ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く」を読んで#411
1年半ほどかけて読んできた、ナオミ・クラインの「ショックドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く」をようやく読み終えた。
ナオミ・クラインは、世界で最も著名な女性知識人、活動家と形容されるように、その情報量と、それらを統合的にまとめあげる高度な知性に驚嘆する。
原著は、2007年に出版され、世界中で翻訳されたベストセラー。
2007年の著書とあって、経済学の流れという観点では、いろいろ出てきている。
たとえば、彼女の本書では、「新自由主義」の正体を暴くが、
2019年に「地球が燃えている」で「グリーンニューディール」の提言。
彼女ではないが、2021年新書大賞をとった齋藤幸平さんの「人新生の資本論」では、さらにグリーンニューディールをも非難して、「脱成長コミュニズム」と続く。
しかし、この著書は今でもとんでもなく重要なものだと感じた。
あげれば、きりがないが、
「ショックにどう備えるか?」という点においても、本書独自のメッセージである。
ここまで徹底的に「新自由主義」に書かれたものは類を見ないだろうし、
今の日本も、新自由主義と切っては切り離せない。
今回は、自分のためにも、本書について記録を残しておきたい。
書籍の特徴
本書は、1970年からの40年間の歴史を振り返り、新しい観点から捉え直す内容になっている。
ユヴァルノアハラリの「サピエンス全史」は、人類の歴史を「虚構」という一本の糸が通っていくことで、切り味鋭く語られるように、
ナオミ・クラインは、1970年代から起きた、
・チリのクーデター(チリの9.11)
・イギリスのサッチャー政権
・アメリカのレーガン政権
・ポーランドの連帯
・中国の天安門事件
・アパルトヘイト後の南アフリカ
・ソ連崩壊
・アジア経済危機
・アメリカの9.11とイラク戦争
・スマトラ沖地震
など、約40年の歴史を総なめして、
「ショック・ドクトリン」という一本の糸でまとめあげた。
ショック・ドクトリンとは
では、彼女が本書の根幹に据えた「ショック・ドクトリン」とは何なのか。
「ショック・ドクトリン」とは、惨事便乗型資本主義のことであり、ナオミ・クラインが名付けた。惨事につけこんで実施される過激な新自由主義(市場原理主義)改革のことである。
新自由主義(ネオリベラリズム)とは、シカゴ大学の経済学者であり、1976年にノーベル経済賞を受賞したミルトン・フリードマンらが提唱した改革。
市場での自由な競争に任せておけば、価格・生産ともに適切に調節され、ひいては生活全体も向上するという考え方。政府による市場への介入や規制などの極小化を主張する。
大企業や富裕層に課されてきた税負担を軽減し、市場に対するあらゆる規制を撤廃することで、資本主義本来の活力を回復しようとする政策である。
そのため、
・民営化
・規制緩和
・教育や医療や福祉などの社会支出の削減
を柱とする。
日本においては、郵政民営化などを進めた小泉内閣がその例。
しかし、新自由主義は、強烈な格差を生む。
少数のエリートに富が集中させ、国民の多くが痛みを伴う。
実際このような記載がある。
ショックにつけこむショック療法、惨事便乗型資本主義
このように、ごく一部に富が集中し、国民の多くが痛む政策ゆえに、通常、民主主義のもとでは実現しにくい。
しかし、社会が戦争やインフレや自然災害といった何かしらの危機に見舞われ、人々が「ショック状態」に陥り、茫然自失としているときに、その隙間をついて導入されてきた。
フリードマンは、ショック状態で、人々がなんの抵抗もできなくなったときこそが、自分たちの信じる新自由主義に基づく経済政策を導入するチャンスと捉えて、それをチリやアルゼンチンをはじめ、イギリス、アメリカなど世界中で実践してきたのである。
これを彼は、「ショック療法」という医学用語を好んで使った。
このショック療法は実におそろしい。
もとは、1950年代、カナダのマギル大学で密かに行われた、洗脳や拷問のノウハウを得るために、CIAの資金援助を得て行われた実験である。
精神科医のユーイン・キャメロンが担い、電気ショックなどによって人の心や人格を作り替える。
これをフリードマンは、人ではなく経済を作り替えるという文脈から、ショック療法と呼んだ。
そして、ナオミ・クラインが、これをショックドクトリン、惨事便乗型資本主義(「惨事活用資本主義」、「災害資本主義」、「火事場泥棒資本主義」など)と名付けた。
ナオミ・クラインの本書からくるメッセージ
衝撃の内容が数多く書かれてある中で、本書を通じて、彼女から大事なメッセージをいくつか受け取ったように思う。
そのうち、2つのメッセージを書いてみたい。
それは一言でいうならば、下巻の終章「ショックからの覚醒 ー民衆の手による復興へー」というこの見出しに込められているように思う。
1つ目は、「ショックから覚醒する」。つまり、「ショックのメカニズムを理解して、ショックに備えること」である。
そう。ショックドクトリンは、人々の無知を利用してくる。
だから私たちは、過去の悲痛をしっかりと学ばねばならないと思う。
そして、その後本書には、実際、人々が政府が企むショック・ドクトリンに抵抗する事例を、いくつもあげてくれている。
長く長くこの絶望的な事態を読み続けたうえで、この事例は、まさに人類の希望のように思えた。
そして、私はその希望になりたいと強く思う。
もう1つのメッセージは、「民衆の手による復興」。つまり、「政府ではない、わたしたち一人一人の活動」が最も大切であることだ。
これは、「コモン」がキーワードとなるピケティのいう「参加型社会主義」や齋藤幸平さんがいう「脱成長コミュニズム」と通じるところだ。
惨事便乗型資本主義は、ショックに便乗して隙間をぬって入ってくる。
しかし、自らの手で、たとえガラクタでも手に入るものをつかって、自分たちの地域を立て直していくことで、回復力を得ていこうではないか。
今では、「コロナショック・ドクトリン」、「気候変動ショック・ドクトリン」が起き続けている。
どんなにいい政治家を選んでも、投票して終わりなんてことは決してない。
自らの手でつくる。
「コモン」という文脈のみならず、「ショック・ドクトリン」という文脈からも、わたしたちは挑戦していかねばならない。
2022年5月25日の日記より
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