Mia Nascimento @mona records(20240120)
リラクシンなグルーヴで成長と充実を届けた、メモリアルなマチネ。
「今日の調子はどうだい?」と語りかけた歌声は、どこまでも晴れやかでしなやかに。喜びとはにかみを湛えつつ、僅かに涙腺の緩みをスパイスにして、24歳を祝すメモリアルな“マチネ”を爽やかに彩った。
2021年2月よりソロ再始動から、3回目の誕生日を迎えたブラジリアン・シンガー・ソングライターのミアナシメントが、24歳生誕記念となるワンマンライヴ〈Mia Musica〉を開催。昨年は生誕記念ライヴを1stワンマンライヴとして青山・月見ル君想フにて行なったが(記事→「Mia Nascimento @月見ル君想フ(20230122)」)、2024年は2022年の生誕&1周年記念ライヴと同様に下北沢・モナレコードへカムバック。ハートウォームな祝祭ムードのなか、伸びやかな歌声でファンを魅了した。
2022年は幸せはとねをオープニングアクトに添えた、桐原ユリとの対バン形式(記事→「Mia Nascimento / 桐原ユリ @mona records」)で、2023年は1stワンマンライヴと銘打っていたとはいえ、ddmの葵を呼び込んでddmとしてのパートも挟んだりと、これまでは厳密には単独ワンマン周年(生誕)ステージではなかったが、2024年は後半にフルバンド・パートを加えての完全単独公演として開催。青を基調とした大きな花束がファンを出迎え、壁には物心がつかない幼少の写真やアーティストフォトのアザーカット、プライヴェートなチェキなどが電飾とともに飾られるほか、ステージ真下には暖色で照らす「M・I・A」のロゴのオブジェクト、ミラーボール、ローラースケート、Especia『GUSTO』やマライア・キャリーのクリスマス・アルバムのアナログなどの私物でデコレイト。開演前はミアが愛聴するkiki vivi lilyの楽曲などで優しく彩られて、主催イヴェント〈FRIDAY NIGHT〉の会場でもある、いわばホームグラウンドのモナレコードが、さらにホーム感を強めたアットホームな雰囲気に包まれるなか、幕を開けた後はダンサブルに、アンニュイかつセクシーに、メランコリックに、ジョイフルに、ハートウォームに……とさまざまな表情を見せながら、ミアが持つ高いポテンシャルを遺憾なく発揮したステージとなった。
「Shake」「Sweet Magic」といった初期にはクライマックスに配されていたダンサブルなキラーチューンを早々と序盤から組み込める構成に、少しずつではあるが着実に、ソロとしての成長と積み重ねを実感。色味を変えて「不透明」「Kumo」といったエアリーで浮遊感漂う楽曲や、「Rainy day」「Night」といったR&Bに重心を寄せたメロウ&ディープな楽曲を披露していく毎に、ミアの音楽的好奇心や吸収力、それを描出する機微豊かなヴォーカルワークの成長と進化が垣間見えたような気がした。
ギター弾き語りでは2曲を披露。ライヴ発表当初はタイトル未定だった(ミアは楽曲完成すぐにタイトル未定のまま新曲を披露することも少なくない)小品の「Miss you」はほのかな切なさと安らぎを湛え、「Don't deceive me」は胸の襞に潜む情熱を吐露したようなラテンなパッションを投影していく。
単にヴァラエティに富んだ楽曲を有するだけでなく、それらが持つ表情を楽曲毎にスムーズにスイッチングさせることもミアの才のひとつ。ジリジリとしたやや棘もある「Don't deceive me」の余韻がフロアを支配しかけても、先日アップしたミア入門曲を紹介した拙記事「いまから始めるミアナシメント」でも触れた、Hoofulが描く2000年代R&Bマナーのミディアム・スロー・ジャム「JASMINE NO KAORI」で、パッとカラフルな華やぎをもたらしてみせると、それを受けた「rhythm」では、ミアの可憐でチャーミングな部分を発露するなど、楽曲の色合いを滑らかに移ろわせる術は、日本的な四季の移ろいにも似たヴァイブスのよう。長い日本での暮らしがもたらした……かどうかは分からないが、ミアの一つの武器ともいえそうだ。
後半には本公演の大きなトピックの一つでもある、バンドセットへと移行。左からユメトコスメを主宰する鍵盤の長谷泰宏、花澤香菜や清浦夏実などへの参加でも知られるギタリストの山之内俊夫、ソウル・バンド“benzo”や細野晴臣、寺尾紗穂らと活動するベーシストの伊賀航、キセルのサポートでも知られるドラマーの北山ゆう子、そしてミアの楽曲も手掛けるシンセの関美彦という名うてのミュージシャンを従えて、関が手掛けた楽曲を中心に披露していく。
メンバーセッティングに少々時間を費やすも、すぐにミアの楽曲から始まるのではなく、このバンドならではの「イントロダクション」的なインストゥルメンタルを導入することで、ミュージシャンたちの矜持を示しながらもバンドセットの期待値を上げるのに奏功。5曲をバンドセットで届けたが、オリジナル音源ではR&Bへ重心を寄せた濃厚なスウィートネス&メロウが沁みる「forget」や「Snow White」はナイーヴな印象が深いが、バンドセットではグッと沁み込んでいくベクトルの向きを変化させるアレンジに。海になぞらえるなら、原曲の深海へと沈み込んでいくような重厚さから、深海から陽光が射す水面を望むようにサウンドに上昇や拡がりを持たせた演奏で、楽曲やミアのヴォーカルに奥行きや柔軟性をもたらせた。
バンドセットでは、キーシャ・コールの「ラヴ」のカヴァーと、ウィンター・シーズンにも似合いそうなブライトなソウル・ポップ・マナーの新曲「Blue Light」というトピックも。特にキーシャ・コールの「ラヴ」は楽曲としては比較的オーセンティックなラヴ・バラードだが、(以前はそれほど得意でないと言っていた)英語詞であるのはもちろん、フックの揺らぎフェイクなど、シンプルながらも容易ではないヴォーカルワークを(自身の楽曲などに比べるとリラックスより緊張度が上回っているとは思うが)しっかりとこなしたパフォーマンスにも成長の跡が窺えたのではないだろうか。
本編ラストとなった「Summer Me, Winter Me」では、バンドメンバーソロパートを含めた、キラキラと光る水面や清々しいそよ風を感じる軽やかで爽快なアレンジで、ミアのリラックス&エンジョイを後押し。跳ねるリズム&ビートや肌当たりのよいグルーヴは、ミアのダンスをより躍動させていった。「次は全曲やってください!ね! ね! ね!」と各バンドメンバーへ矢継ぎ早に視線を送り、それにバンドメンバーが頷くと「もうみんな見たよね? これで〈やらない〉って言っても、みんな〈やる〉って言ってましたよって言えるから!」と嬉しそうに話し、バンド・サウンドで歌う心地よさを実感していた。
アンコール前には親交の深いアーティストや関係者からのメッセージヴィデオが流れ、涙腺が緩んで目と頬が赤らんだところで、バースデーケーキと花束の贈呈を。普段はネガティヴを感じさせない笑顔が絶えないチアフルなキャラクターが全面に出ているが、この時ばかりは(「年を取ると涙腺が弱くなるっていうじゃないですか、24歳、年取ったなと思いました」とは言っていたが)音楽活動としては決して恵まれていない状況のなかでの苦労や葛藤と、歌い続けられていられることの喜びと楽しさが混ざって、感極まる場面も。瞳を濡らす涙は、これまでの苦労を癒す粒としてこぼれ落ち、潤いを得た瞳には前へ進む勇気という滴となって、美しく輝く瞬間を演出していた。
後ろを振り返り、こぼれた涙を拭きとると、再びミアらしい微笑みに戻ってクラップを促して「Good Time」へ。「まだまだ始まったばかりじゃない?」という詞のごとく、終演が近づく寂しさを感じながらも、現時点でのミアナシメント最強のフロアキラーを繰り出していく。自身でも緊張せず、一番リラックスし、安心して楽しく歌えていると語っていたが、それらに加えて本編を終えた安堵と生誕サプライズの感激もあって、全身から愉悦が弾けるダンスとなって発露。本ステージのクローザーとなった「Don't stop the party」は、タイトルどおりパーティを終わらせたくないというミアの感情をそのまま吐露したものになった。
ミアソロ史上初となるバンド・アクトという引き出しも増えて、楽曲性や表現力にも伸びしろが見込めそうな2024年。そのしなやかで芳醇なグルーヴに触れ、多くの人の心の導火線に火が付いていく瞬間を体感できたら……という期待に応えるに違わないメモリアルなアクトとなった。ステージやフロアを舞った芳香なスパイスとヴァイブスは、高揚という名の"余韻”となってフロアをいつまでも包み込んでいた。
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<SET LIST>
01 All right
02 Shake
03 Sweet Magic
04 不透明
05 Kumo
06 Rainy day
07 Night
08 Miss you (sing with a guitar)
09 Don't deceive me (sing with a guitar)
10 JASMINE NO KAORI
11 rhythm
12 BAND INTRODUCTION (band set)
13 forget (band set)
14 Love (original by Keyshia Cole)(band set)
15 Blue Light (New Song)(band set)
16 Snow White (band set)
17 Summer Me, Winter Me (band set)
≪ENCORE≫
~ BIRTHDAY MESSAGE VIDEO & blow out candles on the birthday cake ~(BGM: Stevie Wonder "Happy Birthday", 西野カナ"Happy Birthday")
18 Good Time
19 Don't stop the party
<MEMBERS>
ミアナシメント / Mia Nascimento(vo,g)
山之内俊夫(g)
伊賀航(b)
北山ゆう子(ds)
長谷泰宏(key)
関美彦(syn)
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Mia Nascimento @mona records(20240120)(本記事)