アイスランド旅日誌 (5)
11月23日(2日目)
アイスランドはやはり自然を充分に満喫したい。そのためには国を(と言うか、島を)大きく巡るのがいい。しかしそのためには日数を充分に確保しないといけない。車を調達して自分で運転、それはいいとしても(ちなみにアイスランドでは車は右側通行です)この時期になると道路が凍結したり雪で安全な交通が確保されていなかったりすることも考えられ、やっぱり夏に出掛けるのがいいだろうと思う。そうなるとアイスランドの表情がまた変わって、快適な国になってしまい、それはお客さま向けのものでしかないような気がする。そういうことを考えて僕たちは、冬という季節を選んだのでした。そのアイスランドの全体はこの地図で。
この地図で全体を巡るように点線で描いてあるのが幹線道路の Ring Road。これを回るには最低限これだけは見たいという人たちでも5日間は必要です。もっとゆっくり見て回りたい、ドライブの時間も余裕がほしい、という人は7、8日間で計画をするように勧められています。ガイドブックに載っている驚異の大自然、そういう景観を実際に目にしたいという人はこちら。
しかしそこまで大きく回らなくても、もう少し小さくてもいいという観光ツアーがあって、それが Golden Circleツアー。上の地図で、南西に Reikjavik、その少し右側に小さく Golden Circleと書いてあるのがそれです。その拡大図を下に。
(地図はいずれも Rick Steves著ガイド『アイスランド』から)
マイクロ バスが朝8時にホテルまで迎えに来てくれました。20人ほどでほぼ満員です。最後部に席が2つ空いていたので、そこにドッカリ。これから8時間、何しろ寒いだろうからスキー用のジャケットで着膨れているのでマイクロバスは狭くて仕方がない。それでも寒いよりはいいですからね。袖が触れ合うお隣さんはイギリスからの観光客、他生の縁でニッコリ、そして時々は会話を交わしたり。ルートは点線で描いたものをレイキャヴィクから左回りです。運転手の若者がガイドも兼ねて案内をしてくれます。とは言うものの、外はまだ真っ暗、車内も真っ暗ですから観光も何も、マイクで喋るのさえ憚られるような雰囲気でスタートしました。静かに小一時間も走ってから最初のトイレ休憩。9時30分、だけどまだ真っ暗です。しかも寒い。ジャケットの襟を立てて、寒さに対して身構えました。それからここで数枚の絵葉書を買いました。郊外のトイレを利用するためにはコインが必要と聞いていたので、そのための準備です。(結局、小銭は使わなかった。)
それからは徐々に空も白んできて、ガイドさんのトークにも活気が出てきます。10時20分、最初の滝に到着しました。Faxi滝です。バスから降りて、その展望のためにしつらえた場所まで歩くのですが、しかしここでまたしても凍った道です。手前の簡単な展望台は板を貼っただけのもので、これがまたよく滑る。そこから続く通路を歩いて下に降り、滝に近いところから展望しようという人もいましたが、僕は遠慮です。
この滝は手前の展望所からも全景が見渡せます。河の幅は 50mくらいでしょうか、それほど広くはありません。広いのは河の両側に広がる平原です。その平原が2つに折れるように割れたということだったのでしょうか、小さな島の中でこういうことが起こった時代を想起したりしました。滝の大きさを言うと以前に見たナイアガラの滝とは比較にならず、それほど驚くものでもないのですが、この季節の曇り空の下の滝というのはやはり怖いものがありますね。(滝の左側に階段が見えますが、これは川上りをする鮭が上流に上りやすいように設置されているものだそうです。)
それからまたしばらく走り続けること30分くらいでしたか、11時20分、大きな休憩所に到着しました。そこにはマーケットもあって、目についたものが簡易アイゼン、これはつくづくありがたかった。
前夜の市内観光でも苦労したのが凍った道路です。どこでも凍っているわけではないのですが、道路はたいてい湿っているし注意しないと滑ります。それで恐るおそる下を見ながら小股で歩くことになるわけです。が、これがあればもう安全、とりわけこの日のようにアウトドアを歩いて回るには必携です。ここでは雪が積もっていましたからね、迷わず購入しました。同行の人たちはすでに展望所の方へ進んでいました。僕たちも早速アイゼンをつけて同行の人たちを追い掛けます。そしてこれが今日の一番の見どころである滝 Gullfoss滝です。
雷鳴滝とでも言うのでしょうか、いや確かに見ものです。これはアイスランドの中でも有数のもので、割合に近くから展望できるので、臨場感が迫ってきます。それから水流の落ちる音、その轟々たる流れはいかにも冷たく岩肌を凍らせて、じっと見ていると引き込まれそうでした。
ひと渡り歩き回ったり写真を撮ったりして(寒かった)時間を過ごした後、さぁまた出発。凍てついた山脈に囲まれた広大な平原の中、1本の道路が白く続いて僕らのマイクロバスはひたすら走る。ところどころに建物があって(あんなところにポツンと、淋しくないのかな)と気になったりしているうちに11時50分、本線から折れて狭い道路をずっと辿ると(左右には馬や羊が放牧されていました)寂しく立っている建物に到着しました。この建物は馬や羊の世話をする厩舎、飼育舎です。
こうした動物たちはアイスランドでは、寒風吹き荒れ、雪が積もる中で放牧されています。この中に入っている馬や羊はしばしの憩いを得られているわけですが、またいずれは厳寒の中に戻されるのです。僕たちは藁を手に取って、馬たちに食べさせたりしましたが、そういう観光客に目も上げず、寂しげに藁を食む姿が心に残りました。そうしてしばし動物たちと接した後、外に出たら霰が降っていて、遠い平原には白く点々と羊たちがたたずんでいました。
12時20分、続いてのスポットは間欠泉、Geysirこれも今日の見どころの一つでした。日本人である僕たちには白煙を上げる大地というのはそれほど驚くような光景ではありませんが、広い地帯にわたって地中で温められた水が流れ、溜められ、あるいは3、4分おきに10メートルほども噴き上がる湯水を見るのは珍しいものです。このビデオを撮ろうと噴き上がるのを待ってはチャンスを逸し、待っては逸ししているうちに時間が経ってしまいました。残された時間でランチの、今日もやっぱり肉スープ。さ、先を急ぎましょう。
Thingvellirと言うポイントに着いたのは2時45分。ノルウェイ、スウェーデンのバイキングが海を舞台に活躍していた頃、アイスランドに渡ってきた一派がいて住み着いた、それがアイスランドに人が定住した最初と言われています。西暦1400年から 1800年にわたって集会を開いていた場所がここ。今はその目印に旗が立っていて、「世界で最初の議会」と喧伝したりしていますが、実際にはその集会では合議で物事が決められたようなことはなかったようです。が、ここが知られているのは別の理由があって、ここでは地球の割れ目が見られるのです。
ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸が海底では合体しており、北の方で島として海上に突き出ているのが、このアイスランドの島です。つまり2つの大陸が結合しているわけですが、これが今は離反するように移動している、年間に数センチずつ離れていっているというのですね。その割れている証拠を見られるのがここです。僕たちもその中を歩きましたが、何しろ雪が降っていて、坂道を歩くのは大変だし、展望台は滑りやすいしで、結局よく注意してみることは出来ずじまいでした。しかし、ここを実際に歩いたという記憶があれば、まぁそれでいいかな。
このゴールデン サークルではグトルフォス滝、ガイシール温泉高原、それからこのシングヴェトリル、これが3大観光スポットと言われています。しかし、本当はどこまで走っても広がる大自然の生きた姿、それこそはアイスランドの顔なのだと思います。
午後4時近く、車内から思い出の雪山の写真をパチリ。もう8時間が経過していました。これでホテルへ帰ります。これまでウェブページや雑誌などで見てきたアイスランドの景色、その片鱗に触れた一日でした。