアルバム『レア・プレジャー』の楽曲を中心に構成。現時点では10月リリース予定のアルバム『スナックス』からは「ファイナリーアローン」(Finallyalone)しか公開されていないが、『スナックス』収録曲と思しき楽曲もいくつか披露。マインドデザインは時に無機質な表情で空手のポーズを決め、ステージをグルグルと徘徊しながら内に宿る感情を自ら昂ぶらせ、タオルを回しながらメンバーを鼓舞するコンダクターのような立ち回りを見せながら、バンドを纏め上げていく。その光景は一幕ごとに綴られた戯曲を壮大な物語へと繋げていくストーリーテラー兼現場監督といった風。

 前半の「ユードンウォナフォールインザラヴァ」では「ラヴァー! ラヴァー!ラヴァー!」(最初はLouder=叫べ!と聞こえたので、このカオスななかで「ウォー!」とでも騒げばいいのかと疑心暗鬼になりながら聞き返したら“LAVA”だったという、自分のリスニング能力の欠落ぶりに改めて呆然とした)と狂気的な雄叫びを響かせたサイケ/アシッドな緊張感を張り巡らせたかと思えば、コミカルな動きでダンスパフォーマンスをするなど、なかなかに掴みどころがない。ただ、それは難解というよりも、マインドデザインが影響を受けてきた要素、たとえば、ヒップホップ、ジャズ、R&B、サンバやエキゾティック、世界各地の土着的な音楽や映画音楽などからインスパイアされたものを、バンドが鳴らすグルーヴィなサウンドに乗せて、思いのままに発芽・開花させた瞬間の表現のひとつだともいえるか。

 パフォーマンスが独創的なのは確かなのだが、孤高ということは決してなく、むしろバンドメンバーに何度もアイコンタクトや実際に掛け合いするなど、ファミリー感に溢れたじゃれ合いの体。特にデヴィン・モリソンとは曲中に対峙しながら、リズムに合わせてアクションでレスポンスし合うなど、いい年の大人が無邪気に遊んでいるよう。その“遊び”は中盤のデヴィン・モリソンの歌唱パート移行時の"寸劇”にも。「Rare Pleasure IV」の演奏中にデヴィン・モリソンがスマートフォンで電話をし始めると、マインドデザインと何やら口論に。そのままブツブツと文句を言いながら、ステージを去るが、しばらくするとジャケット姿のR&Bシンガー仕様のデヴィン・モリソンが再び登場。ライオンミルクが弾いていた鍵盤の前に座り、大きな溜息をついた後に「トキオー、トキオー、タダイマー、タダイマー」と日本語でスウィートに歌い始めると、オーディエンスも喝采。「デヴィン・モリソンデス。トウキョウニスンデマシタ」と流暢な日本語で話して笑いを取っていたが、実際に2017年に東京に移住し、英語講師として働いていたこともあるとか。

 全体的にはサックスが映えるフュージョン・ファンク/ソウルといった幻想的なメロウなサウンドを敷きながら、デヴィン・モリソン登場時には90's R&Bマナーのステージに。フェンダーローズでジョイス・ライスを客演した「ウィズ・ユー」を囁くように歌ってレディスキラーぶりを発揮したかと思えば、鍵盤を離れてマインドデザインがいた中央のマイクに移り、自身が提唱したドリーム、シュールレアリスム(超現実主義)、ノスタルジアを融合したジャンル”ドリーム・ソウル”を体現した「ウェルカム・トゥ・ドリームソウル」を披露。歌い終わって「ジャケット、メッチャアツイ」とこぼすなど、時々茶目っ気も見せながら、「リル・ロンリー」「P.B.J.」と自身の楽曲によってメロウなR&Bやネオソウルのグルーヴを横溢させていった。

 開始当初からコーラスを添えたデヴィン・モリソンを含むバンドの面々は、おおよそがコーラスも務めるゆえ、ハーモニーが映えるフュージョンとしてしっかりと機能。メロウというベクトルで適距離を保っていたこともあり、デヴィン・モリソンとのパートとの移行も違和感はなし。デヴィン・モリソンの歌唱ステージは、むしろジャズやフュージョンと連綿として続くクワイエットストームな演出として捉えられ、(演奏中はカーテンが閉められて見ることが出来なかったが)東京ミッドタウンの夜景ともリンクするようなアーバン/リゾート感を醸し出していた。

 そのザ・レア・プレジャーズ版デヴィン・モリソンのムードの流れを受けての「スロウダンス」は、期待が高かったようで、歌い始めで即座に反応するオーディエンスも多数。続く「ホープ・ユーアー・ドゥイン・ベター」とともにアダルトな色香が薫るアクトとなった。

 終盤は、1982年のアルベルト・ソルディ監督・主演のイタリアのコメディ映画『ジャーニー・ウィズ・パパ』のサウンドトラックから、ラウンジ・ミュージックの第一人者としても名を馳せたイタリアの作曲家 ピエロ・ピッチオーニの「ブラック・グラマー・ガール」や、デヴィン・モリソンをメインにアース・ウィンド&ファイア「ブラジリアン・ライム」のフレーズを組み込むなど、マインドデザインの嗜好背景やアイディアが見え隠れするパフォーマンスも。ライオンミルクによる滑らかで煌びやかな鍵盤がたゆたうキーボードソロを皮切りに、頭を垂れながらも揺らぎを止めないウィル・ローガンのドラムソロという長尺ソロパートを加えた、「ディヴァイン・ハンド」で大団円。再びサイケデリックでカオスな色が顔を覗かせたが、最後の"キメ”をする際に、デヴィン・モリソンとじゃれ合いながらを銃で撃つポーズをはじめ、"膝カックン”やカポエイラ風の動きなどを繰り出して、大地にエネルギーを注入するかのごとくステージを人差し指で突いてオーディエンスを煽ったりして焦らすに焦らした後、ステージに大の字に横たわるアクションでエンディング。エキセントリックでフリーキーな所作に、マインドデザインのピュアな好奇心や遊び心が垣間見えたような気がした。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 LUV MIRAGE (*S)
02 Finallyalone (*S)
03 Truth Interlude (*R)
04 UdontwannafallintheLAVA (*S)
05 Medium Rare (*R)
06 Rare Pleasure IV (*R)
07 With You(Original by Devin Morrison feat. Joyce Wrice)
08 Welcome To Dreamsoul(Original by Devin Morrison)
09 Lil' Lonely(Original by Devin Morrison)
10 P.B.J.(Original by Devin Morrison)
11 Slowdance (*R)
12 Hope You're Doin' Better (*R)
13 3Hands (*R)
14 Masque (*R)
15 Black Glamour Girl(Original by Piero Piccioni from Italian comedy film "Journey with Papa / In Viaggio con Papa")
16 Cosmic Perspective
17 Living Colours(?)(include phrase of "Beijo(a.k.a. Brazilian Rhyme)" by Earth, Wind & Fire) (*S)
18 Divine Hand I / Divine Hand II(include Keyboard & drum Solo) (*R)

(*R):song from album "Rare Pleasure"
(*S):song from album "Snaxxx"

<MEMBERS>
Mndsgn / マインドデザイン(vo,key)
Swarvy / スワーヴィー(b)
Lionmilk / ライオンミルク(a.k.a. Moki Kawaguchi / key)
Will Logan / ウィル・ローガン(ds)
Brandon Bae / ブランドン・ベイ(g)
Silent Jay / サイレント・ジェイ(sax)
Devin Morrison / デヴィン・モリソン(vo,key)

Mndsgn & The Rare Pleasures with Devin Morrison


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