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旅を始めたきっかけ メコン川と私
ベトナムが好き、サイゴンが好き。
と言い続けて限界を感じるまで生活していた。
ここにいる外国人は、なんとなくだらしない。私もそんな1人だった。
結局、「日本社会が合わない」と言ってベトナムへ逃げても、日系企業の雇用に頼らざるを得ず、日本での会社員生活と変わらない日々を過ごす。
結果的に日本では、"大勢いる社員のうちの1人" だが、ここでは "日本人である" という理由で早々にマネージャー扱いされてしまう。
実は何のスキルも無く、高給を取っていく外国人だと距離を置かれる日々はすぐに始まった。現地採用の宿命なのかもしれない。
幸運なことに、ベトナム語留学していた時代に日常会話程度のベトナム語とサイゴン近郊の土地勘は身につけていたので、私生活に困ることは無かった。しかし、現地採用でサイゴンに渡った当初、仕事以外に何もすることがないという日々が長らく続く。
今、記憶を辿ってみる。
ある時から、週末の予定がコーヒーを飲む以外に無いことに嫌気がさしてきた私がいた。
私は若く、初めての場所、アパートから遠く離れた地に行くことが怖かった。
今でこそ、どこかで道に迷っても、お金を盗まれても何とか知恵を絞って解決できるという思考になるが、そんな楽観的思考を持つにはあまりにも若く、恐怖心に支配されていた。
もともと旅をしたり、遠出することに興味が無く、サイゴンで生活することだけで満足していた私。もちろん日本で1人旅に出かけたりすることも無かった。
「せっかくベトナムにいるのに、色々な場所に行かないなんてもったいない」
よく言われた言葉で、あの時の私に、わたしから言いたい言葉でもある。
ある時参加した、外国人旅行客向けの日帰りメコン川ツアーに魅了され3.4回同じツアーに参加していた。料金は20万ドン、日本円で1000円程度だったと思う。
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サイゴンを出発し、メコンの入り口であるMỹ Thơ(ミトー市)から船に乗り、大河を渡って向こう岸へ行く。そこから小舟に乗って小さい川を移動し、1日かけて自然を体験するというツアーである。
このツアーに数回参加する中で、ツアーで行かないようなメコンの地に行ってみたいという好奇心が芽生えたことが、私が旅に目覚めるきっかけとなった。
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それからこの地を去るまでの数年間、連休を利用してはメコンに旅に出ていた。
今、もう戻らないと決めたサイゴンのメコンの日々を思い出していきたいと思う。