トランプ大統領は秦の始皇帝になろうとしているのか!?
大統領就任式を直前に控えた大事な時期にとんでもないことを言い出した。「グリーンランドをよこせ」だの、「メキシコ湾をアメリカ湾にする」だの、まだまだいろいろ飛び出してきそうだ。正式に就任したら何を言い出すのか恐怖ですらある。いったいこの男何者だ。ふと統一直前の秦の始皇帝と呂不韋の最後の会話を再現してみたくなった。場所は阿房宮建設現場。時は紀元前235年。この後、呂不韋は自害する。
歴史のメルクマールになる大事な話し合いである。小国だった秦が武力を蓄え、商鞅や韓非など法家の意見を取り入れ少しずつ法治国家の体制が完成に近づいていた。この間、呂不韋は商人の出であるがゆえに経済政策に明るく、秦を富ませる政策が成功していた。また「呂氏春秋」という百科全書を編纂したほどの文化人でもあった。これまで部分的な行き違いはあったが、二人三脚で作り上げてきた秦であったが、最近はことごとく意見が対立していた。世間では呂不韋こそが始皇帝の本当の父親ではないかといううわさが広がり、また、呂不韋が皇帝になろうとたくらんでいる。とか、呂不韋が始皇帝の母親と不倫をしているなど、下世話なものも多かった。それらのせいで不仲になったなどという学者もいるようだが、2人ともそんな狭量の人物ではない。理想とする国家観の違いがどうにもならないところまできていたのだと思う。
それでは会話を聞いてみよう。
始皇帝;もうすぐ、統一ができるときに、どうして「呂氏春秋」などとい
う害にしかならない書物をつくったのだ。焚書坑儒によって腐れ
儒者どもをやっとのことで黙らせたのだぞ。あれは諸子百家の意見
を平等にとりあげているではないか。法家の思想が第一とわかるよ
うに作り直せ。
呂不韋;わたしも法治国家にはもちろん賛成してきました。しかし優れた
意見は取り上げ、みなで議論する価値が大いにあると思うからです。
我が国は農業にも力を入れるべきと思い農学や天文暦学また、音楽
などもまとめてあります。作り変えるわけにはいきません。
始皇帝;国家は皇帝を頂点とした官僚体制を隅々にまでいきわたらせねば
ならない。朕の考えがすべてに優先する。でないと国家は気を抜
くとあっという間に崩壊するぞ。
呂不韋;遺言と思って私の話を聞いてほしい。いま万里の長城建設の重労
働で多くの民が苦しんでいます。このときに阿房宮の建設は思い
とどまっていただきたい。殷の紂王の轍を踏んでほしくないから
です。美女3千人などとは民の反感が増すばかりです。
始皇帝;いやいやまだまだだ。大きな陵墓も作ろうと思っている。もちろ
ん奴隷を生きたまま埋めるという野蛮な風習の代わりに兵馬俑を
作らせるつもりだ。大帝国を維持するために、まわりの国もふく
めて皆をあっと言わせたい。それを作れるだけの大権力をみせつ
けなければならない。お前にはこれまでよくやってもらったが、
長男の扶蘇が頼りになるし、李斯や趙高、蒙恬将軍など人材もそ
ろってきた。あとは朕にまかせよ。
呂不韋;帝が生きている間はそれでいいのかもしれませんが、万一、民
(たみ)の不満が爆発すると秦は2代目以降はもちませんよ。
始皇帝;長生きできるように今、徐福に不老長寿の妙薬を探しに倭に派遣
している。大丈夫だ。
呂不韋;もはや何も言うことはありません。では。
呂不韋の予言通り、秦はわずか15年であっという間に滅んでしまった。何百年もかけて少しづつ積み上げてきた苦労が水の泡になったのである。「驕れるもの久しからず」だ、などど片づけてほしくない。現代政治にも十分通用する。世界のリーダーたちは一人一人の名もなき国民のことを本当に考えているのだろうか?