見出し画像

吉野の葛切り《34》外出自粛でも旅の気分

奈良吉野山と聞いて思い浮かべること。一目千本の桜、大海人皇子と壬申の乱、南北朝と後醍醐天皇、蔵王堂、葛、歌舞伎義経千本桜。

奈良にはよく旅するのに、吉野まではなかなか行っていない。やはり奥の山なのだ。中学の修学旅行のときは間違いなく吉野まで来た。けれど、山の中だったなぁ、大きなお堂があったかなぁくらいで何も覚えていない。あとは学生服を着ていたこと、友人たちと旅館の大広間に泊ったことくらいか。大人の旅とは違うのだ。

奈良から近鉄特急で吉野に向かったのは2018年の5月連休だった。もう桜は終わり山は新緑でおおわれていた。飛鳥、壺阪山などの小さな駅を過ぎると特急も速度が落ち、急カーブで坂道を走るようになる。吉野川を渡ると吉野杉の製材所が車窓を占め、そして吉野に着く。吉野に来たいとは思っていてもあまりその知識があるわけでもない。駅前からバスで山に上がる。一気に林間の急坂を登って吉野の奥で下車。如意輪寺や後醍醐天皇陵は鬱蒼とした林に囲まれていた。この辺りをかつて南朝の人々が駆けまわっていたのだろうか。

山道をゆっくり歩いて中千本辺りまで下りてくると、道の両側に商店が目立ち始め坂も緩やかになる。そして吉野といえば葛。葛切り、葛餅、葛湯、葛うどん、葛粉などなど、葛を食べさせるところ、売っているところがたくさん。葛切りに目のない私は店頭に「賞味期限0秒」と謳う掲示を見ると嬉しさは頂点に。葛切りをいただき、ランチは葛うどんにし、葛餅、葛湯をお土産に買って幸せ一杯だ。

さて金峯山寺である。このお堂にも何も知らず来た。中学生のころのぼんやりとした映像記憶が残るのみ。その蔵王堂では秘仏の本尊蔵王権現が毎年春にご開帳になるという。そこでお堂に入るやいなや、うわぁッと圧倒された。凄いの一言。大きな大きな三体の立像がこちらに向かって降ってくるよだ。少し落ち着くと、事実やや前傾しているのが分った。全身青い憤怒の表情をした三体は過去現在未来を現しているという。感動を通り越して圧倒される。こんな経験は初めてだ。そして気がつくと私はただお堂の中に立っているのだった。

さらに興味深いのは、蔵王権現の前には小さく板で区切られた空間が横に並んでいること。不謹慎を承知でいうと「懺悔の部屋」のようにも見える。こちらは堂内をぐるりと行列ができていて、順番に1人ずつその枠内に入るのであった。順番が来て板仕切りに入ると、1人で蔵王権現を仰ぎしばし我が心と向き合うことになった。やはり懺悔の空間だったのかもしれない。

短かな時間ののち、号令のもと次の人と交代。とっても不思議な気持ちになって春の境内に出てきた。

#いま自分にできること #吉野 #蔵王堂 #葛切り

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?