古代の薩摩940年 #44
第二部 弥生時代 臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の故事
張良の一族=張順の逡巡(しゅんじゅん)
高祖劉邦様が崩御(ほうぎょ)されると、わが一族の族長=張良様が突然隠居された。皇后さまが疑い深く、三傑の一人、韓信さまさえ毒殺されてしまわれた。ここは故事に倣って(ならって)身をひくべきと判断されたのだ。どんな故事ですかとたずねると次のような話をしてくださった。
今から300年前、東南の地に呉と越という強国が覇を競っていた。
呉の夫差(ふさ)は孫武を、越の勾践(こうせん)は范蠡(はんれい)を軍師に迎え、国を富ませていた。先に越が勝ち夫差は捲土重来(けんどちょうらい)を期して、柔らかいふとんではなく、固い薪の上に寝て苦しみに耐え復讐に成功する。今度は負けた勾践が苦い動物の胆(きも=かんぞう)を食べて、ついには復讐を果たすという。故事の意味するところは「苦労に耐えて目的を果たす。」だが、張良様が、おっしゃるにはこの故事の中の両国の軍師2人の出処進退(しゅっしょしんたい)の見事さだそうだ。軍師2人はそれぞれが自分の主君である国王の性格を見抜いていた。疑い深く、苦労している間は信頼してくれるが、頂点に上り詰めると、有能な人物を粛清(しゅくせい)する、歴史上でもよくある話だそうである。孫武は田舎に引っ込むとあの名高い「孫子」という名兵法書を完成し、范蠡の方は他国で財をなしたという。張良様ももたもたしていると危なかったという。今は漢が統一したばかりだから安全だが、今後はまた乱れるだろうとおっしゃる。だから、海の向こうの倭の国をめざしたらどうかという。戦いのない桃仙郷だそうである。この世にそんなところがあるとも思えないが、このままでは未来はない。よし一族の者と相談しよう。