叙情派プログレと小説の関係性 【歴史奉行通信】第十三号
こんばんは。
伊東潤メールマガジン「第十三回 歴史奉行通信」をお届けいたします。
〓〓今週のTopic〓〓
1.ロックバンド『金属恵比須』のアルバムに参画
2.叙情派プログレと小説の関係性
3.お知らせ奉行通信
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1. ロックバンド『金属恵比須』の
アルバムに参画
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さて、今回は音楽の話題です。
今年は、いよいよ音楽界に進出します。
と言うのは冗談で、金属恵比須(http://yebis-jp.com/)という
ロックバンドのアルバムに作詞家として参画することになっただけです(笑)。
いずれにせよアルバムに自分の名がクレジットされることは、
音楽数寄の私にとって感無量なことです。
詳細については後日、発表させていただきますが、
今日は私の音楽に対する思いを語っていきたいと思います。
かれこれ40年、私の好きな音楽はプログレッシヴ・ロックというマイナーなジャンルです。
この分野の代表的なバンドとしては、
ピンクフロイド、イエス、キング・クリムゾンといったイギリス勢が中心で、
一時は衰退の一途をたどっていたのですが、
2010年代になってから再評価の流れがやってきています。
そうした中、私がとくに好んで聴くのはイタリアンロックという、さらにマイナーなジャンルです。
今日は三年ほど前に雑誌「レコード・コレクターズ」に寄稿したエッセイを元に、
私の作品と音楽の関係について語りたいと思っています。
なお実際は長尺エッセイなので、
ベスト10をベスト3にするなどして短縮してありますので、
最後までお付き合い下さい。
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2.叙情派プログレと小説の関係性
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圧するばかりの黒雲が、教会の尖塔に触れるほどに垂れ込める。
にわかに起こった風によって鐘が鳴らされると、
はるか遠くに雷鳴が轟き、待っていたとばかりに雨が降り出す。
路上に佇む男は救いを求め、天に祈りを捧げるが、
天は聞く耳を持たないかのように、男を濡らしていく。
もはや救いはなく、この世は悲嘆だけに覆われている。
遂に絶望した男が、石畳にくずおれた時である。
にわかに空が明るむと、雲間から一筋の光明が差してきた。
男が天に向かって両手を差し伸べると、光は男に注がれた。
神はいる!
救いはあるのだ!
男の歓喜の声が、石造りの建物の間に響きわたる。
だが、次第に雲間は閉ざされ、再び冷たい暗黒が訪れる。
絶望した男は、その場に突っ伏し、やがて白骨と化していく。
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叙情派プログレを文章で表そうとすれば、こんな感じか。
われわれ日本人は叙情派プログレを聴くことで、
眠っていた創造性を刺激され、映像的イメージを思い描く。
そして、深遠なるヨーロッパ文化の一端に触れた気がするのだ。
叙情派プログレの魅力は何かと問われれば、
ヨーロッパ文化への羨望と憧憬に尽きるだろう。
それはガイドブックなどにある写真を見て、
かの地に憧れを抱くのとは異なり、
音楽によって感性を刺激されることで、
日本とはかけ離れた都市や田園の情景がイメージとして喚起され、
無性にそこに行きたくなるのだ。
叙情派プログレが、欧米以上に日本で隆盛を誇っている理由はそこにある。
つまり文化的に距離のある日本人の方が、
叙情派プログレが創造性を刺激するツールに成り得るのだ。
私は小説家である。
しかも歴史小説という極めて古臭いジャンルを手掛けている。
おそらく拙著を読んだことのない方のイメージとしては、
英雄豪傑が大暴れし、
覇を競い合うという爽快なものを想像するのではないだろうか。
まあ、そうしたものもまれにはあるが、
私の作品の大半は苦渋に満ち、
人間の本質を暴き出すドラマばかりである。
というのも私は、先達の小説作品よりも叙情派プログレから影響を受け、
それを小説という形式に託して作品化しているからだ。
例えば、『スターレス』というキング・クリムゾン
(https://www.youtube.com/watch?v=OfR6_V91fG8)
の曲を聴き、この無常観を基調低音とした小説が書けないかという思いから、
『戦国鬼譚 惨』(講談社)(http://amzn.to/2I1Ubx8)
という連作短編集を書き上げた。
またレッド・ツェッペリンの『カシミール』を聴き、
(https://www.youtube.com/watch?v=hAzdgU_kpGo)
この壮大な叙事詩から受けたインスピレーションを小説に落とし込めないかと考え、
『武士の碑』(PHP研究所)
(http://amzn.to/2CZqWHK)
『走狗』(中央公論新社)
(http://amzn.to/2oV4qLg)
『西郷の首』(KADOKAWA)
(http://amzn.to/2FsYGTa)
という明治維新を材に取った長編三部作を書いた。
こうした影響は、曲そのものから受けるものもあれば、
プログレの持つ構成の妙を借用させてもらうこともある。
『池田屋乱刃』(講談社)(http://amzn.to/2D2cler)という連作短編集では、
トランスアトランティックの『旋風』(http://amzn.to/2Fh4rjw)に倣い、
物語の様々な場面で様々な角度から池田屋のシーンが顔を出し、
また主役が脇役に、脇役が主役へと目まぐるしく変わることで、
志士たちの目指したものと、その死に様が重層的にイメージできるようになっている。
さらに『天下人の茶』(文藝春秋) (http://amzn.to/2D0EnqT)という作品では、
一つの短篇を前半と後半の二つに分割し、
プロローグとエピローグのように短編集の前後に付けることで、
利休の死の謎が次第に明らかになるような仕掛けを施した。
最初の曲のリプライズをどこかで行うという手法は、
プログレ以外のアルバムでもよく使われているので、ご存じのはずである。
プログレの世界に耽溺して、約40年になる私だが(エッセイ執筆時は55歳)、
やはり叙情派プログレと言えばイタリアだと思う。
その古代ローマ帝国の神殿を思わせる荘厳な構築美には、幾度となく啞然とさせられてきた。
せっかくの機会なので、
イタリアのアーティストに限った叙情派プログレ・ライフタイムベスト3を選出したいと思う。
第3位 オザンナ『パレポリ』
(http://amzn.to/2D07cns)
中東の雑踏を思い起こさせる導入部が聴く者のイメージを喚起させ、
異様な世界が幕を開ける。
現実から幻想の世界への扉はこじ開けられ、異教徒たちの祝祭は続く。
まさにサイケデリックの極致だが、
そうした中にも、彼らの出身地であるナポリという町の叙情が漂っているところが、このバンドの持ち味だろう。
その独特の世界観は唯一無二である。
即興性の高い演奏が縦横無尽に繰り出されつつも、
抑え難い叙情がにじみ出るイタリアンロック不滅の金字塔。
エリオ・ダーナの中空を飛び交うようなフルート演奏が凄まじい。
第2位 アルティ・エ・メスティエリ『ティルト』
(http://amzn.to/2I3v3pZ)
このバンドのバックグラウンドはスタイリッシュなジャズロックだが、
そこはイタリア人である。音符の間から叙情が溢れてくるのだ。
それが喩えようもない郷愁を生み出し、聴く者のイメージを押し広げていく。
超絶技巧を駆使したライブの凄まじさは言うまでもないが、
最新作が、かつての作品群に引けを取らない鮮度と完成度を保っているのも驚きである。
デビュー作の『ティルト』とセカンドの『明日へのワルツ』を聴いた後は、
ぜひ最新作の『ウニベルシ・パラレリ』を聴いてほしい。
音楽のもたらす感動が、時代を超えるものだということを知ってもらえるはずだ。
第1位 バンコ『ファースト』
(http://amzn.to/2D07HOm)
その構えの大きさ、展開の大胆さ、そして時折、雲間から差す薄日のように漂う叙情性。
さらに時代を超越したアヴァンギャルドさも内包している空前絶後の名盤。
ノツェンツィ兄弟の革新性とフランチェスコ・ディ・ジャコモのオペラティックなボーカルが化学反応を起こし、
唯一無二の世界を現出させている。
個人的には、ライブを見ながら涙を流した唯一のバンドがバンコである。
イタリアンロックの決定的名盤はこれだ。
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さて、いかがでしたか。
音楽はクリエイターのインスピレーションを喚起し、
霧が晴れるように新たな展望をもたらしてくれるものです。
とくに私の場合、叙情派プログレの深い森に踏み入れば、
聴くたびに新たなパースペクティブが開けてくるのです。
音楽の不思議さがここにあります。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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3.お知らせ奉行通信
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