桜蔭に受かった子の話③ 小5後半
サピックスに通いながら、個別指導に通って桜蔭に受かった子がどのように取り組んでいたか、小5の後半(9月~)時期について書いていきます。
小5前半(~夏期講習明け)のころに関してはこちら⇩
転換点を越えて
夏期講習での大きな転換点を迎え、彼女自身の取り組み方も、こちらの指導の仕方も、課題の出し方も変化を迎えました。
改めてまとめておくと、
①授業後にそのまま自習に取り組むようになった
②指導内容に合わせて、こちらからも課題を出すようになった
③解法に至る過程(僕の頭の中、思考プロセス)も伝えるようになった
の3点が挙げられます。
小5前半の記事の方でも書きましたが、個人的には「③解法に至る過程(僕の頭の中、思考プロセス)も伝えるようになった」が非常に大きいです。
この時期になってくると、いろいろな単元を学んでいるので、解法や考え方といった自分の手札が増えている状態にあります。
そこから問題に合わせて、選択していくという意味では「どのように解くか」も大事ですが、「何故そう考えたか」が非常に大きな要素を占めてきます。
入試本番は時間も限られている中で、より多くの問題を、より早く、より正確に解いていく必要があります。
その際に、解法の入り口が見つからなくては正答には結び付きませんし、その入り口を探すのに時間がかかってしまっては解ける問題が減ってしまうこともあります。
そのためにも、できるだけ最短距離で適切な解法選択をしていくことが重要です。
だからこそ、2番目・3番目の解法を用意できていることは重要ですし、今のうちに「失敗」という経験を積んでおくことも大事だと思います。
ですから、彼女には失敗の経験を積むことの大切さを伝え、間違いも経験値としてストックしていくように話しました。
そのためにも闇雲に解くのではなく、必ず『意図』をもって問題に取り組むよう指示しました。
失敗の経験値を積むために
なぜそのように考えようとしたのか、なぜそこに補助線を引いたのか、補助線を引いたことで何が分かると考えたのか、、、etc.
このことを意識することで、次に似たような問題に当たった時に、解法プロセスを何段階か減らすことができます。
「あの時にこうやってダメだった」という経験が余計な解法の選択肢をはじいてくれます。
この経験をしっかりと積んでおくことが、小6の時の過去問演習及び入試本番で実力をいかんなく発揮していく上で重要な要素の一つになると考えています。
「とにかくやってみる」という姿勢ももちろん大切ですが、その際でも後からでも構わないので理由をしっかりと考えることは大切だと思います。
そうすると「とにかくやってみる」状況でも、ある程度方向性の精度は高いものとなります。
ですから、この2つのことを常に言い続けました。
おそらくしつこいと思われてたでしょうが……
それだけが要因ではないでしょうが実際彼女の場合も、
分からない問題に対する取り組み方の違いは、
分からないから、解いていない
↓
まずはやってみる
(なぜそう考えた??と感じるくらい精度は低い)
↓
まずはやってみる
(解法の方向性は合っているけど、答えにたどり着かない)
↓
ある程度方向性を絞ってやってみることができている
といった感じに変化していきました。
その傾向を固めていくためにも、最初はマンスリーや組み分けなどのサピックスのテストで実践していきました。
しかし、やはりテスト時間に追われてしまいますし、(解いて)間違うことは嫌なので、なかなかこちらの思うようには取り組んでくれませんでした、、、
それでも「失敗の経験を積むこと」と、「とにかくやってみる」ことの大切さを説き、やってくれた際には必ず成果点を見出し褒めるようにしました。
これはとても小さいもので構わないと思います。
「これでこの問題では、こういった解き方は有効でないことが分かったね!」とか、「こう考えたことで、新たにこういう情報が分かったね!」とか、、、
(褒めるの得意ではないですが、頑張りました、、、!)
とにかく取り組んでくれたこと自体がいいことですし、たとえ点数にならなかったとしても決してマイナスではなく、むしろプラスなんだということを伝え続けました。
もちろん、「さすがにそれはやってはいけない」ということもあったので、それに関してはしっかりと理由を伝えたうえで、プラスの経験値として残るようにすることを事を心掛けました。
レベル感による違い
こういったことを続けていった結果、今まで以上に積極的に問題を解くようになりましたし、比較的時間に余裕がある際の課題では自分なりのトライ&エラーを繰り返していました。
これはすごく大事なことだなと改めて考えさせられました。
と同時に、今になってはですが、これがミドルクラス以下との≪差≫なのかなとも思います。
ロー・ミドル・ハイの3クラスに分けた場合、共通して言えるのは「自主性(主体性)の違い」があると思います。
絶対ではないですし、僕の少ない母数からの判断ですが、
ロー ・・・言われたことを言われた通りにできない
ミドル・・・言われたことしかやらない(言われたことだけやる)
ハイ ・・・言われたことを自分なりに昇華(消化)してやる
といった傾向が見られます。
そういった意味でも、彼女の場合はローからだんだんとハイの道を進んでいっていたと言えます。
また、「負けず嫌い」や「素直さ」といった点も影響はあるように思います。
今まで御三家などトップ校に合格した人はかなりの確率で、この部分が見られます。(僕が受け持ってきた生徒では、ですが)
だからこそ不安を感じたこともあり、「自分が分からない問題をすぐに解説されてどう思っているんだろう…?」と、、、
この時にも若干の境界線があるように思いました。
なかには言い方が悪いですが、「プライドが高い」(だけの)子もいます。
こういった子の場合、不明点を次々解説されていくと、だんだんとやる気がなくなっていく様子も見られます。
プライドが高いことが悪いとは思わないですが(限度はありますが)、それによって自身の成長の機会を失ってしまうことになってはもったいないです。
このことは、御三家を目指すかなり優秀な子でも、この傾向で最終的な結果に繋がりやすい気がします。
5年生のころなどかなりの有望株で、「このまま進んでいけば合格の可能性が高い」という子でも、受け身の姿勢だったり、自分に必要なことを受け止められないことで、そういった勉強しかしていないと後半伸び悩み、結果合格に至らない、もしくは受験校を変えるという子を見てきました。
こればかりはこちらがどうこう言っても限界はありますが、「自ら進んで学ぶ」姿勢というのは早いうちから身につけておいて損はないかと思います。
逆に、今は成績という形で結果に出ていなくても、それができている子はどこかで大化けする可能性を大いに秘めていると思います。
ただそれが中学受験なのか、その先なのかといった時間の違いは出てしまうかと思いますが、、、
なかなかすぐに結果には結び付きにくいことでもあるので、初めはやれていたとしても長続きしないこともあります。
彼女もすぐには結果として出ず、ある程度のところで停滞してしまっていました。
ここでせっかくのいい傾向を途切れさせないためにも、モチベーションを維持できるよう働きかけていきました。
彼女自身がしっかりしていたということもあるので、しっかりと目標を定めたロードマップを示していきました。
ざっくりしたもので言えば、
「△△の過去問を〇年分やりたい」
から
「そのために〇月に△・▢の過去問に取り組みたい」
そのために、
「〇月までに✕✕をできるようにしておきたい」
「〇月の段階で、これくらいの精度にしておきたい」
だから
「現段階で〇✕をやっておく必要がある」
みたいな感じです。
よくある「大目標からの小目標」をこちらがある程度具体的に示し、「今やっていることは目の前のことに限らず、すべては合格に向けて行っている」ことをしっかりと伝えていきました。
当然、なかには今までできていたはずのものでも落としてしまうこともありましたが、その際こそ「失敗としての経験値を積んだ」ことや、「できている部分を探して認めていく」こと、「何をどのように修正すればいいのか」を明確に伝えていきました。
とにかくこの時期から「前向きさ」「(とにかく)プラスにする」ことを意識して接するようにしました。
精神的な部分の話になってしまいますが、この点に関してはやはり重要なのかなと思います。
僕自身もどうしても「できていないところ」に目が行ってしまいますが、そこだけでなく「できているところ」「できるようになったところ」「挑戦したこと」など、彼女の取り組みを解法過程などからしっかりと読み取ることは心がけました。
これがどのくらい効果があったかはわかりませんが、停滞していても腐らず努力を続け、授業に通い続けてくれたことから一定の効果はあったのかなと思います。
指標の提示
先ほども書きましたが、合格に向けたロードマップは本人にある程度提示していました。
この小5の2学期のタイミングでは、
・小6のGW(ゴールデンウィーク)までに、国・理・社の知識を(8割程度の精度で構わないので)固める
※どんなに遅くても夏期講習前までに固める
・理科の計算は、夏以降で構わない(そのためにも知識を固める)
※ただし、理解できるものや基本的なものは押さえておきたい
・小6の8月頭には桜蔭(及び豊島岡)の過去問に取り組む
→合格までの≪差≫を明確にし、残り半年弱で何をすべきかといった課題を明確にする
・9月・10月は2月校の過去問演習に取り組み、11月・12月で1月校の過去問に取り組む(1月以降で再び2月校に取り組む)
といった感じです。
目の前で結果としてなかなか表れていない状況ですし、受験本番までは期間が長いというところだったので、ある程度明確な「点」として楔となる基準は必要だったかなと思います。
やはり「今頑張れば、合格に近づく」は間違ってないですが、どうしてもアバウトになってしまいますし、本人も不安要素が勝ってしまいます。
だからこそ、前述したように「すべての道はローマに通ず」のごとく、「桜蔭への合格」という最終目標に向かっている・繋がっていることを実感してもらうことで、苦しい状況を乗り切れる原動力になってもらえればと考えていました。
算数の安定と他科目の強化
これらの取り組みを続けていった結果、算数も比較的安定して成績を残すことができるようになり、授業内でも他科目に時間を割くことができるようになってきました。
とは言っても、クラスが上がれば算数の問題も難しくなるので、中心は算数であることに変わりはなかったですが、、、
算数8割、理社2割といった感じでしょうか。
理社では理科の計算問題に多くの時間を要していましたが、そのほかにも理社の資料の読み取りなど思考系問題に対する考え方・アプローチの仕方をはじめ記述問題の添削(これに関しては得意な国語もたま~~~~にありました)などです。
正直、この部分が僕が受け持ったことの最大の利点として活かせた部分かなと思っています。
4科目すべてを扱い、タイムリーに対応することで不明点を極力残さないで進むことができます。
(…………なかにはその場でパッと解法が浮かばない問題もあったので、その場合は持ち帰らせてもらい、次回授業までに準備したものもありましたが…(>_<))
そうすることでより効率よく彼女の時間を使うことができ、それぞれの科目の気になる点などをなくし、次に繋ぐことができたのかなと思います。
そして何より、理社の知識の「横への繋がり」について、どのようなものかを示すとともに、実際に少しずつではありますが実践できたことは後に大きく繋がったものと考えています。
理・社の知識強化
もちろん、この時期は知識がすべて揃っているわけではないですが、この段階から「ただ覚えるだけ」は避けたかった思いがあります。
もちろん知識が入っていないことには何もできなくなってしまうので、入れることが最優先ではあります。
しかし、得意な単元などで少し余裕があるときは「なんでそうなるのか」に加え、「〇〇ということは△△、ということは▢▢・・・」といった感じで繋げていけるよう伝えていました。
簡単に言うと連想ゲームです。
これを単元や分野を超えて行えるようにしておくと、多角的に物事を捉えられるようになりますし、最近出題頻度が増えている資料の問題や思考系の問題に対応しやすくなります。
最初はどういうことか本人も要領がつかめていませんでしたが、実際のマンスリーや組み分けなどのテストを通して、こういう風にやればいいのだということを示していきました。
これを何度も繰り返していくうちに、彼女の中でも「何をすればいいのか」「どうやってやればいいのか」といった部分が明確になり、少しずつ取り組めていたと思います。
(直接聞いたわけではないのであくまで推測ですが、資料系の問題や「知らない」問題・初見問題での正答率が伸びていきました…!)
それでもどうしても精度に欠ける部分は見られるので、その場合は、考えた部分のその先を示していきました。
そうすることで、彼女自身の中に「連想の回路」を増やしていったイメージです。
この知識の繋がりはなかなか一朝一夕でできるようにはならないので(なかにはできる人もいるとは思いますが)、早いこの時期から少しでも方針を示せたことはよかったと思います。
本格的に行うのは来年(小6)の過去問に入ってからですが、そのときからでは精度を充分に高められたかは正直怪しいです。。。
こうしたことで単純な知識問題はもちろんのこと、正答率が低めの思考系・読み取り系の問題にも対応できるものが増え、理社の成績も今までよりも一段階上がることができました。
こうなってくると「知らないから解けない」や「やったことがないから解けない」といったことが減っていき、「自分が知っているものから、いかに正答に近づいていくか」という取り組み方ができるようになります。
そうすると、初めて見る問題などで他の人が捨て問にするような問題でも取れるようになっていくので、むしろチャンスなのです。
※ただし、本当にハイレベルの争いになると、実際には捨てる人は多くはないですが・・・(捨ててしまう人ももちろんいます!)
それでも最難関と呼ばれる学校に合格した人でも、意外とそういった取り組みが充分でない人は多いように感じるので、この辺はある程度早めのうちから一種の癖のようにしておくのがいいかと思います。
本番の想定
小5の2学期も中盤を過ぎると、多くの単元を学習している状態になります。
そしてこの時期には受験算数において超がつくほどの重要単元が集中しています。
ですから、僕としては小5の算数が最重要であり、ここでの精度が受験の結果に多大な影響を与えると考えているため、彼女にもそのことを伝えていきました。
ただし、いくら「重要だ」と言っても、理解はしてくれても実感は伴わないと思います。
これは仕方がないことです。
僕らは何年にもわたり、実際の入試問題を見てきていますので、どの単元がどれくらい出るのか、どれくらいのレベルなのか、どういった出方をするのか・・・などが分かっています。
しかし、今まさに受験勉強をしている生徒はそのことを知りません。
ですから、この時期からは特に具体的な学校名を挙げて、「〇〇で出されたことがある」ことや「〇〇では△△と組み合わせて出題された」という情報を、志望校はもちろん、それ以外の学校での出題を具体的に示していきました。
この時に意識したのはやはり実感を持ってもらうことです。
ですからいろいろな学校をただ単に列挙するだけでなく、志望校と同レベルや彼女自身が学校のレベルを把握しやすい学校を挙げるようにしました。
やはり志望校と乖離のある学校を挙げても、「自分には(あまり)関係がない」と思われても何なので、、、
なので、有名校、難関校、人気校を中心に挙げていきました。
そういった基準ですので、彼女には全く関係のない男子校も例として挙げています。
ですが、同じクラスの中にはそこを目指す子もいますし、サピックスの先生からもその手の学校は名前が挙がりやすいでしょうから、身近なものとしてとらえることができると思います。
そうすることで前述したことと共通し、「今やっていることが受験本番の問題に直結している」ことを意識しやすくなります。
また、単元として挙げるだけでなく、可能な限りその単元内の「解き方」「考え方」ごとに触れていくようにしました。
「この解き方は〇〇で出された」「▢▢ではこの考え方を、△△のように使って解く問題が出された」などです。
すべては無理ですが、自分が覚えているものの限りを伝えていきました。
そうるすと、彼女自身でもその解き方や考え方の重要な点について、メモを取ったりチェックをつけたりといった、自主的な行動が見られるようになりました。
これは以前のnoteにも書いたことですが、大事だと思ったことを、たとえ口頭で言っただけのものでもしっかりとメモをするという行動が、「問題を解く」以外にも適用されていました。
このようにして、ただ単元の学習を進めていくだけでなく、来年の本番を見据えて取り組んでいくことを意識しました。
取り組む姿勢の変化
小4のころから少しずつ変化してきていましたが、小5の後半からはさらなる変化が見られました。
授業内の変化としてはノートを「写さなく」なったことです。
これだけだと誤解を招くかもしれませんが、「ただ写すだけではない」ということです。
解説を聞いてそのまま写すことなく、自身の中に落とし込んでいくように解きながら書いていました。
ですから、見ているこちら側としてもどのあたりで手が止まるかといった様子が見られるので、どの部分の解説が腑に落ちていないか、不明瞭なのかがよく分かったので、都度補足を加えていくようにしました。
あまり積極的にものをいうタイプの子ではなかったので、こうした姿勢が見られることはこちらとしても状況を把握しやすく助かりました。
この点もどんどん進んでしまう集団塾では難しい部分かと思いますが、個別指導だからこその強みですし、その場で不明点の解消を即座に行っていけるため、あやふやな点を残しにくくなったのかなと思います。
また、授業後の変化として、以前から自習に取り組むようになっていましたが、その際に解説したばかりの問題に取り組むことが多くなっていました。
授業内で完全に分かった問題も含め、自分でしっかりと理解し確実に自分の中に理解・定着させ、「自力で解ける」ようにしていました。
すぐにできるものばかりではありませんが、「鉄は熱いうちに打て」が常に実践されていたように思います。
小5の終わり
今まで挙げてきたような取り組み方がされていたため、苦手な算数でも常に7割以上を取れるようになっていましたし、クラスもα3が定位置になっていました。
α2に行くこともありましたが、そこをキープするには充分ではなかったです。
このあたりになると、ほんの少しの差で変わってしまうため、なかなか難しかったですが、それでも今まで通り、マンスリーなどで正答率の高いものや重要問題などを具体的に示し、「あと◯問(点)は取れるはず」といった点を明示していくことは続けていました。
こうして最重要と位置付ける小5の時期が終わり、いよいよ本番が迫る小6の年度に入っていくことになりました。
小4のころに見始めた際はミドルクラスだった子が、2年の間に順調に成績を伸ばしαまで行ったのはとても喜ばしいことです。
ただし、個人的に桜蔭への勝率は3:7、よくて4:6といった感じで、いずれにせよ厳しいだろうな…という見方は相変わらずなままでした。