ポートスタンレー『シーハリアー』1982 年(死の谷の戦い)
トムソン准将は背筋が寒くなった。
「まずいな」
テイラー少佐は呟いた。
「早いうちに敵の戦闘機が来るのは致し方ありません」
「ハリアーは?」
トムソン准将は言った。
「既にハーミーズから十機発進しています」
キーブルの声がした。
「どっちにしてもこっちはハリアーに命を託すしかないな」
テイラー少佐はフィニングヘッドの海岸線を肉眼で追いながら呟いていた。
事実、敵はこの早朝にこの機動艦隊の姿を確認していた。
この間、統制艦フィアレスは真っ先に上陸用船艇を切り離して、対空陣地をサンカルロスの北側に築こうとし始めた。
しかし、この間フォークランド海峡で統制艦フィアレスは故障を起こしている。
余りの長距離移動を続けてきたため潮風で艦が痛めつけられていた。
移動距離一万三千キロが、いかに無理に無理を重ねてきたかがこの時はっきり出た。
朝日が昇り始めた。
「じき敵が来る」
上陸用舟艇から漸く陸地に辿り着いたコマンド大隊は、各々『プロウパイプミサイル』を構えていた。
この『プロウパイプ』とは後に言う『スティンガー対空携帯ミサイル』のことである。
この時、駆逐艦とフリゲート艦、巡洋艦は統制艦フィアレスとキャンベラ、そしてイントレピットを軸にして、第二防御線を張った。
それを囲みこむように、第一防御線をつくり始めた。
激戦が始まる。
ところが、それが間に合わない状況の中、西フォークランド島の山岳地帯から出現した。
スカイホークとミラージュによるアルゼンチン空軍第一波である。
駆逐艦シェフィールドが撃沈された時と同様だった。
レーダーサイトに機影はうつらなかった。
「思ったとおりだっ!」
一瞬、各艦艇のポッドからチャフが舞いあがった。
「み、見えるっ!」
戦闘爆撃機が肉眼で捉えられた。
驚くべきことにミラージュとスカイホーク機は海面すれすれ<三メートル>の高度でフォークランド海峡に侵入してきた。
「レーダーサイトにうつらなかったのは、このせいだ……」
第一防御線のフリゲート艦のクルーは叫んだ。
同時に第一防御線の艦艇は弾幕を張り始めた。
タイガーキャット、シーダートミサイルが朝日の中で風をきって飛んでいく。
敵のミラージュが回避運動に入った。
その後からスカイホークが低空からフリゲート艦のレーダーをかすめるように横切った。
一〇〇〇ポンド爆弾の水柱が上がった。
「ハリアーはまだか!」
ウッドワード司令長官は叫んだ。
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