ほめる
大した事無い、或いは、興味の無い事を言っている相手を褒めるのは立場上しょうがないが、幽体離脱し少し上空から見ると、気持ち悪いほど我が身がカッコ悪いですね。
その時はもう十中八九、社会で生きていくうえでは欠かせない「悲しいニヤニヤ」という表情をしている。
ふと思い出すのが、
「アルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』1969年
発表作品」
ということわざであるが、よく考えると、この場合はあまり関係がないように思われる。どうだろう?
そこでこうして、今朝突然に空き地に開いていた穴の前で首をひねっているんですけど。両方の意味、一石二鳥というわけで。
15分ほどそうしていたろうか、首ひねりの緩急の「急」のトコで、
「ちょっとあんた、ご飯つぶついてるわよ」
と、俺のカラシ色のセーターを引っ張る者がある。
駅前通ドジ代である。
このぽっちゃり女は、俺と同い年で、幼馴染であり、現在は駅前ビルの中小食肉卸の事務をしている者であるが、結婚していないはずなのに、俺の女房だと主張して止まないのだ。
どだい、ヤツの姓が駅前通(えきまえどおり)で俺が裏町(うらまち)なので合うはずもないのだが。
ただ、あなた帰りましょうと言われると、逆らうアレもないので、手を引かれるようにしてついていくのだ。
しかし、こう見るとこの商店街も変わった。本屋が薬屋になり、レンタルビデオ屋が整形外科(と調剤薬局)になり、大手のおもちゃ屋が特別養護老人ホームになり、その駐車場がデイサービスになり、楽器屋が葬儀屋になり、チェーン居酒屋が葬儀屋になり、プラモデル屋が葬祭会館になった。そういえば点在していた駄菓子屋たちはみな廃屋となった。
もう、そうなってしまっても、逆らうアレもないので、妻と名乗るこの女に手を引かれて行くしかないのだ。
この午後中はコンクリート塀の色であるが、もう知らん。どれほどくすんでいるのかさえも、もう知らん。