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📕『映画評論の時代』 佐藤忠男さん
1925年同人誌として産声を上げた「映画評論」は1975年休刊となった。
リアルタイムでこの雑誌にふれることはなく、本書の発刊によって初めてその存在を知ったのだが、扉ページの表紙を見るだけで胸が躍る。
表紙を手がけたのは、小林泰彦氏、ワダエミ氏、林家木久蔵氏など、そうそうたる顔ぶれで、今見てもモダンだ。
映画評論家で日本映画学校校長の佐藤忠男氏と同校卒業の岸川氏による共著だが、この本を読むと当時の映画界のムードをつかめると共に、一投稿者からスタートしたという映画人・佐藤氏の現在までの歩みが窺える。
とは言え、アメリカニューシネマですらビデオやDVDで初めて見る世代には、にわかには理解できない事柄も多い。
しかし、「眠れる獅子-松竹大船」や「危機に立つ新東宝撮影所」、「偉大なる手工業・東映動画スタジオ」など見出しを見ただけで興味をそそられる。内容を読んでみれば、当時の撮影所システムの内幕が事細かに綴られており、最終的に連載中止になるなど、当時の反響の大きさが偲ばれる。
また、戦前戦後から安保闘争にかけての映画産業への影響や、上映中止になる作品が出るなど、映画をキーに時代があぶり出される。
そして、世界の小津・黒澤や、映画界の重鎮である今村昌平、吉田喜重、大島渚らの助監督時代のエピソードなども満載であり、なおかつ、欧米の作品にもふれている。
そう、この本は辞典ほどの厚みがあるのだが、たしかに映画の百科事典と言えるだろう。
水野晴朗、荻昌弘、小林信彦、寺山修司、丸谷才一、片岡義男などの若き日の筆致を確かめられるのも楽しみの一つである。(2004.11)