ポートスタンレー(内容は関係なし、90年当時の不法移民の問題についでの答弁。この後にクォンタムファンドがポンド暴落の引き金を引く。世に言う『ソロスvsイングランド銀行』)
彼はマギー・サッチャーの追求の手が自身に及ぶのを恐れていたためだ。
この戦いで、アルゼンチン経済は悪化の一途をたどっていた。
サッチャーがNATОと欧州諸国に真っ先に取り付けた約束……経済圧力、さらに海外に投下されたアルゼンチン資本の『全面凍結』が一挙に効力を持ち始めていたのだ。
既に海外諸国から投資されていた資本は、二十三パーセント減っていた。
つまり半年もすれば餓死者がでてくる状態だった。
これが、ガルチェリ独裁政権の『消滅』を意味していたことは言うまでもない。
六月十一日から英国軍は『姉妹尾根』『ロングドン山』を掌握。
更に『ダンブルダウン山』を経て『サッパー高原』にまで英国軍は迫った。
この間、後続の英国陸軍は増強され続けている。
すでに勝敗は決定していた。
*
この時期、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスは土砂降りの雨が降っていた。
ローマ法王『ヨハン・パウロ二世』はこの日、初めてこの首都を訪問した。
本来、英国訪問の予定が入っていたのだが、それを急きょ先送りしたという。
ブエノの空港に降り立ったのである。
ローマ法王についていた護衛の一人が呟いた。
「ガルチェリ大統領にはお気をつけください。彼らは法王を政治的に利用しようと画策しています」
ヨハン・パウロ二世は何もなかったかのように目を閉じていた。
彼は雨の空港の中で、祈りをささげた。
「親愛なる我が主、イエスの御心が無くなった両国の兵士たちと共にありますように……アーメン……」
雨の中、法王の手にしていたロザリオは濡れていた。
ブエノスアイレスの住民たちは歓声をあげた。法王はガルチェリの側近たちをほぼ無視する形で、一連のミサを終えると、静かな面持ちでその地に接吻したという。
★
フォークランド戦争の最終局面……スタンレー攻略の詰めが行われていた、その頃。
ニューヨークの国連安全保障理事会の空気は完全に張り詰めていた。
『死の谷の戦い』
つまり、フォークランド海峡でイギリス軍とアルゼンチン空軍の演じた壮絶な戦いの全貌がメディアを通じて明らかになっていたのである。
この時ペルーは口を閉ざしていた。
イギリス外務省のニッコー・ヘンダーソンは国連本部のフロアーで落ち合った。
「パナマとスペインの共同提案のほうは、拒否権一つで葬ってやったよ」
国連大使のアンソニー・パーソンズは言った。
彼自身は、四月からこの方、不眠不休で動いていた。さすがに疲れ切った模様である。
「カーク・パトリック女史の方はどうでした?」
ニッコー・ヘンダーソンとしてもかなり派手にロビー活動を演じたつもりだ。
悪趣味だったが……。
パーソンズ国連大使は眼鏡を外すと、目をしょぼつかせていた。
「まァ、あれぐらいやらなきゃロビー活動とは言い切れないがね。私も相当に暴れさせてもらったよ」
例のアルゼンチン大使館でのパーティーの一件である。
パーソンズ国連大使はジミー・カーター大統領の時代に起こった、イランでの『米国大使館員人質事件』を引き合いに出して、米外務省筋を痛烈になじった。
「知性と品格のパトリック女史も、顔にドロを塗られたってわけですな」
ニッコー・アンダーソンは言った。
「アメリカ国務省のアル・ヘイグは南米外交路線をシフトしたんじゃなかったのかね?」
「と、言いますと?」
「レーガン大統領は今、ロンドンに飛んでいるだろう?エリザベス女王とマギー・サッチャー首相に会見するために」
「ええ」
「私に言わせれば、アルゼンチンとソ連に対する当てつけさ。レーガンは絶妙に振舞ってる……絶妙にね。でなきゃサイドワインダーをこっちに回してくれたかね?あれが無きゃ、今頃、こっちのハリアーは袋叩きにあってたろう。彼はカウボーイってわけさ」
パーソンズは笑った。
「ミッテランとは正反対ってわけですか?」
「ああ、そうだろうな。やつもまさか、チリのピノチェトが動くとは考えもしなかったと思うよ」
*
ロナルド・レーガンは最初から水面下でサッチャーを支持していた。
「結局、鉄の女がやったな」
レーガンはキャスパー・ワインバーガーに言った。
「ええ」
「最初はどうなる事かと肝を冷やしたが」
「ピノチェト将軍を持ち出してくるとは、悪趣味といおうか……」
レーガンは苦笑していた。
「『リオ条約』のアプローチはこれ以上無駄でしょう?」
「まあ、これからどうなるか……」
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