ゴーストライターから時代のアイコンへ /コレット
前から気になっていたのだけれど、いつの間にか忘れてしまっていた映画『コレット』を観た。
主人公は、フランスの女性作家シドニー=ガブリエル・コレット。
コレットは14歳年上の作家ウィリーと恋愛結婚をするけれど、結婚生活は思い描いていた通りにはいかなかった。
ウィリーには浪費グセと浮気グセがあり、コレットに咎められても、「男のサガだから」と言うばかりで、一向に変わる気配もない。
程なくして、コレットに文才があることに気付いたウィリーは、コレットの書いた物語を手直しさせ、自分の名前で出版。コレットはこれに抗議をするものの、「女の名前では本が売れない」とウィリーは言い放つ。
これまでもどこかで見たり読んだりしたことのあるストーリー。
でもちょっと違うなと感じたのは、コレットの周囲の人々。
「結婚生活が想像と違った」とコレットが田舎の母親に伝えたとき、母親はコレットを叱責するのではないかと思った。
「我慢しないけといけない」とか、「そういうものなんだから」とか。
そういうことを言って、娘を型にはめようとするのではないかと思ったのだけれど、コレットの母が言った言葉は逆だった。
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あなたの本質は誰にも奪えはしないわ
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そして、型にはまった結婚生活ではなく、コレットらしい結婚生活をつくるようエールを送る。
コレット自身、時代の風潮に屈せず、自分らしい生き様を貫いた強い人だけれど、このメッセージを娘に送ったコレットの母も、進歩的な考えを持ったすごい人だと思った。
この母がそれまでどのような人生を歩んできたのか詳細はわからないが、田舎に嫁いでいて、コレットのように華やかな社交界で、様々な生き方をする人達と接してきた訳でもなかったと思う。そう考えると余計に、この母がコレットに送った言葉に、すごみを感じた。
コレットの本は夫の名前で出版されるものの、周囲がみんなそれを信じきっていたわけでもないようだった。なんとなく「本当は、奥さんが自分の経験をもとに書いたんだろうな」と思っている人もいるような雰囲気で、社交の場でも、夫ばかりがおだてられてコレットはないがしろにされているという様子でもない。
夫からは作者としての名前を奪われ、部屋に監禁されて無理やり書かされたりはするけれど、周囲には、それなり賢い人たちがいた。
だから夫の仕打ちがひどくても、そこまで見ていて苦しくはならなかった。
映画のラストでは、ウィリーの一線を越えた行動が原因で、コレットは遂にウィリーと決別する。
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あなたのために独りであくせくと書き続けた
あなたを喜ばせようと力を尽くした自分が恥ずかしい
あなたは自分の型に私を押し込めたの
私は逃げないと思ってるなら間違いよ
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そして、ここから更にコレットの快進撃が続くようだ。
コレットは、各地を旅しながら表現者としてステージに立ち、その経験をもとに新しく本を出版。自身の「女の名前」で出した本もヒットし、ウィリーの名前で出されていた彼女の作品も、後にコレットが真の作者であると裁判で認められるらしい。
物語のように爽快感のある結末。でもこれが実際の話なのだということに、なにより勇気づけられた。