当たり前だけど人にはそれぞれの人生があり、皆逞しく生きてるもんだ〜失踪日記/吾妻ひでお
学生から社会人になり、一番の変化は何か。
社会の仕組みがわかってきたこと。
幅広い年齢層の人と接する能力が身についたこと。
良くも悪くも諦めがついたこと。
多分、色々ある。
考え方の面では、攻撃性が低下したというのが一番の変化かもしれない。
たとえば、失礼を承知で言うが、学生時代にホームレスの人々を見かけると、
・みっともない
・社会の底辺にいる人たち
・働くなり支援をうけて人間らしい生活をすりゃいいのに
・なんか汚らしいな・・・・
と言うネガティブなことばかり思っていた。
今考えるとめちゃくちゃ偏った話だ。
世の中には、支援制度があったとしてもその制度の存在を認知できない情報格差があること、ある種望んでホームレスという立場を選ぶ人もいること、抜け出したくても抜け出す術と能力がない人。ホームレスに限らず、社会的に制度が万全でなく、ケアが行き届かない人がいること。
いろんな立場、状況の人がいるわけである意味蔑むように見ていた自分の見方がいかに偏っていたか。当時の自分に言ってやりたいものだ。
この話をもっと抽象化すると、多少無理があるかもしれないけど、ハンナ・アーレント氏の主張につながる部分がある気がする。
ナチスドイツで残虐の限りを尽くしたアイヒマン。
彼が特殊な性質を持っていたから平気で虐殺を行ったのだ、というのではなく、人間は立場や状況によっては、皆アイヒマンたりうる。
大なり小なり、人間には自分の中に天使と悪魔を飼っていて、時に悪魔が顔を出すことだってある。
昨今の不祥事を見てもそう。
魔が刺してお金を盗んでしまった。ちょっとした出来心で未成年と関係を持ってしまった。
大なり小なり、人間には欲がある。
そして、状況によっては、理性がその欲に負けてしまうこともある。
だからこそ、仕組みでそれを防止することが大事。
閑話休題。
本書は、吾妻ひでおさんの自伝漫画。
名前を聞いて、誰?という人もいるかもしれないが、多分、彼の目を一回も見たことのない人はほとんどいないのでは?見た目によらず、可愛らしい女の子を描いている。
経歴や受賞歴を見るとすごそうな人物。
しかし、実際の生活は締切に追われて突然失踪したり、アルコール中毒で入院していたり、自殺を図ったり。
そんな波瀾万丈な私生活がコミカルな絵で描かれている。
ホームレスになって残飯を探し回って生き延びていたり。
家族に強制的にアル中治療病院に入院させられたり。
立派な人かと思いきや、人間としては負の部分を多分に持ち合わせている。
1人の人生を辿るという意味でも楽しめるし、落ち込んだり失敗してる人にとっては、自分より大変な境遇の人もいる(多分、彼よりしんどい境遇に陥るのはかなり困難かと)んだという励みの材料にも使える。
ちょっと穿った見方かもしれないけど、本書を読み、人間って脆いけど、こんなにも逞しく生きられるんだ、ということも再認識した。
ホームレスになっても、日雇労働者になっても、アル中になっても。
多分、全ての問題や不安から解放されてハッピーなんて人はいないだろう。
それぞれに悩みを抱えながら、なんとか踏ん張って生きてる人もたくさん。
そんな人に対する応援歌にもなる一冊。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?