菅公、内裏に雷を落とすこと 壱の章
命の灯が消えようとしている男がいる。
名は菅原道真。
文章博士、そして右大臣となった男である。
しかし今は、暗くほこり臭いあばら家の片隅に薄い夜具を敷き身を委ね、浅く早い息使いをさせている。
痩せた身体に力は無く、華やかな都の殿上人だった頃を誰が思い出そうか。
無念、悔しさ。
そんな気持ちは当の昔に置いてきてしまった。
かさかさに乾いて土色になった唇を開いたまま、時々思い出したように暗い天井を道真は見上げた。
言葉が出てこない。
あれほど彼の人生を彩ってきた言葉も、今や彼を救