Magic Leap 2をイベント展示用に札幌で預かった話
この記事は DevRel Advent Calendar 2023 シリーズ 2 の18日目の記事です。
こんにちは、じゅんです。
Hokkaido MotionControl Network (#DoMCN)というHoloLens・VR技術好きの技術者コミュニティの勉強会を運営していて、開発者の知見の交流を促進しています。また、元・物性研究者として、研究機関に所属する若手研究者でxRに興味を持つ人を見つけてはHoloLensを被せに行き、開発者コミュニティへの橋渡しを行う事を続けています。これらを適切に表現する職名が無いので、勝手にScientist/Developer Relations と名乗っています。
11/13-27の2週間、Magic Leap 2(ML2)をMagic Leap販売代理店のTD SYNNEXさんから特別にお借りし、色んなところでデモをしたり、もくもく会イベントを開いて地元札幌のXR関係者におさわりの機会を提供しました。 Magic Leap 2自体は12月現在も個人への一般販売はされておらず、購入できるのは法人のみとなっているため、レンタル自体も難しそうとは思っていたものの(個人なので)、方法を探っていった結果こういう機会を得ることが出来ました。関係者の方々に感謝します。
レンタル期間に行ってきた事と、レンタルに至るまでの経緯などをまとめておきたいと思います。他の地方でも興味ある人が触れる機会に繋げられることを期待しています。
(12/15追記:TD SYNNEXさんより後日お知らせ頂き、12/15現在TD SYNNEXさんのオンラインストアから購入できるようになりました。)
レンタル期間中にやったこと(時系列順)
・開封の儀(11/13)
11/13の昼に宅急便で品物が届きました。Magic Leap 2本体と視力を補正するためのインサートレンズ一式(+1.5D~-5.0D)、フィットセットなどが入っていました。
外箱から写真を撮りながら到着報告をしました。ツイートへの反応を見ることで誰に見せに行こうかの目星をつけたり、返却の時に最初の状態がわからなくならないための目安みたいな使い方です。
・#XRMTG でイベント告知など(11/15)
もともとレンタルを受ける際に提案に入れた #道総研XR イベントの告知と、MagicLeap2もくもく会(後述)の告知をXRミーティングの場でお知らせして全国に伝えました。
・道総研主催:3Dデジタルコンテンツ研修(第五回)Unreal Engineによる3Dコンテンツ解説概説とXRデバイス体験会(11/17)
この日のお昼に北大の北キャンパス付近にある道総研に機材一式を持ち込み、体験ブースを一つ担当しました。このイベントではMagicLeapだけでなく様々なXR関連機器が集まって、いろいろなコンテンツを体験できるようになっていました。私はもともとHoloLens2の展示を打診されていましたが、イベント実況の役割をおった方がインパクトを残せるので一旦はお断りしたものの、Magic Leap2展示係ができる事になったので一転して参加することにしたのでした。HoloLens2の展示は私より現役のHCI研究者が良いと思って千歳科学技術大学に打診してみて、学生さんが来てくれました。
イベントの様子などは下のリンクのツイートまとめを私がまとめて公開してあります(公開許可確認済み)。
・LunchTime XR #17: 最先端のMRデバイス Magic Leap 2 の可能性を探求(11/18前半)
札幌のゲーム開発者マイケルテッダーさん (@_falken)がMagic Leap2の機能などを語ってくれるとの申し出を頂き、札幌の小会場だけでやってももったいないので福岡の #AR_Fukuoka コミュニティの主催吉永さん(@Taka_Yoshinaga) に相談し、福岡→zoom配信の形のランチタイムトークイベントを開催しました。
ハードウェア本体の機能紹介と、センサを使うソフトウェア・OSの話、実際のアプリの実演デモなどが詰め込まれた素晴らしいインプットトークがなされました。資料も公開されているので、興味ある方は見てみると楽しいと思います。
そういえばこのイベントの公開直後に、Magic Leap社の元えらい人のRonyさんも反応してくれていました。
・Magic Leap 2開発もくもく会&体験会 (11/18後半)
ランチトークが終わった後、札幌のXRエンジニア @DMiyamo3 さんとテッダーさん、会場提供係 @s_haya_0820 さんでの開発もくもく会(という名のガジェット交流会を挟み、15時からは1時間おきに1,2組ずつの体験希望者を招いてのMagic Leap 2体験会をおこないました。
ちょっと変則的なタイムテーブルにした理由がいくつかあります。前半で参加者間交流と開発環境づくりを集中的に進めておきたかったので2時間の時間猶予を作りました。体験会に必要なML2本体が1台で済む時間帯が何回かあり、その間は私がレンタルした本体を体験用に使い、テッダーさん所有の本体は開発の検証用に残しておけるようにしました。そうしておくことで後半のもくもく会も続行できるように設計しました。
完全に私のポリシーになってしまいますが初見のXR機器を体験5分で人に伝えるのは不可能ですので、最低でも30分は一緒に動かしてみるようにしています。そのため一時間ごとに体験者入れ替え方式にして、体験者のお話を聴きながらコンテンツを選んで体験してもらうようにしていきました。
体験会で使用したコンテンツは、AR Brochureの本体分解デモシーン・セグメンテッド遮光、環境認識デモでのピンポン射撃、Flightradar24の飛行状態がリアルタイム重畳された立体マップ、などで、いずれも好評でした。
PC画面にミラーリングしながらのデモがほぼ必須でした。
イベントの詳しい状況は下のまとめに残しました。
・GEOCONNECTION 2023 (11/22)
位置情報技術系の学術研究のコミュニティの研究会が北大の中で行われて、そこに現地参加していました。3Dスキャンの話題なども多かったのでその派生仲間のHoloLens2、ML2も持っていました。野良デモする機会はなかったですが、主催側の運営スタッフや考古学の @fujimicho さんに初めましての挨拶をしてきました。
・#DevRelJP つながりの人とMicrosoft Base Sapporoへ (11/24)
東京からたまたまお仕事で札幌に来たきはらさんのリクエストで、IT系イベントに活かせそうなコワーキングスペースとしてMS Baseを紹介し、一緒に見学に行きました。フロアが広いのでMRの体験もすんなりできました。この時期になるとPCが無くてもアテンドができる感じになってきています。
・もくもく会 (11/26)
DoMCNイベントを一緒にやっているエンジニアで集まって、持ち寄ったデバイスでみんなであそんだり、18日のもくもく会でやり残した事をやるために市内の事務所に集まりました。夕方からのスタートでしたが、様々なネタが飛び交って面白かったです。視線トラッキングの実装は次回以降となりました。
・手元でいろいろ検証 (11/16,27)
飛び飛びの検証にはなってしまったものの、サンプルプロジェクトを実機にデプロイするまでの環境構築までは非エンジニアの私でもなんとかできました。
16日はデモアプリの内容把握とミラーリングのテストと使いやすい条件出しの作業をしました。ML2→PCに送る際の相性がイマイチ良くないのか、映像にブロックノイズがしばらく残り続ける問題が見つかり、Setting項目をいくつか規定値から変えると滑らかに映せることを確認しました。UDPはやめよう。
27日は返却日でもうイベントがないので、手元でチャレンジできました。
レンタル期間の直前にリリースされたMagic Leap 2のOSアップデートを試してv1.4.1にあげました。
その後の自作アプリのデプロイまでの手順は大まかに以下
①PCにML Hubをインストール
②Unityでプロジェクトを作ったらMagic Leap Setup Toolをインポートするといろいろよしなにやってくれる
③MRTKのML2用Unity Packageがあるのでダウンロードしてきてインポート
④ML Hub経由でダウンロードしたML2用MRTK Pluginをインポート
⑤何かオブジェクトを置いてビルド→apkができる
⑥(今回は)SideQuestを使ってapkインストール→ML2本体
⑦本体にアプリが追加されているのでUIから起動→動作
参考にしたのは以下のホロ元さんの技術ブログ
徳山さん(@tokufxug)が昨年末に残してくれたML2開発アドベントカレンダーの内容をなぞってみようと思いましたが返却期限なので時間切れでした。
プリインストールではあまり体験方法が無かったアイトラッキング機能などのサンプルシーンは開発者ポータル内にSDK Example Scenes などで供給されていることを後で教えてもらいました。次にお借りする時はこれも試してみようと思っています。
27日
・返送の儀(11/27)
検証が終わった本体のリセットをかけ、各製品を清掃して返却しました。二日後に無事到着してひとまず終了です。緊張しました。
レンタルを受けるまでの道のり
伏線となるイベントが結構あり、わりと長かったかもしれません。一般販売されないデバイスなので、お金があっても難しいという印象です(お金も別にないけど)。
・4/25 Magic Leap 2& Acer SpatialLabs 体験会 開催
福岡の出張の時の発言がきっかけで、関東のエンジニアの方が札幌に実機を持ってきてくれたので、体験会イベントを開きました。札幌の一般向け体験会は初だったと記憶しています(今も他団体での目撃例がない)。その時のドキュメントを残しました。
・8/10 法人向け国内販売開始 のニュースを見て問い合わせ
夏になって、ML2国内販売開始になりました。代理店がThinkReality VRXの通販をやってた会社だと知ったので、もしかしたら入手できるかと思い問い合わせました。買えるかの可否と同時に、国内での販促計画の有無について質問をしました。やり取りの中で共有した↑のドキュメントが後で効きました。
・9/22 応用物理学会のVR体験会ブースでML2を結構触った
熊本で行われていた学会に現地参加していたときに設置されていたVR体験会ブースになんどもお邪魔して話を聴いていました。期間の途中からML2が体験機材に追加され、このことがあまり学会参加者に周知されなかったのでラッキーとばかりにしばらくかぶっていました。4月の時はちょっとしか触れなかったので、この機会にアテンド可能なアプリなどを知りました。
・10/25 ITソリューションマーケットin札幌 参加
10/24に名古屋出張から帰ってきてヘトヘトだったのですが、FaceBook広告で流れてきていた25日のイベントがTD SYNNEXの主催だったことを思い出し、行ってみました。チラシには、HoloLens 2はありそうな雰囲気がありましたがML2についての情報は一切無かったため、ML2目当てで行く人は居なかったと思います。HoloLens 2のブースでお話しをした担当の方がML2の担当でもあると教えてもらい、法人向けorイベント展示用のレンタルが可能である事を聞きました。
告知に載ってなかったQONOQさんのブースがあり、ML2実機が3台もありましたのでそちらでも体験をさせてもらいながら販売の今後の計画などを聞いていました。
・10/24 に札幌のテッダーさんがML2購入報告しているのを見る
札幌での最初の購入表明を出張中に見つけ、#JAWSUG イベントでお誘いされたことのあるご縁もあったので、何かイベントをしようと思いつきました。
・11/3 WebXRハンズオンにテッダーさん誘った
ちょうど #AR_Fukuoka のWebXRハンズオンが11/3開催だったので、そこにお誘いして、WebXRコンテンツの検証をしてもらえるようになりました。
ハンズオン開催の前にもくもく会を別途開催することをさらに思いつき、そこには機材が複数台あった方がよいだろうと考えて具体的にレンタル制度を利用させてもらう段取りを進め始めました。
道総研のイベントに展示する案でSYNNEXさんに機材確保をしていただき、11/1にもくもく会、11/4にLunchTime XRトークイベントをそれぞれ公開して11/13に受け取りという流れになりました。あとは前半の章の通りです。
やってみての感想
地域に2台実機があると、イベントでできる事の幅がふえますね。HoloLens 2の時には札幌での個人所有者がしばらく私一人しかいなかったので、イベントを立てるまでもなく自分が行商人スタイルで被せに行けばよかったですが、イベントにならないのでSNSなど空中を飛ぶメディアでの周知が進まないデメリットもありました。2台あると拠点に集まってもらう意味が出来てくるので、いろいろ楽しく計画できました。
装置については、HoloLens2よりも高い表示性能とゴーグル部分の軽量化によって長時間の使用により適した形になったことを実感しました。マルチプレイやリモートレンダリングなどの高度なデモもさわれればよかったのですがそこまでの確認はできなかったのが心残りです。Microsoft Mesh (for HoloLens)的なアプリが標準で入っているといいのですが。
コミュニティのコラボ的な側面でいうと、テッダーさんがベースにしているのは AWS系のコミュニティで、彼らとガジェットの文脈でのコラボイベントが出来たことが結構良かったです。私の札幌での今年最大の成果かなと捉えています(道外での成果は豊橋出張)。2022年のJAWSのイベントにXRの技術を見せに行って、結果的にこのコラボに繋がっています。「来てもらいたいので先に自分が行く」の基本に沿っています。
今回の一連の流れの中で、運がかなり良かったです。途中、イベントごとの発信が重要だった場面と、たまたまそこに居たらあったみたいな偶然が半々ぐらいで混じっています。特に10/25については本来寝てる日に充てていたのをなんとなく起きて現場に向かったという感じで、この日に寝ていたら法人向け検証機レンタルの情報が得られていないのがポイントでした。
おそらくここまで読まれた方はプロセスの長さに引いてしまっているような気もしますが、直接お話ができる中の人を見つけて適切に提案・交渉する、というのがキモで、そこに至るまでの模索と捉えてもらうのが良いと思います。
法人であれば、いまや買うことができるのでもはや買った方が早かったのですが、個人開発者にはノーチャンスの状況が続いています。市場にBtoBデバイスが増えていくと、このようなままならない状況も増えていくだろうと考えています。それに対して、コミュニティに紐づく個人であれば今回のようなレンタル活用の目も出てくるので、コミュニティいいぞ!と締めるために今回の記事を書きました(ポジショントーク)
もし地方での体験会などの企画があって検証機がご入り用の方がいましたら、相談できるかもしれませんのでお知らせください。
フッ軽 だいじ
以上です。
(12/13 初稿 6205字 300min
12/15 追記 販売チャンネル判明
12/18 確認完了 公開
12/19 サムネイル画像追加)