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育休中に考えたネットスーパーの可能性
2025年2月から育児休暇を取得し、男の子の赤ちゃんの誕生を心待ちにしながら過ごしています。
妻も産休期間中のため、朝昼晩を共に過ごしているのですが、最近は食材を買いに食品スーパーへ行くのが楽しみになっています。
というのも、妻が臨月に入っているため遠出はリスクがあり、生活圏は限られるうえ、特に用事もないため、日々の楽しみが限られているからです。
そんな中、育児休暇中にネットスーパーを利用してみようと考え、試しに各種ネットスーパーのアプリをインストールしてみました。しかし、驚いたことに、私の住むエリアは配達エリア外で、利用できるスーパーが一つもなかったのです。
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「頼みの綱は生協か」と思い調べていたところ、数日後、妻から「サミットが4月からネットスーパーを始めるらしいよ」と朗報が飛び込んできました。
そこで今回は、ネットスーパーの基礎を理解し、全体像を把握するためのリサーチを試みました。
まだネットスーパーに参入していない企業が、参入を検討する動機についてリサーチしました。よろしければご覧ください。
消費者はネットスーパーに何を期待しているのか
私にとって、ネットスーパーは縁遠い存在でした。というのも、ネットスーパーの利用者は、妊娠中から小学校入学前の子どもがいる世帯や、65歳以上の世帯を対象としたサービスというイメージがあったからです。
実際に、生協ではこれらの世代を対象に利用手数料を割引しており、利用者の継続利用を促しています。
mitorizは、2024年11月19日〜25日にかけて、レシート投稿サービス「レシート de Ponta」の会員のうち、20代・30代・40代・50代・60代の各600人、計3,000人を対象に、ネットスーパーの利用状況に関するアンケートを実施しました。
その結果、直近1年間でメインとして利用したネットスーパーは、「生協」が最も多く、「イオンネットスーパー」、「西友ネットスーパー」、「楽天マート」、「Amazonフレッシュ」の順で次いで利用されています。
私たちはAmazonや楽天のECサイトでは買い物をするのに、なぜネットスーパーは利用しないのだろうかと考えたとき、多くの消費者が気にするのは送料と価格であることがわかりました。
そのため、各社の送料と価格を調べてみました。すると、送料は企業ごとに大きく異なり、複雑化しています。正直、すべてを覚えるのは難しいため、多くの消費者は一つのネットスーパーを中心に利用する傾向があると推測されます。
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それでは、ネットスーパーを利用するきっかけは何なのでしょうか。
これもmitorizのアンケート調査によると、「重いものを届けてくれる」が最も多く、「ポイントやサービスが魅力的」「初回特典が魅力的」、「買い物時間の有効活用」の順で次いで利用されています。
ちなみに、イオンネットスーパーの初回特典として、お買い物に使えるWAON POINTが200ポイントもらえます。 また、西友ネットスーパーでは、初回特典として500円オフのクーポンに加え、楽天ポイントが500ポイントもらえることがわかりました。
私が利用を検討しているサミットネットスーパーでは、入会月と翌月は月会費が無料のため、何回利用しても送料はサミットが負担してくれます。
2025年以降のネットスーパーの利用予測
前提として、ネットスーパーの市場規模は大きいことがわかっています。
富士経済の予測によると、2025年のネットスーパーの市場規模は3,710億円に達し、2023年と比較して22%の増加が見込まれています。
一方で、ネットスーパーはスポット利用が主体のビジネスモデルであるため、継続率の低さが課題として挙げられています。収益確保に向けて、ミールキットの取り扱い強化や定期購入サービスの継続利用を促す施策が提案されています。
この点に関しては、店舗出荷型よりもセンター出荷型のビジネスモデルに優位性を感じます。つまり、商品を選ぶ手間を省くことで、消費者の購買行動をより促しているからです。
食品スーパーを利用する多くの消費者は、商品を選ぶ楽しさを感じています。一方で、自分で選ぶ手間を省き、代わりに選んでもらうことに喜びを感じる層もいるため、この仕組みには一定の合理性があるといえます。
余談ですが、育休中は連日妻とお昼ご飯を食べています。今日の昼ご飯を考えたとき、3品作るよりも、食品スーパーで惣菜パンを2個買うことを選んだのも、これに近い考え方だと思います。
人はなぜセットメニューを選ぶのか?
望ましい行動を促す「ナッジ」
ナッジとは、相手に強制せずに望ましい行動を促す手法のこと。例えば、レジ前の床に描かれた矢印や、社員食堂で健康的な食品を目立つ場所に置くことで、無意識のうちに適切な行動を取らせることができる。
「デフォルト」で選ぶ手間を省く
デフォルトとは、あらかじめ選んでほしい選択肢を初期設定するマーケティング手法。例えば、飲食店のセットメニューや、小売店の「おすすめセット」などが該当する。これにより、消費者の選択の手間を省くだけでなく、客単価の向上や購買促進の効果が期待できる。
話を戻しますが、ネットスーパーの市場規模に対して、mitorizの消費者調査によると、生活必需品の購入先としてネットスーパーを利用する割合は21.0%で、前年から2.0ポイント減少しています。
年代別で見ると、30代が9.6ポイント減、20代が5.8ポイント減と、特に若年層において利用意欲の低下傾向が見られています。これは、30代や20代の若年層の利用意欲が今後も伸び続けるとは限らないことを意味しています。
もちろん、その背景には理由があります。それは、昨今続く物価高と、それに伴う節約志向の高まりです。私自身、食材の購入は妻が担当しているため、実感することは少ないのですが、毎日飲んでいるコーヒー豆のパックが、ここ数年で200円から300円高くなっていることには、敏感にならざるを得ません。
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食品通販市場に関するレポートを発表している矢野経済研究所の将来展望によると、今後の食品通販市場は成長が鈍化すると予測されています。
その理由として、配送料を含む販売価格の上昇や、若年層の利用意欲の減少理由にも取り上げた、節約志向の高まり、さらには通販やWebから実店舗への流出が挙げられます。
一方で、プラットフォーム側は収益性の見直しや、販促施策の方針転換、配送料の優遇ラインの引き上げなど、サービス内容の見直しを加速させる必要があるとも指摘されています。
ネットスーパーの勝算とは
矢野経済研究所のレポートでも触れられていましたが、ネットスーパーのプラットフォーム側が収益性を重視し、販促施策の方針転換や配送料優遇ラインの引き上げなど、サービス内容の見直しを図らない限り、消費者の利用意欲はますます低下すると考えられます。
一方で、利用者のうち、「現在メインで使っているネットスーパーを今後も使い続けたいか」という設問に対して、「はい」と回答した人の割合が全体の78.4%と高水準であり、顧客満足度の高いサービスであることが容易に想像できます。
それでは、ネットスーパーの勝算とは何か。それは、消費者のネットスーパーへの大きな需要を満たし、店舗は限界利益を高めて黒字化することです。そのためには、バスケット単価や粗利益率の向上が重要です。価格設定と買い合わせがカギとなるため、バスケットの中に付加価値が高く、粗利益率の高い商品を入れてもらえるような品揃えと推薦が求められます。
そのため、先日私が「ONIGO」のアプリを使った際、店舗価格よりお米が想定より高かったり、オールフリーのビールが売っていなかったりすると、買い控えが発生することがわかります。
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デジタル人材とのパートナーシップ
マッキンゼー・アンド・カンパニーがグローバルで行った調査・支援結果をもとに解説した記事を読んだところ、食品スーパーはデジタル・AIの変革によって利益効果を創出できることがわかりました。
具体的には、現状の課題に対して、サプライチェーンの高度化(自動発注、在庫最適化)、品揃えの最適化、価格の最適化、プロモーション・値下げの最適化、店舗人員配置の最適化に重点を置き、リソースを集中することで、先行企業が享受している数ポイントの利益改善をいち早く得られるとされています。
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一例を挙げると、タイミーでは店舗人員の配置の最適化に取り組んでいます。例えば、ネットスーパーのスタッフの業務には、ピッキングと仕分けとパッキング(梱包)があります。
その中でも、トータルピッキングとシングルピッキングがありますが、主流となっているのはトータルピッキングで、部門ごとにピッキングし、作業場に戻って仕分けを行い、複数人でパッキング作業を行う業務です。
利益効果にはバスケット単価や粗利益率の向上が重要であると述べましたが、そもそも発送する便ごとに必要な人員を確保できない場合、便数の削減や便ごとの配達数の減少が生じ、その結果、配達コストを回収できず赤字が発生してしまいます。そのため、短期的に大きな利益インパクトを出すためには、この5つの領域に重点を置かなくてはいけないのです。
ネットスーパーの事業は、面白くもあり、難しさも伴う
恥ずかしながら、私はイオン傘下のネット専用スーパー「Green Beans」(グリーンビーンズ)を詳しく知りませんでした。
こちらの動画を拝見し、Green Beansは巨額の初期投資を行い、売上の大幅な確保を目指してセンター出荷型のネットスーパーを立ち上げたことで、配達エリア内の消費者の需要を独占する可能性があるのではないかと感じました。巨額の固定費を賄うためには当然の戦略であり、私の住む埼玉県にも3拠点目となる「久喜宮代CFC」を開業予定であると知り、そのエリア拡大の方針にも注目したいと思います。
各社が仕切り直しや淘汰を進めるネットスーパー事業において、成長を支える構造的な要素と収益向上のための施策について、以下の記事で詳しく解説されています。
ネットスーパー事業の成長を支える3つの要素は、「参入する企業の数」「利用できる店舗の数」、そして「店舗あたりの売上」だといいます。
当然ながら、すべての食品スーパーがネットスーパー事業に参入しているわけではありません。つまり、参入した企業が営業利益を黒字化できるかどうかが重要な論点となり、さらに予算を投資すべきかどうかが問われています。
消費者にとってネットスーパーは非常に便利なサービスですが、「送料」や「商品の価格」は気になるポイントです。いくら便利でも、採算が合わなければ企業は参入を控える可能性があります。
なので、店舗では限界利益を出さなくてはいけません。
参入する企業の数に次いで重要なのが、利用できる店舗の数です。
私の地域では、今回のサミット以外に利用できるネットスーパーがありません。そのため、配達可能なエリアは限定的であり、店舗あたりの売上高が向上しない限り、エリアの拡大、すなわち店舗数の増加は見込めないことがわかります。
おそらく、今回サミットがネットスーパーの配達エリアと店舗数を拡大したのは、既存店舗の収益性に手応えを感じた結果なのかもしれません。
このことから、利用できるネットスーパーを増やすためには、参入企業の各店舗で限界利益を黒字化し、出店数の拡大を検討できる状態を作る必要があります。
そのためには、収益向上のための施策を実施することが不可欠です。具体的には、「注文単価の向上」「粗利益率の向上」「オペレーション生産性の向上」の3つが挙げられています。
注文単価の向上に関しては、配送料の最適な設計とユーザー体験の改善が重要とされています。具体的な施策として、レジ前商品の推奨機能や、推薦のパーソナライズ化による購買金額の増加が実現されています。
ネットスーパーでは、3,000円の注文では約15アイテム、5,000円の注文では約22アイテムがカゴに入る傾向がありますが、これらの施策によってアイテム数の増加が促進されているということです。
最後に
ネットスーパー事業は私の想像以上に消費者にはまだ利用されておらず、「伸びしろがある」と言えば聞こえは良いものの、実際には非常に難しい領域だと感じました。
妻にネットスーパーを利用しない理由を聞いたところ、「なんだか面倒くさそう」「送料が高いんでしょう?」「そもそも、実店舗のスーパーで買い物するのが好きだから」と言っていました。
一方で、デジタルやAIの活用によって、利益を生み出せる可能性のある領域でもあると考えています。将来的には、Amazonのようにスムーズに買い物ができる環境が理想ですが、物流企業のドライバー不足が深刻化している現状を踏まえると、持続可能なビジネスモデルを構築していくことも重要だと考えています。
今年1月、多くの食品スーパーが三が日の営業を停止していました。
私たちにとって当たり前の存在である食品スーパーは、生活のインフラでもあります。そして、この「当たり前」を提供してくれる食品スーパーに、今後さらにお世話になるのだろうと感じています。
一方で、食品スーパーは収益の新たな柱を作れるかどうかが試されているとも言えます。ネットスーパーがその一助になるのかどうかが気になります。
参考文献
ダイヤモンド・チェーンストア編集部 (著), ダイヤモンドチェーン・ストア編集部 (編集),『ダイヤモンド・チェーンストア2025年2月1日号 [雑誌]』,2025/2/1
国内のEC市場、ネットスーパー市場などを調査 - 富士経済グループ