社会福祉士・精神保健福祉士国家試験 権利擁護と成年後見制度(社会福祉士第32回 問題79)行政不服申立て
問題
問題 79 行政処分に対する不服申立てに関する次の記述のうち,正しいものを 1 つ選びなさい。
1 処分庁に上級行政庁がない場合は,処分庁に対する異議申立てをすることができる。
2 審査請求をすることのできる期間は,原則として,処分があったことを知った日の翌日から起算して 10 日以内である。
3 審査請求に係る処分に関与した者は,審査請求の審理手続を主宰する審理員になることができない。
4 行政事件訴訟法によれば,特別の定めがあるときを除き,審査請求に対する裁決を経た後でなければ,処分の取消しの訴えを提起することができない。
5 再調査の請求は,処分庁以外の行政庁が審査請求よりも厳格な手続によって処分を見直す手続である。
分析
行政処分を下された市民にとって、その処分に納得がいかない場合にどのような救済の方法があるか。
2つの主要な手続きとして、行政不服申立てと行政訴訟がある。
前者は行政機関に対して、後者は裁判所に対して、処分の不服及びその取り消しや変更を求めるものである。
前者を使うメリットは簡易迅速な制度であること、専門的分野における行政紛争においてはむしろその分野を扱う行政機関のほうが対応しやすいことなどがあげられる。また、違法な処分だけでなく不当な処分(「法的に違法とまではいえないが、手続き、内容、与える結果などからみて適切とはいえない処分」)についての不服も可能とされている。一方、後者を使うメリット(前者のデメリットでもある)は何よりも公平性、中立性の担保があるということだろう。行政の間違いを行政が直せるのか?という点は行政不服申立て制度そのものが抱える前提的な課題である。
両者は別の制度であり、救済を求める者はいずれの方法も選択できるのが原則である(自由選択主義)。ただし、例外として法令で特別な定めのある場合、裁判所への訴訟の提起の前に行政不服申立てを先に行わなければならない(例外的な不服申立前置。行政訴訟法8条)。裁判所の負担軽減であったり、専門的技術的判断が必要なものに限っては不服申立てを各個別法が法令で定めている。例えば生活保護法では、審査請求の裁決を経なければ訴訟を提起することはできない(生活保護法69条)(肢4)。
行政不服申立ての一般法として行政不服審査法があり、2016年に改正されている。本問はその改正部分についての知識も問われている。
行政不服の基本は、審査請求である。処分をした行政庁の最上級行政庁に対して申立てるのが原則である。その処分をしたのが最上級行政庁だった場合(例えば都道府県知事がした処分)、その場合はその行政庁自体に審査請求を行うなどの例外がある(行審法4条)。以前はこの上級行政庁がない場合の不服申立ては「異議申立て」という名前であったが、2016年改正によって審査請求に統一された(肢1)。
当該処分をした行政庁にそのまま不服を申立てるというのは、中立性という面で大きな問題がある一方、自分のしたことを自分で直させるほうが話が早い場合もあるだろう。そのため、法律で特別の定めがある場合、審査請求ができる場合であっても、当該処分をした行政庁に「再調査の請求」という不服を申し立てることができるようにした(2016年法改正。行審法5条)。再調査の請求に不服があれば、その後上記の基本類型である審査請求にさらに不服が可能である。
なお、この再調査の請求は、国税通則法など極めて限定されているようである。いずれにせよ大量に行われる課税処分などの不服を簡易にさばいていくという側面のある制度であり、その手続きは各個別法で定められているが、審査請求よりも簡単に手続きが終わるような設計がなされている(肢5)。
審査請求がすべての基本類型であり、裁判所でいったら第一審というべき手続きであるが、その審査請求にさらに不服がある場合(つまり、第二審のようなもの)、個別の法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合には、法律に定める行政庁に対し「再審査請求」をすることができる(行審法6条)。例えば、生活保護法における市町村長の保護に関する処分等における審査請求への不服がある場合、厚生労働大臣に対して再審査請求をすることができる(生活保護法68条)。
審査請求の流れであるが、まずは処分があったことを知った日から3か月以内、、処分があった日から1年以内に審査請求を原則として申し立てなければならない。2016年改正で前者は60日から期間が伸びたことに注意が必要である(行審法18条1項)(肢2)。市民の権利救済と行政の法律関係の安定を天秤にかけてこの期間となっている。なお、行政訴訟に関しては、処分や裁決があったことを知ってから6か月、処分や裁決の日から1年を経過するまでに訴えを提起する必要がある。
審査請求は、書面(審査請求書)を提出することにより始まる。書面審理が原則であり、請求書に対する処分庁側の弁明書とそれに対する審査請求人の反論書、双方からの証拠物件の提出に関する規定があるが、審査請求人からの申立てがある場合、口頭での意見陳述機会が確保されるものとした(行審法31条。
旧法では審査請求の審理を進める職員に対する規定が薄かったのだが、2016年改正により審理を行う審理員制度が新設され、審理員が手続きを追行することとなった。審理員は審査請求に関する処分等に関与した者はなることができない。行政不服申立ての抱える中立性・公平性の課題を克服しようとした趣旨である(肢3)。
審理員は審理が進むと、審理員意見書を審査庁(審査請求に対する判断を決定する行政庁)を提出し、審査庁はその審理員意見書をもって行政不服審査会(国の場合)、附属機関(地方公共団体)に諮問することが原則である(行審法42、43条)。その後、審査庁が諮問などを参考に却下、棄却、認容などの裁決を下す。
よって正答は3
評価
4は基本問題として自信を持って切れるとよい。2も知っておくといいかもしれないし、不服を出すのに短すぎ!という感覚があれば切れるのではないか。135は知識問題、しかも改正部分の事項である。公務員実務の経験があったりする方だと、肢1などになまじ引っかかってしまうかもしれない。肢5も再審査請求と混同してしまうかもしれない。比較的にそれはそうだろうという3を選べれば正解に至るが、悩んでしまう問題ではあるだろう。
※この記事は、弁護士の筆者が、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験問題を趣味的かつおおざっぱに分析しているものです。正確な解説については公刊されている書籍を確認したり、各種学校の先生方にご質問ください。