小説賞応募者のための、応募原稿につける【あらすじ】の書き方ガイド

 今週、第八回ジャンプホラー小説大賞〈銀賞〉受賞作である『君はテディ』の電子書籍が配信されました。未読の方はぜひ!

 そして第十回ジャンプホラー小説大賞の締め切りは10/31。残りわずかですが、〆切直前のこのタイミングでもお役に立つ情報をお届けします。

 それは、小説賞への作品応募時に必要となる「あらすじ」の書き方です。

 まず大前提として、ジャンプホラー小説大賞の下読み審査においては、最初に本文をラストまで読み、「あらすじ」はその後に確認するシステムになっているので、作品の審査・評価に「あらすじ」の上手さや優劣が影響することはありません。「あらすじ」がかなりたどたどしい応募作でも、本文の文章は安定していて内容も面白く、受賞に至った、という例もあります。
 ただ、審査側が作者のイメージする物語の全体像を改めて把握するため、読みやすい・わかりやすい「あらすじ」だと有難いです。また、他社の賞の下読みでは「あらすじ」を先に読んでから本文を読むという場合もあるでしょうし、そういう賞ではあらすじが極端に読みにくいものや分かりにくいものだった場合、本文を読む前からバイアスがかかってしまう可能性があるのでは――と不安に感じている応募者もいるでしょう。
 そもそも、学校で「あらすじ」の書き方を教えてくれるわけではありませんから、(既に応募に慣れている方にはご不要でしょうが)まだ小説賞の応募を始めたばかりで、「あらすじ」をどう書けばいいのか迷っている、不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。そんな方のため、編集部から、書きやすい方法をお伝えしたいと思います。

 先に予めご注意を。「あらすじ」の良し悪しは小説の面白さそのものに寄与することはありません。ここからご紹介するのは、「あらすじ」の出来栄えを良くするためのノウハウなどではなく、「あらすじの書き方がわからず困っている」「できれば分かりやすいあらすじを書きたい」段階の方への、不安解消になるかもしれない手引きです! その旨、ご了承の上でお読みください。

 今回は具体的に実在する小説で、サンプルとなる「あらすじ」を書いてみることにします。ただし、小説賞応募時の「あらすじ」は作品のラストまで書かなければならないので、致命的なネタバレになってしまうのがネック。ですので本日は、皆さん童話を通じて結末までご存じであろう「かぐや姫」こと『竹取物語』を素材に、ジャンプホラー小説大賞の応募規定と同じ「800字以内」であらすじを作ってみました。
 念のため、最後まで完全にネタバレしますので、万一『竹取物語』の内容を全く知らず、今後読むご予定のある方がいらっしゃれば、ご注意ください。

 平安時代。竹取の翁と呼ばれる男は、野山で竹を取って生活に利用していた。
 ある日、翁は光り輝く竹を見つけ、その中に小さな女の子がいるのを発見する。翁は彼女を家に連れ帰り、妻である媼に育てさせることにした。
 それ以降、翁が竹を取りに行くと黄金の竹が見つかり、翁と媼は裕福になっていった。一方、女の子は美しく成長して人間の大きさになり、「かぐや姫」と名付けられる。
 かぐや姫の美貌は評判を呼び、五人の貴公子たちが求婚者として名乗りを上げる。結婚を渋るかぐや姫は、貴公子たちに結婚の条件として、それぞれ指定する宝物を持ってくるよう伝える。それらの宝物はいずれも、現実には存在しない伝承上の品々であり、五人はことごとく入手に失敗し、求婚は退けられた。
 やがてかぐや姫の噂は、帝の耳にも届いた。帝はまず使いに彼女の顔を見てくるよう命じるが、かぐや姫に断られ、今度は翁を通じてかぐや姫の宮仕えを命じたものの、やはり拒絶された。帝は遂に自ら翁の家へ足を運んだが、かぐや姫は自身の顔を見せることを拒んだ。帝はかぐや姫のことを諦めたものの未練が残り、彼女と手紙のやりとりを始める。
 それから三年ほどが経ち、かぐや姫が月を見るたび悲しむようになったために、翁は事情を問いただす。かぐや姫が明かしたところによれば、実は彼女は月の都で生まれた人間であり、間もなく月からの使者が彼女を連れ戻しに現れるのだという。かぐや姫は翁や媼との別れが辛く、嘆き悲しんでいたのだった。
 その話を聞きつけた帝は、かぐや姫が月に連れ戻されることを阻止すべく、大量の兵士を翁の家に送って、防衛につかせる。しかし、空から月の使者が現れると、兵士たちは戦意を喪失し、月の使者に抵抗することができず、かぐや姫は月に帰ってしまう。
 翁と媼は悲しみに暮れ、病に伏せるようになった。帝はかぐや姫の残した手紙と不死の薬を、勅使に命じて、天に近い山の頂上で燃やした。(794文字)

 では、上記で作ったあらすじについて、前から順に解説していきましょう。

 まず、舞台設定が分かりやすいように、最初に時代のことを書いてみました(『竹取物語』は平安時代初期に成立したものの、舞台が平安時代かどうかは厳密には難しいのですが、今回は分りやすく言い切っています)。
「古代ギリシャ、シラクスの町。」「中国の架空王朝・素乾。」など、日常から離れた舞台の物語は、「いつ」「どこ」の話なのかをあらすじの最初で簡潔に説明してしまえば読み手の内容把握もたやすくなります。

 パラレルワールドや近未来設定なら、「現実世界とほとんど変わらないが、仇討ちが合法化されている日本。」とか、「第二次大戦終結後、ソ連とアメリカに分割統治され、監視社会が八〇年続いている日本。」とか、「喫煙者は例外なく逮捕され、重罪に問われる近未来。」のように、状況・設定説明がイコール舞台の説明になるケースというのもありますね。

 旅をするような物語なら主人公の出発地点から説明すれば良いでしょうし、異世界転移もののように、主人公が別世界に旅立つ系の話の場合は、先に主人公の素性から説明してしまい、そのあと世界の説明をするのも良いでしょう。たとえば、「アメリカの騎兵大尉であるジョン・カーターは洞窟で幽体離脱し、火星へとたどり着く。火星は地球よりもテクノロジーが発達している一方、社会が滅びに向かいつつある世界だった」などです。

 そして、舞台が現代日本であり、特殊な環境設定ではない場合、「舞台設定」は省略して、メインの登場人物のことから語ってしまっても良いと思います。
「大学生の山田太郎は、オカルト研究会に所属している。」とか、「十八歳の集英花子は、関東一帯を牛耳る暴力団・集英組の跡取り娘である。」とか、「集英太郎は新宿歌舞伎町のホストクラブ・シュウエイシャで働くNo.1ホストである」とかですね。
 主人公がさらに説明すべき属性が少ない場合、冒頭から、
「高校生・佐藤一郎はクラスメートの間で『シメキリサマ』という怪談話が囁かれているのを知る」。などのように、一文目から事態の説明に入ってしまうことも可能でしょう。

 舞台説明の次は主人公の説明と、その最初の行動から書いてみました。
『竹取物語』の主人公が竹取の翁なのかかぐや姫なのかは曖昧ですが、ともあれ主役/主人公を中心に、どういった事態・事件に巻き込まれるか、どういった行動を起こすか、を順に説明することで、意味を誤解されにくいあらすじが作れます。
 小説のようなリズムや感性に左右される文章とは違い、応募用あらすじのような「分かりやすさ」を重視する文章では、「一文の主語をなるべく文の頭の方におき」「あまり一文に内容を盛り込み過ぎず、長くし過ぎない」「一文の中であまり多くのキャラに行動させようとしない」ことも有用です。
 たとえば「ある日竹藪で竹を切っていた、普段は野山に交じって竹を取り様々なことに使用していた竹取の翁という男が、竹の中に光り輝いている三センチほどの小さな女の子がいるのを見つけたので、家に連れ帰って妻の媼に育てさせて成長した女の子にはかぐや姫と名前を付けた」などと書いてしまうと、知っている話のはずなのに、もう何を言っているのかだいぶゴチャゴチャしてきます。

 五人の貴公子パート。貴公子たちにはそれぞれ、石作皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂足という名前があり、各々、宝物の入手がどのように失敗したかも原文にはかなりの尺を取って書かれているのですが、これらの人物が一度きりしか登場せず、かぐや姫と翁のドラマに対する役割も薄いため、いちいち詳細を書いても煩雑になるだろと考え、簡略化して「あらすじ」に入れました。
 もちろん、「あらすじ」が規定字数に全く届かなさそうであれば、敢えてこの辺りに字数を使うのもありでしょう。たとえば……
「かぐや姫は五人の貴公子に、結婚を受け入れる条件として、それぞれ別の宝物を持参するよう伝える。
「仏の御石の鉢」の入手を命じられた石作皇子は、普通の鉢を目的の品に見せかけようとするが、かぐや姫に見破られた。車持皇子は、「蓬莱の珠の枝」を鍛冶職人に命じて偽造させたものの、職人への支払い遅れから計略が発覚してしまう。阿部御主人は「火鼠の皮衣」を唐から取り寄せたが、本物なら不燃性のはずが火にかけると燃え尽きた。大伴御行は「竜の頸の珠」を探す船旅の最中に遭難しそうになり、入手を諦める。石上麻呂足は「燕の子安貝」を手に入れようとした際に大けがをし、衰弱死した。こうして五人の貴公子はいずれもかぐや姫との結婚が叶わなかった」
 いかがでしょう。こちらだと五人の貴公子の行動について、それぞれ主語が異なる文章になるので、ややこしくならないよう、一人一文に分割してみました。かなり字数を使ってしまうわけですが、このシーンを見せ場だと考えるのであればこういう文字数配分も選択肢に入ります。

 帝が登場するくだり。今回、帝は終盤の展開にもかかわる重要なキャラだと考え、その行動をやや詳しめに書いたのですが、「あくまでサブキャラの動きであり、さほど重要でないパートだな」と考える場合は、
「かぐや姫の噂を聞いた帝は、使者を送ったり、宮仕えを命じたり、自ら翁の家に訪れてまで彼女に近づこうとしたが、かぐや姫本人に拒絶されてしまう。」
 と一文でその行動を列挙してしまっても構わないでしょう。かなり様々な行動を起こしていますが、こちらは主語が「帝」であるため一文にまとめても混乱は少ないですね。

 かぐや姫が月の生まれであるというのは、作品の後半で明かされながら物語の根幹にかかわる部分、ストーリーの「ネタバレ」部分ではあるのですが、こういった「ネタバレ」も応募時の「あらすじ」には必ず書いてください。応募時の「あらすじ」は、物語の全貌を把握できるものをお願いします。これが、出版時に本の裏表紙に書かれる、宣伝用のあらすじなら、「果たして、あらゆる男からの求婚を拒むかぐや姫の意外な正体とは……⁉」で終わっていいと思いますが、新人賞応募時はそれをボカすのはNGです。

 終盤の展開、今回のあらすじでは、キャラの行動をシンプルに追った方が読みやすいだろう、と考えて、あまりキャラの心情に寄り添っていませんが、自分が強調したいのは人間ドラマなのだ、と思ったら、そういう要素を拾って、
「かぐや姫自身も、育ての親である翁や媼との別離が辛く、別れ際、二人のために手紙をしたためた。しかし月の人が用意した天の羽衣を身にまとった途端、かぐや姫は二人への想いや悲しみの気持ちを忘れてしまった」
「翁と媼は、かぐや姫との別れの辛さのあまり、命さえ惜しくなくなって、かぐや姫の残した不死の薬を飲もうとはしなかった」
 などという文章が入っていても良いと思います。そういった心の動きを含んだ方が、キャラの行動原理が分かりやすく読みやすい「あらすじ」が書ける、という作品もあるでしょうし、たとえば犯罪の動機のドラマが重要になるような作品なら、その箇所を「あらすじ」から削ることはできないでしょう。
 そしてもちろん、応募時あらすじを「果たして、月の使いと兵士二千人との戦いの行方は……⁉」で終わらせるのはNGです。山場で起きる事件の結末・結果まできちんと「あらすじ」に盛り込むようにしましょう。

『竹取物語』の大オチとしては、駿河の山で不死の薬を焼いたので、今ではその山は「ふじさん」と呼ばれており、今でもその時の煙がたなびいている――といったような地口(ダジャレ)落ちがあるわけですが、メインの登場人物である竹取の翁・かぐや姫のドラマには直接関係ないことなので、ここは省略しても問題ないだろうと考えて、「あらすじ」には入れていません。
 これが、「最後の一文で重大などんでん返しがある小説」などであれば、物語の重大な要素になるので、「物語のラストで、太郎自身が実は幽霊であり、家族からは見えていなかったことが明かされる。」とか、「実は全ての殺人事件を仕組んだのは次郎自身であるが、最初の地震で起きた記憶喪失により、その事実を忘れてしまっていたのだ」とか、のように、あらすじの中にきちんと書き込んだ方がよいでしょう。

 応募用「あらすじ」の字数制限ですが、規定字数をオーバーしてはいけないというのは分りやすいですが、規定字数をどれだけ下回ってもいいのか、という不文律については、各賞の見解をあまり聞いたことがありません。それだけ「あらすじ」は受賞のための大きな要素ではない、とも言えます。どうしても不安なら規定字数の九割を超えることを目指せばよいのではないかと思いますが、ジャンプホラー小説大賞は中短編も応募可能なので、長篇あらすじに適した「800字」を、思いっきり下回った字数でも全く問題ありません(ただ、長篇を書き上げたのに、「あらすじ」が400字を割っていたりする場合、もう少し作中の要素を丁寧に拾った方がいいと思います)。

 最後に。最初にお伝えした通り、「あらすじ」の良し悪しは小説の面白さそのものに寄与することはありません。一般論として当たり前のことですが、「あらすじ」の書き方が飛びぬけて上手くても、作品内容そのものが面白くなければ受賞に至ることはありません。逆に、「あらすじ」の書き方がいまいちでも、作品内容が飛びぬけて面白ければ受賞に届く、はずです。むろん、内容が面白ければ、必然的にその中身を説明した「あらすじ」も興味を引くものになっていくでしょう。

 だからこそ、残り時間が〆切までいよいよ後がなくなってきたら、「『あらすじ』を少しでも面白いものにしよう」と粘るよりも、「あらすじ」は、今回紹介したように「分かりやすい」「無難」な程度で手早く書き上げてしまって、残り時間は最大限、本文原稿のブラッシュアップを頑張ってみてください!