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社会福祉士・精神保健福祉士国家試験 権利擁護と成年後見制度(社会福祉士第32回 問題81)成年後見制度利用促進

問題

問題 81 成年後見制度の利用促進に関する次の記述のうち,正しいものを 1 つ選び
なさい。
1 成年後見制度利用促進基本計画の対象期間は,おおむね 10 年程度とされている。
2 市町村は,成年後見制度利用促進基本計画を勘案して,成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画を定めなければならない。
3 成年後見制度利用促進基本計画においては,利用のしやすさよりも不正防止の徹底が優先課題とされている。
4 政府は,成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,成年後見制度利用促進会議を設けることとされている。
5 「成年後見制度利用促進法」でいう成年後見等実施機関とは,介護,医療又は金融に係る事業その他の成年後見制度の利用に関連する事業を行うものをいう。
(注)「成年後見制度利用促進法」とは,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」のことである。

分析

成年後見制度利用促進法は、2016年5月に施行された法律である。同法の目的はおおざっぱに言うと「高齢社会・共生社会に向けて成年後見制度が重要なのに、十分に使われていないことから、利用の促進についての基本理念等を定め、会議や委員会をつくることによって促進に関する施策を推進する」ことにある(1条)。

内閣府「平成29年度版高齢社会白書」によれば2020年の認知症の患者は600万人を超えると推測されている。一方で、障害者の方も含む成年後見等の利用者数は2019年末で22万人程度である。これが十分なのか少ないかの評価は一概には言えないが、少なくとも成年後見等を利用してもよい方が利用できておらず漏れてしまっている懸念を指摘されても仕方のないところだろう。いずれにせよ、議員立法によりこの法律は成立施行された。

法の基本理念は、①成年後見制度の利用の促進が、成年被後見人等の本人の尊厳と生活保障、意思決定の支援、財産管理だけでない身上保護が行われること②市民後見人を育成確保するなどして地域の需要に対応すること③家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体、民間団体等が相互協力して本人の権利保護を図りつつ体制を整備することである。

また、この法律が「成年後見制度を促進してほしい機関」として考えているのは、まずは国や地方公共団体であるが、「関係者」や国民の努力も一応求めている(一応、というのは、何か法的義務を定めているわけでななく、がんばってね、程度のことが条文に規定されているのみである)。

なお、「関係者」として挙げられているのは、下記の3類型(6条 肢5)。

成年後見人等=これは成年後見人、保佐人、補助人など

成年後見等実施機関=自ら成年後見人等となり、又は成年後見人等若しくはその候補者の育成及び支援等に関する活動を行う団体。弁護士会、社会福祉士会だったり、法人後見や市民後見に活動している団体など。

成年後見関連事業者=介護、医療又は金融に係る事業その他の成年後見制度の利用に関連する事業を行う者。福祉事業者、病院、銀行など。

以上を踏まえて、政府が成年後見の利用促進の施策を進めるわけだが、法律に明記されている基本方針は、①保佐、補助の活用 ②権利制限の見直し ③意思決定支援 ④死後事務の見直し ⑤任意後見の活用 ⑥国民に対する周知啓発 ⑦地域需要に応じた利用促進 ⑧人材確保 ⑨成年後見等実施機関の活動支援 ⑩関係機関の体制強化 ⑪関係機関の緊密連携があげられている(11条)。

この基本方針を踏まえて、政府は、「成年後見制度利用促進基本計画」を定める(12条)。定められた基本計画はこちら(試験勉強のために見る必要はないと思いますが)。

基本計画として定められた取り組むべき施策は大まかにいうと下記の4つ。

(1)利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善 
(2)権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり
(3)不正防止の徹底と利用しやすさとの調和-安心して利用できる環境整
(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項 

(1)ー(4)に優先順位があるように思われない。すべて平行して行われるべき施策として掲げられているものである(肢3)。なお、私見の限りでは、利用促進という法の趣旨からすれば(1)が重要であるのは当然であり、かつ権利擁護のためには(2)も重要である(なお、国や市町村の基本計画はこの(2)のネットワーク体制に注力しているようにも思える)ので、あえて優先順位として順番をつけるなら数字の順番通りということなのだろう。

この国の基本計画は、2017年度から2021年度の概ね5年間を念頭に定めたとのことであり、再来年度には、状況を踏まえて見直すということのようだ。もっとも、基本計画の期間や期限などは法に定められているというわけではない(肢1)

一方、市町村は、利用促進の基本計画策定、実施機関の設立支援等措置の努力義務がある(23条)。努力義務なので基本計画は絶対に作らなければならないわけではない(肢2)。

なお、国の上記の基本計画によると、市町村の基本計画には、地域連携ネットワークや中核機関の整備について具体的な施策を定めてほしいようである。

以上の基本計画を作成したり、関係諸機関の調整、施策実施の状況検証、評価のため、内閣府に、特別の機関として、成年後見制度利用促進会議を置くことなっている(13条。肢4)。なお、現在は内閣府でなく厚労省が所管している。

ちなみに、この成年後見制度利用促進会議の下に専門家会議というのをさらに設けて、そこで検証や報告を行っているようである。

よって正答は4.

評価

成年後見利用促進法は施行から4年経っていたのでついに出題された、ということなのだろう。同法の基本理念や基本方針に挙げられている項目はすべて成年後見制度において重要な理念かつ山積した課題であるが、それは成年後見で学習するべき基本的知識やテーマの裏返しでもある。おさらいとして確認しておくことに意義があるだろう。

…が、出題としては何か細かいという印象がぬぐえない。その知識は暗記していないとソーシャルワーカーにはなれない、という知識ではないように思われる。〇〇計画を定めるのは国、都道府県、市町村、その策定は法的義務か努力義務か、という出題は他の科目においても多いように思うが、それ暗記必要?と思ってしまうところではある。

肢3が何となく違うかな…という以外、知識がなければあてずっぽうになってしまうのではないか、と思うがいかがでしょうか。


※この記事は、弁護士の筆者が、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験問題を趣味的かつおおざっぱに分析しているものです。正確な解説については公刊されている書籍を確認したり、各種学校の先生方にご質問ください。


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