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プラットフォームとクリエイターの共犯関係

どうも、エンジニアのgamiです。

8月にUdemyで1本目のコースを公開してから、無事に最初の収益が入金されました。初月の収益は約$300で、その後もある程度の収益を頂けそうです。ありがたい。

僕は副業としてUdemy講師をしていますが、仮に本業の仕事を辞めてUdemyコースの量産と宣伝に全力を注げば、少なくとも自分一人の家計を支えるくらいは稼げそうな感覚があります。「その上で生計を立てられる」というのは、まさにプラットフォームという感じがします

特にUGC(User Generated Content)がメインのプラットフォームは、クリエイターとプラットフォームが相互に依存し合いながら拡大していきます。クリエイターはプラットフォームが無いとメシが食えないし、プラットフォームはクリエイターがいないとビジネスが成り立たない。そこにはある種の共犯関係があります。そして成功するプラットフォームには、その共犯関係を強化するようにデザインされた巧みな仕組みが組み込まれています

今回は、自分がクリエイターとして関わったことがあるUdemyやYouTubeを例に、プラットフォームとクリエイターの共犯関係について考えます。あらゆるサービスでユーザーとの関係性が重要になってきた昨今、あらゆる事業で参考になるポイントがありそうです。


Udemy講師はUdemyアフィリエイターでもある

Udemyは、誰でも教育コンテンツを有料販売できるプラットフォームです。Udemyのユーザーがコースを購入した場合、その収益はコースを作成した講師とUdemyに分配されます。

面白いのは、講師への収益分配率が購入者の流入経路によって異なるという点です。

・講師のプロモーションによって得られた売上: 講師クーポンやコース紹介リンクを使用してコースが購入された場合、講師はその収益の97%を受け取ります。
・講師のプロモーションを通さずに得られた売上: 講師クーポンやコース紹介リンクが使用されなかった場合、講師はUdemyの売上の37%を収益として受け取ります。こうした売上は、ユーザーがUdemyの広告をクリックしたり、マーケットプレイスからコースを検索したりすることによって得られるものです。

講師の収益の分配 – Udemy

Udemy講師は「講師のプロモーション」を介してコースを売り上げることで60%も多く収益分配率を得ることができます。ではこの「講師のプロモーション」とは何でしょうか?

Udemy講師は、自分が作成したコースの紹介用リンクを管理画面から発行することができます。このリンクには専用のクエリ文字列が付与されており、Udemy側はこのリンクを経由した購入かどうかを判別できるようになっています。

Udemy講師用のプロモーションリンク発行画面

Udemy講師は自分のSNSやブログでコースの紹介をする際、このコース紹介リンクを記載します。単にコースが売れるだけでも嬉しいですが、さらに自分の宣伝を経由した売上はほとんど自分の取り分になるので、宣伝にも熱が入ります。

この構造は、「売り物を作ったのが自分である」という点を除けば、アフィリエイト(成果報酬型広告)のそれと全く同じです。Udemyは、Udemyプラットフォームへの集客のために、Udemy講師にアフィリエイターとして働いてもらうための仕組みを持っているわけです。

Udemy講師は、単に「自分のコースを広めたい」という気持ちで宣伝をします。しかし、そのコース紹介リンクからUdemyに流入した新規ユーザーは、それ以外のコースを目にすることになります。新規ユーザーの何%かはUdemy上で他のコースを購入し、さらにその内の何%かはUdemyの常連になり定常的な収益をもたらします。ここには、「新規ユーザーの獲得」というUdemy側の目的にUdemy講師が自然と協力するという共犯関係が結ばれています。そしてその共犯関係は、収益分配率の設計と流入経路計測の仕組みによってテクニカルに実現されています。面白いですね。

なぜYouTuberは8分を超える動画をあげるのか?

別の例も見てみましょう。

YouTubeは、Udemyと同じくクリエイターがコンテンツを投稿して収益を得ることができます。Udemyとの違いは、YouTubeの主な収益源が広告であることです。収益化が有効になったチャンネルを持つYouTubeクリエイター(いわゆるYouTuber)は、アップロードした動画が1回再生される度に0.x円の収益を得ることができます。YouTubeとしては動画が再生されるほどそれに挿入される動画広告も再生されるので、「動画の再生回数」に連動してクリエイターに収益を分配することには経済合理性があります。

また、収益化を気にするYouTubeクリエイターの多くは動画の長さを8分以上にすることを意識しています。それは、8分以上の動画には「ミッドロール広告」と呼ばれる動画途中の広告を表示することができるからです。

8 分以上の動画をアップロードすると、動画の冒頭と最後だけでなく動画の途中(ミッドロール)にも広告を表示できます。

長い動画のミッドロール挿入点を管理する

YouTubeクリエイターの収益は、「動画の再生回数」×「再生単価」で決まります。この「再生単価」を計算する詳細なロジックは公開されていませんが、チャンネルの視聴者層や広告を視聴させた回数などに応じて0.05~0.7円などの幅で変化します。多くのYouTubeクリエイターは動画の再生単価を上げ収益を伸ばすために、3〜5分のごく短い動画よりは8分以上の長めの動画をあげるようになります。もちろん、闇雲に長い動画を量産して動画の品質が下がれば、ユーザーの途中離脱が増え再生単価も下がってしまいます。そこでYouTuberは、「動画を長くすること」と「ユーザーを最後まで惹きつけること」の両立を目指すことになります。

YouTubeプラットフォームとしては「ユーザー体験を大きく損ねること無くなるべく高く売れる広告をなるべく多く見て欲しい」というモチベーションがあります。これを自然に実現するために、YouTubeクリエイターの収益モデルがデザインされているわけです。

プラットフォームとクリエイターの微妙な関係

ここまでで、プラットフォーム側の収益化モデル設計によってクリエイターがプラットフォームと同じ目的を追うように仕向けられていることがわかりました。一緒になってコンテンツをエンドユーザーに提供して収益を得る、まさに「共犯関係」と言えます。

こうした関係を結ぶことができるのは、プラットフォームもクリエイターもビジネス的な旨味があるからです。前述したように、UGCメインのプラットフォームはそのビジネスモデル上、クリエイターがいないと売上が立ちません。逆にクリエイターも生活がプラットフォーム経由の収益に依存するほど、収益最大化のためにある程度プラットフォームの思惑通りに行動するようになります。

一方で、この共犯関係は常に蜜月で安定したものであるとも限りません

クリエイターとしては、プラットフォーム側から収益化をストップされたりアカウント自体がBANされたりする恐怖が常にあります。生命線をプラットフォームに握られている専業クリエイターは、プラットフォームの顔色を伺いながらクリエイター活動をせざるを得ません。

逆にプラットフォームからすれば、クリエイターが新しいプラットフォームに活動拠点を乗り換えてしまうリスクがあります。過去にはニコニコ動画からYouTubeに大量のゲーム実況者が流出したこともありました。

また個人向けライブ配信アプリも乱立しており、クリエイターを奪い合う群雄割拠の時代になっています。僕自身、YouTubeやUdemyが便利だからそこでコンテンツを公開しているだけで、他にもっと良いプラットフォームが出てきたらすぐに乗り換えるでしょう。

多くのサービスがプラットフォーム性を帯びてくる昨今、コンテンツを生み出すユーザーとの適切な関係性を考えることは多くの事業にとっても重要です。実際にプラットフォーム上でクリエイター活動をしてみると、クリエイターとプラットフォームの関係性について、その裏側が見えてきます。プラットフォームの力学を体験する意味で、もしみなさんも余裕があればクリエイターとしてブログ記事や動画を作って収益化を目指してみるとよいかもしれません。

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