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コミュニティ成長支援用分析ツールを試してみてビジネス志向の運営者とは異なる自分の立ち位置を再確認した話

こんにちは、じゅんです。
Hokkaido MotionControl Network (#DoMCN)というHoloLens・VR技術好きの技術者コミュニティの勉強会を運営していて、開発者の知見の交流を促進しています。また、元・物性研究者として、研究機関に所属する若手研究者でxRに興味を持つ人を見つけてはHoloLensを被せに行き、開発者コミュニティへの橋渡しを行う事を続けています。これらを適切に表現する職名が無いので、勝手にScientist/Developer Relations と名乗っています。最近はCommunity Relationsとも勝手に言っています。

KEEN株式会社さんのKEEN Manager というコミュニティ分析ツールの無料使用が受けられたので7月に試してみました。その試用期間が明日終わるということで、改めてその使用感を振り返るとともに利用の可能性について考察する記事を書くことにしました。

結論としては、現状の自分のSNSの使い方(元々特殊)に特別な効果をもたらすものではないと判断して現状での必要性は薄いです。一方で、ビジネスでコミュニティ施策を行う事業者にとっては有用である点が多々あると思うので、そちらから整理をした上で自分の普段のSNSの使い方についてまとめてスタンスの違いを言語化してみようと思います。
(ビジネス用のツールを有志個人の趣味コミュニティに使えるかという発想からわりとミスマッチが想定されますし、どっちがいいとかわるいとかいう話ではありません)


KEEN Manager

最初に製品について情報が出てきたのが去年の春の #コミュ勉 イベントでした。その後、いろいろツールがあるのだなあと思って過ごしてはいたものの触る機会は特になく今年になり、スタートアップ界隈のイベントの時期にたまたまトライアルの案内が流れてきたので試しにトライアル登録してみました。

7月の時点で実際に理解した事を整理してみますが、このプラットフォームのUIや機能などはその後も変わっているはずなので、読む時期によって内容を正しく書いていない事にご注意ください。あと全機能を試していないので異論もありそうです。

・「熱心な」メンバーの行動を可視化するために行動それぞれを抽出する

コミュニティ活動にはメンバーたちの様々な発信が伴います。これらの発信それぞれについて、独立な評価軸を二つでアクティビティのスコアを勘定し、時間変化を追う仕組みというのが基本の機能のようです。

KEEN Managerではこの評価軸をそれぞれ「イベントスコア」「シェアスコア」と表現しています。
 イベントスコア:高い シェアスコア:高い
 イベントスコア:高い シェアスコア:低い
 イベントスコア:低い シェアスコア:高い
 イベントスコア:低い シェアスコア:低い
のような場合があり、メンバーがどの組み合わせでスコアを持っているかによって「スター」「ネクストスター」「マルチアクティブ」「シェアラー」「イベントゴーアー」「サイレント」という分類をするようです(「スター」に関してだけは管理者がラベルする方式)。メンバーがどの分類のところにどう人数分布しているのかというのを把握したうえでコミュニティの施策を考えていく、というのがコミュニティ管理者の仕事になっていくようです。
 ある時刻のスナップショットを↑のような感じでデータ化し、その時間発展を蓄積していく事で、どの時点でメンバーのクラスチェンジが起きたかとか、コミュニティ全体のスコアが増加・減少したのかなどを捉える事ができる、というのがコミュニティダッシュボードの主な機能のようです。

7月に自分自身のみ登録してスコアを割り振ってみた様子

 計測対象の登録方法はいろいろあるみたいで、コミュニティイベントプラットフォームから参加者リストをインポートしたり、ハッシュタグをつけてつぶやかれたポストから参加者を抽出したりすることができるようです。
 スコアの割り付け方はコミュニティ運営者の定義と重みづけに基づいて行われます。たとえばイベント参加をイベントスコア:1点 シェアスコア:0点として、ブログ執筆・公開をイベントスコア:0点 シェアスコア: 2点みたいに指定しておくと、KEEN Managerが自動抽出した中から発信メンバーにそれぞれ付与されていく仕組みです。コミュニティの性質によっては、ブログ発信を200点にすることも考えられますので、そのあたりの味付けにはコミュニティ運営者(分析者)の思想が強く入り込む余地があります。

 こういった事情から、総スコア二軸ともに高得点の状態が必ずしも良いコミュニティ状態じゃないかもしれないという事には留意が必要です。

・100人規模のコミュニティでの運用でうまく使える予感がある印象をもった

 一人だけのコミュニティを試しにKEEN Managerに登録して少しいじってみた感想としては、この分析ツールが役立つコミュニティは確かにありそうという感じがしました(後述しますが残念ながら私向けではなかった)。
 一括インポートの機能があるのと、発信の自動抽出の機能があるので、このツールは100人から1000人くらい参加者がいるコミュニティで使う時に解析の下準備の手間を大幅に減らせるように思います。
 また、交流用プラットフォーム内部での発信にではなく、SNSなど表に視えるところでの発信を拾うところに特徴があり、「スター」(イベントスコア:高い シェアスコア:高い)は一般人に対するインフルエンサー的な性質を帯びる事と思います。コミュニティ内に複数人の「スター」が居る時に、どのイベントで発信のスコアが高かった低かったを調べる事で、各スターの得意な技術領域なんかもわかるかもしれないです。
 まだ機能が実装されていないと思いますが、イベント内で誰かへのリプになってるものを抽出する事でコミュニティ内の小クラスターの起こりも検出できるかもしれません。イベント参加者の総人数が多いほどこういった情報は管理者一人で追い切れないので、自動化の助けが役立つような気がします。

・弱点もたぶんありそう

 思考実験ですがコミュニティ内にスター100人いた時はどうなるんでしょうね(※)。各人がイベントを建てまくり、イベント内では全員が同一ハッシュタグでひたすらつぶやきまくるとそうなりそうです(スコアの重み付け次第ですが)。
 なんとなく狂乱のデモ活動を連想させる部分もあり、これがコミュニティとして健全な状態なのかどうかは判断に困る部分がありそうです。
 コミュニティの盛り上がりを管理するうえではおそらくメンバーのクラスの分布の方が重要で、スコア上昇・全員スター化をKPIとかにしてしまう(あるいは上司にそうされてしまう)と運営者が本来目指してない雰囲気のコミュニティが出来上がることにつながる予感がします。

 あと、今回非常に昭和的なセンスで大変申し訳ないのですが、私個人としては無断でコミュニティイベント参加者の行動を点数化することに非常に抵抗感があります(みんなの顔が見えてるので余計そう感じる)。なので、今回のテストも自分自身に対してしか解析をかける事が出来ませんでした。自分自身は、「データ計測してもいいけどその時は一声かけてください派」という事を自覚しました。
 そういう人は他にもいらっしゃると思うので、導入時の合意形成方法に課題があると思います。

※:実際はそういう事は起きないようです。スター枠だけはツールの管理者がデータを見ながら手動で選定するので、自動でロールが振られるのはネクストスターまでのようです。

自分のSNS観察法がコミュ管理者のそれと大きく違っている

・「好奇心すぎる」個人の越境を発見する方法を実践している

 KEEN Managerが、担当コミュニティ(単一または少数)の活動量を最適化する思想で恐らく作られている事に対し、私は技術コミュニティにかかわる全員の越境型発信を最大化することに価値を置いてこれまで活動しています。↓のにおける両矢印がコミュニティ間の移動を示していて、コミュニティ間の交流が無い状態から有る状態にするために活動を発信しています。
 例えば自分がそとに遊びに行ってコミュ①から②のパスを作ったり、イベントの情報を実況する事でフォロワーが新たにイベントを知って③から④に行ってみたり、その様子を見てハードウェアメーカーの担当者が④に行ったりという事を作ってきています。自分の担当は①だけだったりするけど①のみの発展(発信者の囲い込み)には関心がまったく無いというところが決定的に異なる部分です。
 

越境を相互に行える場を作る方法はいくつかあって、
・自分が新たにコミュニティを建てる
・自分以外が新たにコミュニティを建てるのを自分も支援する
・関心の技術領域が近いグループが実はある事をみんなに知らしめる
・本質が同じ事を違う言葉でしゃべっているみたいなクラスタ間を翻訳する
・ニーズとシーズを明示的に橋渡しする
・距離が障壁になって実現できていないLT会などをVR空間でトンネルする
・それらにかかわるポイントを文章化して後追い可能な事例にする
など挙げられます。

自分は特に2番目3番目が多いです。自己利益の最大化を短期で目指さないので、地元のコミュニティ管理者として不適格なふるまいに映りがちです。

・0人のコミュニティを測定対象にしているのでハッシュタグが無い

 XRのコミュニティに関してしか私は言えませんが、何かしらの新しい地方コミュニティが生まれる前兆として、強い要望を持った個人の移動が起点になっている事が多いです。というか長続きするケースはそれ以外ないです。例えば、三重県で行われたミートアップに鹿児島県在住のエンジニアが生身で行った(それも別々に2人)ことが発端で生まれた #XRm鹿児島 などが最近はすごいです。
 彼らは最初に #XRMie のイベントでつぶやくか発信せず過ごすしか選択肢が無いため、KEEN Managerの解析上ではただの参加者にしか映らないはずです。ところが現地に2人そろう事がトリガーとなり彼らの地元でのイベントが派生しました。こんな風にいきなり運営者になる参加者が時々存在します(将棋の「成り」みたい)。
 越境してきた人が1人の場合は何かしらを空リプでつぶやいて反応を求め、2人目になりそうな人が近所に見つからない場合はそのまま企画は無くなります。私はこの発信を拾う事を目標に日々SNSを見ています。

before 

after (北海道から見てただけだけど今もすごい育ってる)

・越境する運営者の行動を加速させることで、コミュニティ間の連結ハブ化を支援している

 コミュニティ間を行き来する方法を持った運営者は複数の別コミュニティの運営者と友達になりがちです。運営者同士のネットワークパスがあるので、自分の身近な人にわからない問題が自分の手元で起きた時にそのネットワークパス経由で解決を探ることができます。よりたくさんの人の問題を扱えるようになるという意味で自身のできる事が増えていきますが、自分の周りの人のネットワークがどうなっているかによってしんどさに結構違いがあるかと思います。
 インフルエンサー的な人であれば1対N人 の構造になっているし、運営者ハブ的な人であれば1対(n×n'×n"…)人になっています。私は後者を目指すことに意味を感じています(正解だったかの評価はまだ先)。

まとめ

 7月までの仕様で感じたこととしては以上になります。有用性に関しては、SNSの個人使用が受け入れられている業界でのイベントに対しては結構ありそうだと思います(私の研究領域の界隈ではSNS利用が推奨されていないので、そもそも学会に行ってつぶやきまくってる個人とかもほぼ見当たらずツール使うまでもない状況)。このツールもまだまだ進化していくと思いますので、機能が便利になったときはまたトライアルキャンペーンやってくださいm(__)m

・KEEN Managerは比較的若い層の行動分析・施策立案支援に向いていそう。
・機能面では「越境」に相当するアクションを早期抽出できる方法があると自分もつかうかもしれない(でもビジネス的意義はたぶんないので実装の努力は会社でやらない方が良さそう)。
・理系の元学者としては、データが取れる事自体に面白さを感じています。社会経済学の研究をするためのツールになりうる可能性を感じているので、そういう解析をする人のチームに入ってあれやこれや議論してみたい気もします。たぶん儲からないけど。

 試用最終日で檜山さん(@heizomusubi0833)とお話し、今回のお話の整理や、触れられなかった機能の使い方など教えてもらったりしました。ありがとうございました。

以上です。
(2024/10/08 初稿 240 min 4709字
 2024/10/08 KEEN側から公開OK 30min 5213字)

おまけ 越境はいいぞ

越境はいいぞのスライド(2020年)