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入試日程フローチャートをつくろう

昨今の中学受験は、複数回入試や午後入試の一般化、試験前日・直前までの出願などにより複雑化しています。

これらは受験する機会を増やしたり、余計な出願費用が不要になるなど受験生にとってのメリットが提供されている反面、入試日程の複雑化や、合否が出た直後ギリギリでの決断が迫られるなど、裏返しとなるデメリットも発生しています。

かつては第一志望〜第三・四志望くらいまでを決めてリスト化しておけば十分対応できたのかもしれませんが、選択の幅が広くなった分、入試を組み立てる難易度は上がっていると言えるでしょう。受験する側もその変化に対応していく必要がありますが、自分の経験からも、比較的上手く流れたケースでの想定しかされていないケースが多いと感じています。

後ほど実際の想定フローを見てもらえればと思いますが、普通に考えた範囲では、抑え校=合格という前提での組み立てになっていて、そこが崩れたケースは想定外となっていることに気付きます。そしてそれが中学入試の受験ドラマ(悲劇)につながってしまう可能性も大いにあります。

全てのケースを想定するのは大変に思えますが、入試には合格か不合格しか分岐がないので、フローチャート化しておけば基本的に全パターンを想定内にできます。事前に想定するのとしないのでは子供への向き合い方も変わり、それが受験の流れ、ひいては結果を左右することもありえると思います。

ということで直前期の親御さんに向けてこの記事をお送りします。(過去に同内容の記事を配信しているのですが、内容を再構成しなおして新規投稿することにしました)

フローチャート作成

フローチャートとはプロセスを図式化したもので、仕事で使っている方も少なくないと思いますが、入試日程をフローチャートで描いておくことで本番期間の動き方を事前に想定しておくことができます。

中学受験ごときで大袈裟だと感じる方もいると思いますが、手書きでもいいので一度描いてみてほしいです。想像しているより色んなパターンがあり、特に悪い方の想定が甘いことに気付くと思います。頭で考えていただけでは見えてこないものが、ツールを使えば可視化することができます。

実際に作っていくと、今持っている合格はどこで、それを踏まえて次にどこを受けるべきなのかなど、考えることは結構多いです。またその時その時の気持ちになって考えていくと、特に上手くいっていないパターンでは、机上であっても結構焦りを感じると思います。もしそこを想定せずに実際その場に立ったときを想像するとゾッとするでしょう。経験上、不合格の三文字の持つ破壊力は想像よりだいぶ大きいです。

まあ過度に悲観的になる必要はありませんし、実際その場に立ったときはまた違った判断もあるかもしれませんが、机上だとしても悪い局面に予め直面しておく意味はあると思います。とにかく、最悪の想定も含めて一度は考えておくというのがこのフローチャート作成の最大のポイントだと思っています。

Google Drawingで作る

ということで作成の章に入りますが、フローチャートを描くことが目的なので、手書き派なら手書きで問題ないでしょう。ツールは何でもいいと思います。

PCであれば専用ツールもあるしExcelでもいいでしょうが、ちょうど誰でも使えそうなツールを見つけたのでご紹介します。Google Drawing(Google図形描画)です。

その名の通り図形を描くツールで、Googleアカウントを持ってさえいれば誰でも無償で使えます。上のリンクから直接アクセスして(自分のアカウントに)直接作成できますし、Google Driveから新規作成もできます。

使い方はいたってシンプルで、ブラウザで動く簡易版パワポみたいなイメージです。大きな違いはキャンバスが固定でなく、広げたり縮めたりできるところですかね。基本的にはハコを作ってコネクタで繋げ、線の終点を矢印にすればそれっぽく作っていけます。

ハコや線の設定はツールバーから
書式設定オプションより細かな設定も可能

この後の章で、いくつかサンプルを作ってお見せします。タイムラインをきちんと把握した方がよいので、試験日程、合格発表日時だけでなく、出願締切や入学金納入締切なども記載しておくべきです。

それぞれのサンプルは元ファイルを閲覧できるよう共有しておくので、自分用のものを作りたい場合は、サンプルをコピーして作ってみてください。手順は次の通りです。

  1. Googleアカウントでログイン

  2. サンプルファイルを見る

  3. [ファイル]→[コピーを作成]

ぜひご活用ください。

サンプル

サンプルですが、できるだけ現実に近いものをと考えつつも、逆にそのまま使えるものだとその流れに引っ張ってしまう(影響してしまう)恐れも考えられるので、ちょうどその間を取るようなところで考えました。

男子校・女子校・共学校と3種類に分け、それぞれ、各日程の偏差値の高い学校を機械的に選ぶかたちで受験日程を組みます。受験校は、それまで合格を取った学校より偏差値の高い学校があれば日程に組み込みます。あと一部例外を除き、東京都内の進学校をベースとして組み、1月の埼玉・千葉は除外して考えています。

まあ実際の図を見てもらった方が早いのでご覧ください。

男子校編

男子最難関で考えたとき、今の典型的な流れだと次の感じでしょう。
 【開成】→【聖光/渋渋】→【筑駒】(→【聖光】→【渋渋】)
(聖光は神奈川、渋渋は共学ということで上で設定したルールから外れますが、ある程度現実感を出したいので今回は聖光を入れました。あと、1月校は除外するので、仮の抑えを1日午後に入れています。)

一番左の縦ラインが最難関を受け続ける流れになっていて、一般的に想定されているのはこういう1本のラインであることが多いと思います。今回の例だと、巣鴨を抑えにしつつ最難関を受け続ける感じです。

合格を計算できる学校を抑え校としているので、抑え校=合格として組むのは別におかしくないとは思いますが、受験である以上、100%ということはあり得ないです。今回ポイントにしたいのは、事前に可能性は全て想定しておくという点です。それによって最悪の事態にも想定済みとして対処できるし、キーとなる抑え校がどこなのかを明確にできるので、そこを重点的に対策しておくこともできるでしょう。

ちなみにここでは単にその日程の中で偏差値の高い学校を置いただけなので、この流れを推奨しているわけではないというか、むしろ後半日程はその場で決めていってこうなってしまったという悪い例のようにも見えます。これだけ学校数が多いと過去問も見られないだろうし、焦りも相まってデスロードの可能性も十分考えられます。

ぜひご自身の志望校に合わせて考えてみていただければと思います。元ファイルはこちらです、コピーしてご活用ください。
Google Drawingで閲覧(男子校編)

男子最難関の流れに関しては我が家に縁がなかったので(下の子も想定していない)具体的にコメントできることもありませんが、知り合いに3日筑駒終了時点で合格ゼロだった人はいました。その後巻き返したので、結果笑い話というか武勇伝となっていますが、色んな面でここから得られる教訓は多いなと思います。
あと、最難関を想定して挙げていますが、ここから派生する流れも色々考えられると思います。例えば、巣鴨を抑えの軸として組みチャレンジ校を入れていくとか、本郷②〜の流れを主軸にする、1日午前午後をおさえて2日からチャレンジしていく等々。実際の作成時のサンプルとしても、思考訓練としてもご使用いただければと思います。

女子校編

女子最難関は男子よりバリエーションがある気がしますが、一つの代表例は次の流れと理解しています。
 【桜蔭/渋渋】→【豊島岡/渋渋】→【豊島岡/筑附】(→【豊島岡】→【渋渋】)
今回は女子校縛りなんで桜蔭→豊島岡を軸に組み立てています。

こちらも男子と同様に1日午後に仮の抑え校を入れ、そこがNGだった場合に分岐させることにしています。この流れも現実感としてどうなの?という疑問符は付きますが、考えておくことが重要と思って見ていただければと思います。

女子校編を作っていてひとつ気がついたのは、出願がちょっと早い学校がある点です。豊島岡は前日12時、頌栄②は前日16時など、前日の合格発表を見る前に出願しなければいけない学校があるので注意が必要でしょう。

元ファイルはこちらです。
Google Drawingで閲覧(女子校編)

共学校編

共学校を敢えて切り出すより本来は男子編・女子編に組み込むべきと思いましたが、そうするとほとんど偏差値70近辺を受け続けることになり、あまりに現実感のないプランになりそうだったので、共学校編として切り出すことにしました。

っと思って作りましたが、結局これでも微妙な日程。

渋渋→広尾→渋渋→広尾と受け続けると2日午後まで合否が出ず、発表が出たころには既に後半戦となっているので、この2校だとなかなかバックアップが立てづらいプランになりそうです。広尾の偏差値が低かったころは良かったのかもしれませんが。。。

まあ作成のベースとして使ってもらえればと思います。

元ファイルはこちらです。
Google Drawingで閲覧(共学校編)

作っていて気付いたのは、渋渋を筆頭に入学金納入をかなり遅くまで待ってくれる学校が多いことで、納入期限はそれほど気にしなくて良さそうという点は良いですね。

余談

「入試を組み立てる難易度は上がっている」と冒頭で書いたのですが、本当にそうなのか気になったので、15年前の偏差値表を見てみました。

2010年入試 四谷大塚80偏差値表-男子(60以上で切り抜き加工してあります)

とりあえず偏差値60以上で午後入試はゼロ、50台でも数校しかありません。基本は午前入試で、本命が1日、2日3日は抑え(神奈川は2日本命で残りが抑え)というシンプルな組み立てになりそうなのがわかります。
(余談ですが、御三家という枠組みや早稲アカNN校は、この時代ならまだしっくりくる感じです)

2010年入試 四谷大塚80偏差値表-女子(60以上で切り抜き加工してあります)

女子は1校だけ、普連土②が2日午後に顔をだしています。あとは附属校が上位に多いなどの違いはありますが、とはいえ午前を中心に組み立てていくという点では今よりはるかにシンプルだったと考えられます。(ちなみに星マークは、前年がサンデーショックで日程が変わったことを表しているので大した意味はありません)

この偏差値表を見たあとに今の偏差値表を見ると、複雑さが全然違うのがわかります。そもそも2月1日・2日は午前・午後で欄が分かれて数も非常に多いです。

で何が言いたいかというと、日程の組み方や作り方も時代に合わせたアップデートが必要ではないかということです。第X志望とか書いていくだけというのはさすがにないでしょうが、各日程1校というシンプルな組み方だけで大丈夫でしょうか。日程の組み方で受験の流れが変わっていくことは大いにありえると思います。この辺り、もしかすると昔を知っているであろう指導者側の方が、過去のやり方や価値観に縛られている可能性も否定できないのではと思います。

さいごに

塾の合格体験記をはじめ、世の中に出回る情報はどうしても上手くいったケースの方が多くなります。ただその裏には発信されていない多数の事例があることも事実で、最近では、二月の勝者や受験本などで描かれることによって少しずつその実態も見えるようになってきました。

結果的に上手くいけばそれに越したことはないですが、入試前だからこそ、そうではない方向にも事前に目を向けておくことは重要かと思います。フローチャートによってそういう点を可視化することができるようになります。

どう転んでもプラスに考えられる受験になることが理想であり、そんな受験になることを願っています。

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