終わりなき旅のはじまり⑩
高校生活も残すところあと1年になった頃、
僕はまだ進路を決めてなかった。
母親はスカーフ業をコツコツと続けていた。
長女の姉には4人目の子供が生まれ、三女の姉は家族で韓国で暮らしていた。
次女の姉は入退院を繰り返し、四女の姉は1人暮らしを始めたり帰ってきたりを繰り返し落ち着かなく、僕は相変わらず1人で家にいる事が多かった。
親友の黒ちゃんは美術大学への進学を目指し予備校に通いだした。
僕はやりたい事が見つからず、進路はどうするんだと聞く母親と止むことのない喧嘩が続いた。
この頃、地元の街に友&愛というレンタルビデオ屋さんがあった。
この店の店長の事を、僕らはライオン丸と呼んでいた。
金髪ロン毛、時には豹柄のジャケットをまといギターケースを持ったまま店に入る、しばらくするとボブディランのLike a rolling stoneが流れだし開店、店内には60年代、70年代の音楽がいつも流れ、店の空間と相まって、レンタルビデオ屋なのに居心地の良さを誘った。
ある日、ライオン丸が僕に話かけてきた。
「よ、スケボー少年、今日は何観るんだい?、ちょっと待ってろよ」と言って奥からごそごそとビデオテープを持ってくる。
渡されたテープには「ウッドストック69」と手書きで書いてあり、俺のだからちゃんと返せよと言いライオン丸は笑った。
家に帰ってライオン丸から借りたビデオを見た僕は、1969年の夏に行われたアメリカの野外コンサートの模様とそこに映る人々の映像に夢中になった。
それから10年あまり続く、音楽との生活の始まりである。
そして僕は高校を卒業したあと、ライオン丸の店でフリーターとして働くことになる。
終わりなき旅のはじまり⑩おわり。