
09. イパネマ ビーチで波と戯れて
イパネマ・ビーチの続きです。
若者が4、5人のグループを作ってサッカーボールをトスして遊んでいる一方では、娘さんが肌を太陽の光にさらしている。また、パラソルの下で、ビーチチェアに身体を沈めては白日夢の世界に浸っている人たちがいます。こういう情景がビーチ全体に広がっています。ビーチそれぞれに自分の肉体と海辺という自然物によって現時点の世界が満たされているような、そういう至福を感じているのです。
そんな若者を羨むように、男女のオットセイが、これもパラソルの下に寝そべって、ビールの瓶を並べている。こういう情景も、ほほえましいものに映ります。視線が合うと、お互いにニコッとして、双方にグラスをちょっと上げてみせる。
「トゥ・ド・ベン?(どうだい?)」
「シン、トゥ・ド・ベン(うん、万事オーライ)」
このビーチではしかつめらしい話なんかどれほどのものなんだろう?ここでは青臭い理屈を言っても、笑われるだけです。こうして砂に身を任せて、波の音を聴いててごらん、人生まんざらでもないよ、そう言って笑われるだけのように思えてきます。
ここでは、水に入って波打ち際から10メートルも行くと、足が届きません。(コパカバーナは割合に遠浅なんですけど。)沖から寄せる波は徐々に高さを増してきますが、20メートルほどの沖に出るとそれは1メートル程度の緩い波、そこに身体を浮かべていると、上下にゆっくりと揺れていい気持ちです。
そこから浜に近づくと、波の高さも大きくなって、白波が立ち、用心しないと頭から水をかぶることになる。さらに危ないのが、足が付く程度の浜辺。波の落差は2メートル近くになって、砂と人間を一気に巻き込み、翻弄することになります。波打ち際のこの部分では要注意。海に入る人はこの沖に急いで出るか、またはこの手前で波とたわむれるのがコツです。
僕はここで間違えた。単に波と戯れるつもりが、逆襲されて、白い泡の塊に飲み込まれてしまいました。いきなり水中に身体が引き込まれ、瞬間、上下の感覚がなくなって、海水の暴力になされるまま、身体をよじられ、回転し、翻弄され、突然水中で肩が砂地に打ち付けられたところで、ようやく上下の感覚が戻り、何とか平衡感覚を取り戻して、顔を水面に上げることができたのでした。さらに寄せる波に身体を押され、あるいは引く波に強力な力で戻されながらも、砂地に向かって海の中を走り、ホウホウの体で水から逃れたのですが、そのときになって初めて、水中眼鏡がなくなっていたことに気付きました。競泳用のものですから、ゴムでピッタリとついていたはずですが、知らないうちに外れていたという事実に、改めて僕は驚愕しました。そういえば、イパネマというのは原住民のことばで「悪い水」という意味なのでした。
海は怖いです。