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夜半の雨|プロローグ(3)



前回のお話



コンビニ弁当を片手に
灯りのついていない部屋に帰る。

最寄りのバス停から徒歩十五分程度
大きな通りから少し外れた築三十五年
元1DKのアパート一階角部屋。

リノベーションされて
今はほぼ1Rのようになっている。

周りには家族向けの
大きな分譲マンションが並ぶが
共用庭のある南側に一つ
小さな小屋を挟んでいるおかげで
空までは塞がらずいた。

敷地を区切るブロック塀の縁に沿って
植木されているのは紫陽花らしく
一週間前に見かけた時には
まだ浅いお椀をひっくり返した様に小ぶりで
薄黄緑色の小さなガクの外側から内に向け
徐々に淡いピンク色が出てきた頃だった。

それが今朝見かけた時には
もう、円形に丸みを帯び
色もはっきりと青紫や赤紫と彩りを見せていた。

今からの季節こそ存在感を出してくるが
他の季節ではただの緑の草木。
冬なんて枝だけになって
誰の目にも止まらなくなる。


コンビニ弁当を置く間もなく
スマホの通知音が鳴った。

『昨日のシチューの残り
 冷蔵庫にあるからチンして食べてね!』

“彼女”じゃなくても
身の回りを節介してくれる人は
有難いのか何なのか分からないが居る。

冷蔵庫を開けると
昨晩一緒に食べたブロッコリーと人参
コーンの彩鮮やかなクリームシチューが
藍色の皿に上品に盛られ
ピシっと几帳面にラップされていた。

コンビニ弁当とシチューでは少し多い気もしたが
なんとか食べられなくもない量だったので
電子レンジにかける。

これ以上、距離を詰められると
後々面倒なことになると思い
勝手に色んな意味を込めて
『ありがとう』と返事し
そのまま連絡先を消去した。

ネットがあれば情報は充分に入るから
必要性を感じなくなったテレビは数年前に処分した。

最低限しか連絡をとらないから
人の声を聞くこともなく
一日を終えることも珍しくない。

仕事に打ち込んでいない分
プライベートで打ち込めることがある
というわけでもなく
延長線上にあるルーティンを
ただこなすだけ。

弁当を食べたらシャワーを浴び
ネットで一通り情報を見る。

仕事での雑談のネタになりそうな
天気や時事記事をジャンル問わず
広く浅くチェックし
Netflixで映画を見たりと
目を通す端末がテレビから
スマホに変わっただけの話。

とあるニュース記事に目が留まる。

『海外で発表されたばかりの
 国内未承認の癌ワクチンを闇ルートで
 入手及び接種した医師を逮捕』

そんな安全かも分からないものに手を出すなんて
生に貪欲なのか。死を恐れていないのか。

好奇心が命のリスクより勝るなんて
桁違いの金持ちの思考は理解できない。

まぁ一般人に理解出来ないからこそ
桁違いの金を手に出来るんだろう。

この話題はこちらから振るネタには不向きだと
スワイプしてページを閉じた。


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