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『真実の航跡』執筆にあたって      歴史奉行通信】第三十六号

いよいよ二月も後半ですね。
まだ寒さは続いていますが、
少しだけ春の息吹が
感じられる季節になりました。

今夜も伊東潤メールマガジン
「歴史奉行通信」第三十六号を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. はじめにー
「日本人にとって、
あの戦争とは何だったのか」

2. 作品のベースにした
「ビハール号事件」とは

3.『真実の航跡』執筆にあたって
(「小説すばる」2018年1月号
「カーテンコール」より)

4. 終わりに / SNS投稿ご協力のお願い /
Facebookファンページのお知らせ

5. 伊東潤Q&Aコーナー

6. お知らせ奉行通信

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1. はじめにー
「日本人にとって、
あの戦争とは何だったのか」

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春と言えば春一番。
春一番が吹くと思い出すのは、
ウインドサーフィンを
やっていた頃です。

1983年にウインドサーフィンを
始めた私は
1996年に隠退するまで、
ウインドサーフィンに
没頭していました。

風を切って海上を疾走すること、
つまり
エクストリーミング・スポーツに
無上の喜びを感じていたのです。

まだサラリーマンをやっていた
90年代の前半は、
冬になるとハワイ、グアム、サイパン
といったリゾート地に避難し、
ウインド三昧の日々を過ごしていました。

最長で10泊12日の
グアム旅行というものまでありました
(IBMの営業なのにね)。

スノボも1989年に始めた
草分けの一人でした。

非対称の板で
ハードブーツにもかかわらず、
92年頃にはカーヴィングターンを
ガンガン決めていました。

ウインドは23歳から始めて
36歳まで、
スノボは29歳で始めて
38歳までやりましたが、
運動神経や体力がピークの頃に
楽しむ趣味として最適でした。

私の場合、若いうちに
エクストリーミング・スポーツを
存分に楽しみ、
四十代は城めぐりと合戦祭りに
没頭するという、
理想的な趣味人生を送ってきました。

それはさておき、
私は1960年生まれです。
しかも横浜生まれの横浜育ちですから
身近に米軍関連施設も多く、
日常的に外国人(白人)を
見てきました。

それゆえいつの日か、
「日本人にとって、
あの戦争とは何だったのか」
というテーマに取り組まねば
ならないと思ってきました。

その思いを結実させた作品が
『横浜1963』であり、
この3月5日に発売される最新作
『真実の航跡』であり、
また「ランティエ」誌上で
連載が始まる
『琉球警察』です。

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2. 作品のベースにした
「ビハール号事件」とは

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今回は『真実の航跡』について
語ろうと思います。

この作品を執筆するにあたり、
ベースにしたのは
「ビハール号事件」という
日本海軍最大の汚点とも言える
虐殺事件です。

この事件については、
Wikipediaなどで概要が摑めるので、
ここでは詳述しません。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbE

簡単に記すと、
日本の巡洋艦が撃沈した
商船の船員を救ったにもかかわらず、
一部を除いた多くの人々(69人?)を
虐殺したという事件です。

正規の裁判記録が
公開されていないため、
資料本によって犠牲者の数に
多少の変動がありますが、
専門誌「丸」の掲載記事に従うと
以下のようになります。

ビハール号の被害者人数
(雑誌「丸」に掲載された
『インド洋「さ号作戦」の真実』
の数字を踏襲)

・乗員 / 115名
内訳は、
白人(イギリス人とオーストラリア人)
/ 44名
インド人とゴア人 / 71名

・沈没時の行方不明者
(すべてインド人) / 3名

・捕虜 / 112名
内訳は、
上陸を許された者 / 42名
(主に英国人将校) 
その後の行方不明者 / 1名
処刑者 / 69名
(うちインド人20名)

皆さんは
「日本人が69人もの人々を
虐殺するわけがない」
とお思いかもしれません。

私も当初、
何かの命令伝達ミスや
反乱の予兆などによって、
殺すつもりのない捕虜を
殺してしまったのだと
思っていました。

ところがそこには、
軍隊という硬直化した組織の
根深い問題が隠されていたのです。

つまり下達された命令の捉え方と、
それぞれの立場での「忖度」、
そして個人の性格や野心が重なり、
こうした悲劇が
起こってしまったのです。

とくに昨今、
立て続けに起こっている
各省庁の記録改ざん問題、
日大タックル問題、
ボクシングやレスリング協会問題
といった日本固有の組織的問題の
根源が日本の軍隊組織に
求められるのは、
誰もが知るところです。 

それでは、
『真実の航跡』執筆にあたって
「小説すばる」誌上に掲載された
エッセイを再掲載いたします。

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3. 『真実の航跡』執筆にあたって
(「小説すばる」2018年1月号
「カーテンコール」より)

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「臭いものには蓋をしろ」
という慣用句があるが、
日本人にとって先の大戦は、
いろいろな意味で
蓋をしておきたい悪夢であろう。

しかし日本が侵略戦争をした上
(異論があるのは承知だが)、
連合国に敗れ去ったのは
厳然たる事実だ。

さらに戦犯問題となると、
多くの日本人が
聞きたくない話のはずだ。
そのためか日本人の多くが、
BC級戦犯のほとんどが
無実の罪を着せられ、
連合国軍の恨みを晴らすために
処刑されたと
思っているのではないだろうか。

しかし最近の調査結果によると、
BC級戦犯の何割かは間違いなく
戦争犯罪を行っており、
彼らが冤罪を主張する論点は
「やったか、やらなかったか」
ではなく、
「上官の命令があったか、
なかったか」が
ほとんどという事実がある。

われわれは、
祖父の世代が犯した罪から
逃れることはできない。
否、逃げてはならないのだ。

今回、私は
「小説すばる」初登場になるが、
BC級戦犯裁判をめぐる人間模様
という極めて重いテーマに
取り組むことにした。

もちろん実際にあった事件を
モチーフにしているが、
そこからは逸脱し、
今日残されている様々な
BC級戦犯のエピソードなども加え、
架空の物語として描くことにした。

小説の存在意義は、
事実を正確に伝えることよりも、
そのエッセンスを凝縮し、
物語として提示することで、
読者に問題の本質を
把握いただくことにあると思う。

それゆえ細部においては
実際の事件とは異なる点もあるが、
当時の戦犯裁判の雰囲気を
伝える上においては、
まさしく「史実」に沿ったものと
自負している。

私がこの作品を通して伝えたいのは、
真実を追求することの大切さであり、
結果が望むものにならないと
分かっていても、
真実を伝えていく努力を
怠ってはならないということだ。

ぜひこの機会に、
本稿を通してBC級戦犯事件について
少しでも知っていただき、
その中で繰り広げられた
壮絶な人間ドラマと向き合ってほしい。

これも日本人が歩んできた道の一つなのだ。

(エッセイ終了)

**********

この作品は
「関係者すべてが、
まっとうな人間であり、
立派な軍人であるにもかかわらず
起こってしまった戦争犯罪の悲劇」
を描いており、
そこから汲み取れるテーマは、
「戦時における責任の所在」、
つまり組織の問題です。

硬直化した日本の縦割り組織や、
日本人の希薄な責任意識、
要りもしない忖度といった
日本人の「組織の膿」が
今日まで連綿と続いているのは、
過去から積み上げてきた
負の遺産によるものです。

次代を担う若者たちは
そうした古い体質を捨て、
国際社会でも通用する
価値観を身に付けていかねば
なりません。

本作は一つの問題提議であり、
本作をきっかけとして
「あの戦争とは何だったのか」
「戦犯問題とは何なのか」
「日本人は国際社会の
仲間入りを果たせたのか」
「人としての責任と
義務とは何なのか」、
そして
「組織とは何か」
といったことを
考える機会としていただければ
幸いです。

この作品のテーマは、
それだけではありません。
戦前世代=父性に対する
戦後世代の反抗と否定があります。

しかし戦前の世代の価値観を拒否し、
消し去ることはできません。

戦前から戦後という
価値の大転換期にあって、
若者世代は古い世代の
価値観を踏まえた上で、
国際社会の一員としての新たな価値観を
築き上げねばならなかったのです。

『真実の航跡』は
12月に行われた「プレビュー読書会」や、
読書会で意見を言うのは気後れする
という方むけに、
読書のエキスパートと事前に作品について
語り合えるミニイベント、
「プレ読書会」でも
実に様々な意見や感想が出た
作品となりました。

一人でも多くの方に
この物語を読んでいただき、
巨視的観点から
戦争と戦後を見つめ直して
いただきたいと思っています。

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4. 感想・SNS投稿ご協力のお願い /
Facebookファンページのお知らせ

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今回のメルマガはいかがでしたか。
皆様は
「日本型組織」について、
いかにお考えですか。

私のメルマガについての
感想はもちろんですが、
皆様のお考えをSNSなどで
語っていただければ幸いです。

尚、アップいただく際は是非
「#歴史奉行通信」
「#伊東潤メルマガ」
のハッシュタグをつけてください。

伊東潤のメルマガ
「歴史奉行通信」は、
読者の方々の意見を取り入れながら
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ご意見やご希望、
また質問もどんどんお寄せ下さい。
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是非覗いてみてください。
ファン同士の会話を楽しみたい方や、
ニュースをいち早く知りたい方は、
ぴったりのオンラインコミュニティです。
私も不定期で登場します。
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5. 伊東潤Q&Aコーナー

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続きまして質問コーナーです。

Q.
過去、創作期間中に書いている
物語や登場人物が
夢の中に出てきたことはありますか?
また、それはどんな作品でしたか?
(立春さま)

A.
さすがに歴史上の人物が
夢に出てきたことはありません。
残念ながら高島礼子様も出てきませんね(笑)。
でも眠りが浅いのか、よく夢は見ますね。

昨夜は広い日本の屋敷で
何者かと決闘をしました。
槍で突いても死なないので、
怖くなって庭伝いに逃げ出しました(笑)。
(伊東潤)

***************

いつもご質問をはじめ、
ご意見、感想をいただき
有難うございます。

インタラクティブを心がけている
伊東潤のメルマガでは、
皆さまからの質問に最大限にお答えします。
是非お気軽に以下のリンクより
お送りください。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbH

最後になりましたが、
2/26に永田町駅近くの
プレジデント社で講演会をやります。
「お城EXPO2018」で行った内容と
スライドは同じですが、
説明の力点は戦国時代後期、
とくに八王子城と山中城の攻防戦に
置きたいと思っています。
ぜひいらして下さい。
お申し込みはこちらからどうぞ
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbI

皆様にお会いできることを
楽しみにしています!

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6.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

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【新刊情報】

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一人の若き弁護士が
“勝者なき裁判”に挑む。
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毎週火・木更新でなんと全文掲載!

まだの方は是非こちらもチェックください。
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【読書会・主催イベント情報】
現在予定している、
読書会および主催イベント情報一覧です。

2/26(火)
『歴史作家の城めぐり』刊行記念講演決定!
12月に行われた
お城EXPOの講演をベースに
関東戦国史に残る城郭攻防戦等を解説します。
『歴史作家の城めぐり』紙または電子書籍
購入者は参加費無料となります。
是非この機会に伊東潤のライブ感溢れる
講演を体験ください。
詳細・お申し込みはこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbS

3/24(日)
第2回 伊東潤の城めぐり 特別編
「『真実の航跡』発売記念 戦艦三笠 in 横須賀」
募集開始!

『真実の航跡』発売記念オフ会です。
神奈川県横須賀市に保管展示されている
戦艦三笠(横須賀)を見学し、
当時から現代につながる航跡をたどります。
詳細・参加はこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbT

4/13
第14回「伊東潤の読書会」は
連作短編集『家康謀殺』の
プレビュー読書会を予定

5月
第3回「城めぐりオフ会」
『武田家滅亡』1泊2日ツアーを計画中。
一日目 : 新府城・武田八幡宮・躑躅ヶ崎居館・恵林寺(宿泊は石和温泉)
二日目 : 勝沼氏館・天目山方面(大善寺・四郎作古戦場・鳥居畑古戦場・景徳院・栖雲寺)
(5/11-13の間の一泊二日を予定しています。
詳細は追って告知します)

6月
第15回「伊東潤の読書会」は
『潮待ちの宿』の
プレビュー読書会を予定

8月
第16回「伊東潤の読書会」は
『茶聖』の
プレビュー読書会を予定

9月 7日
第3回「城めぐりオフ会」講演会
&山中城見学ツアー at 三島
10:30から三島市民文化会館で開催される
伊東の講演「山中城と北条氏の城」(無料)の後、
路線バスで山中城に行き、
見学ツアーを開催します(小雨決行)。
大雨の場合は昼から懇親会を予定。

【TV / ラジオ出演情報】

☆「マイあさラジオ」
(4月以降も継続決定!)
NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbU

☆『デバッグ・トゥ・ザ・フューチャー』
(dTV)
AR(拡張現実)を駆使した作品を
生み出すクリエイターとして知られる、
川田十夢さんの新番組に
伊東潤がゲストとして登場します。
伊東の出演は3月2日(土)22時から
dTVチャンネルで配信予定です。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/bmzQaaea2reHkqbV

【メルマガバックナンバー】
伊東潤の魅力がたっぷり詰まったメルマガ
「歴史奉行通信」。
途中からご登録いただいた方や
「読み逃した!」という方に向けて、
バックナンバーが読める仕組みを作りました。
以下の伊東潤のnoteのサイトより
バックナンバーの購読が可能になります(*一部有料)。
一回ずつアップしていきますので、
お楽しみに。
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