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伝統校と新興校どっちを選ぶという話

伝統校と新興校のどっちがいいか、学校選択のひとつの検討項目かと思います。別の著作が話題のおおたとしまささんが、伝統校と新興校のどっちがいいかという質問を受けたことに対する回答をしている記事を見ながら、この件について考えてみたいと思います。

記事自体は以下の本の出版に関連した記事ではあると思いますが、まずは記事を読んでいただければと思います。

実はだいぶ前にこれについての記事を書き始めたのですが、イマイチしっくりこなくてお蔵入りさせていました。ただ、最近学校比較をネタにしてきて何となくまとまった気がするので、その振り返りも兼ねて書いてみようかと思います。

伝統校 vs. 新興校

まずは記事の内容について振り返りたいと思います。冒頭に以下の記述があります。

中学受験の志望校選びに関して「伝統校と新興校とどちらを選ぶのがいいと思いますか?」と聞かれたことが何度かありました。最初は質問の意図がわかりませんでした。古い学校を伝統校と呼び、新しい学校を新興校と呼んでグループ化することはわからないでもないですが、そこに価値の対立みたいなものがあるとは私自身思っていなかったからです。

まずどっちがいいかを赤の他人に聞いているところからおかしいですが、まあそれは置いておくとしても、疑問に思っていること自体は何となくわかります。具体的には以下の記載ですね。

伝統校の魅力はブランド力だけで教育の中身は古くさいものだけど、新興校は新しい取り組みをしていてこれからの時代に役立つ具体的なスキルを身につけさせてくれるのではないかという思い込みを前提にした図式です。

要するに、既にブランドイメージが確立していて大きな宣伝をしなくても生徒を集められる学校=伝統校、逆にブランドがないので魅力的に見える取り組みを多数アピールしている学校=新興校という構図ですね。異論が多数あるだろうことを承知で敢えて言及すると、伝統校=御三家、新興校=国際系と置き換えるとまあ一番分かりやすいんだろうと思います。おそらくこの保護者の裏に透けて見えるのは、周りからスゴイと言われるようなブランド力のある学校に行ってほしいけど、新興校の素晴らしいプレゼンテーションを見て心動かされている、名と実とどっちを取るべきか、なんでこれが両立しないんだろう、みたいな感じじゃないでしょうか。

それに対するおおたさんの回答は以下の通りです。

生徒たちの生き方に影響を与える学校文化のようなものを、社会学の用語では「ハビトゥス」と呼びます。伝統校あるいは名門校と呼ばれるような学校は、このハビトゥスが強力なのです。各学校のハビトゥスは「○○高校らしさ」「○○高校っぽさ」のような言い方で、世間にも認識されます。
一方、できたばかりの学校あるいは歴史はあっても経営者が替わって校名まで変えて完全リニューアルしたような学校には、まだ確たるハビトゥスがありません。ですから、高い大学進学実績を掲げたり、先進的なグローバル教育やICT教育を掲げたりして、アピールします。ハビトゥスの代わりに「シラバス」(学習計画表)の特異さで勝負しているわけです。

韻を踏んでいてなかなかうまい言い回しですが、もう少し分かりやすく言い換えると、

  • 伝統校=かたちとして現れづらい雰囲気・空気感をコアとしている

  • 新興校=かたちとしてわかりやすい教育プログラムをコアとしている

ということになるのかなと思います。暗黙知と形式知という表現が合っているか分かりませんが、まあそんなものだということでしょう。

そして最後にこんな表現がされています。

学校は、ただのハコではありません。時とともに成長する生命体のようなものなのです。

つまり、伝統校だから昔のままとかいう話ではなく、時代に合わせて進化は続けていて、それが外から見て分かりやすいものか分かりにくいものか、という違いだということだということです。

また、次のようにも書いていて、

私が伝統校推ししていると思われるかもしれませんし、実際そのとおりなのですが、ある意味当然なんです。

ここだけ読むと伝統校が良いと言っているようにも見えますが、実際は新興校を否定しているわけでもなく、求めているもので選ぶべきという話だと思います。まあ伝統校好きではあるのだと思いますが。

伝統校は時代おくれで新興校が次世代なのか?

さて、ここからは私の主観的な話を書いていこうかと思います。

「伝統校の中身は古くさい」という話がありましたが、見方によってはそうも見えますね。確かに人気急上昇中の学校の説明会を聞くと、上記で言う伝統校の説明会は面白みがなく古くさいと感じても無理がないと思います。比較記事を見てもらえば一目瞭然ですが、海外研修の設定が全くないのは偏差値上位の伝統校に多いし、私自身が情報をまとめた際も、これといったアピール材料がなく無理やり捻り出した感が強いのもこれらの伝統校でした。

ただ個人的には「伝統校の中身は古くさい」と言うなら、それは「伝統校に限らず」だと思っています。学校の教育環境の比較などを記事にしている中でこんなことを言うのも何ですが、グローバル教育だとか探究学習とかICTなどというのは、教育環境の中で枝葉の部分でしかありません。中心にあるというか、日常生活のほとんどの時間を占めているのはいわゆる教科学習の授業時間です。(あと部活)

で、その教科学習にフォーカスしてみると、正直そこまでの差があるとは思えません。20〜30年前だと、開成や灘のような独自の先取り授業をやっているところとそうでないところでカリキュラムに大きく差があったようですが、イマドキは中高一貫校向けの体系数学という教科書などもあって、どの学校も高2まで、遅くとも高3夏までにカリキュラムを終える先取り型になっているのが中高一貫校全般に言えることです。その中で科目ごとの時間数や内容の深さ、メインとなる教科書、先生の質などに違いはあるようですが、じゃあ一般的な国公立校と比較したときほどの差があるかと言えば、それは誤差と言えるほどの差でしかないと思います。

あと「古くさい」という観点では、何を新しいとするかは人によって違うかもしれませんが、少なくとも先生が前に立って一斉授業するという形態は我々の子供時代から何ら変わっていません。コロナ影響でITインフラが一気に整ったので、もしかしたら授業形式についても一気に変わるところが出てくるかも?という期待もあって、学校説明会に足を運ぶたびに個別に質問をし、一般的には先進的なイメージを持たれている学校を含め色々聞いてまわったのですが、私の聞いた限りではこの一斉形式の授業を変えようとしている学校はゼロでした。多少なりとも検討したり試した形跡でもないかなと思ったのですが、検討する姿勢さえもなさそうで個人的にはガッカリした記憶があります。まあこれは文科省にアタマをおさえられ、履修型の学習指導要領に縛られている現行の学校(一条校と言うんですかね)という範囲では難しいことなのかもしれません。知らんけど。

ということで結局何が言いたいかというと、伝統校だ新興校だと言ったところで、教育内容の本質にはそこまで差がないだろうというところです。アクティブラーニング型と言ってみたところで、全ての授業をディスカッション形式で行うなど効率が悪すぎて学習指導要領のカリキュラムをこなせないので、そういう取り組みもやっています、くらいに考えた方がいいと思います。国際教育・グローバル教育に力を入れているといっても、日常の授業にプラスαでそういう行事がありますとかいうレベル感で捉えるべきでしょう。

というと新興校批判とも捉えられそうですが、別にそう言いたいわけではありません。本質的なところに差はないという前提に立って、それでも学校が持っている文化やプログラムの部分で子供に与える影響がどういうものかを考え、学校選択をしていくべきじゃないか、と思っています。

例えば自由・自立型の学校(こちらは名門校に多い)と世話焼き型の学校では180度方向性が違い、勉強に対する姿勢という面で得られるものは全く異なるでしょう。これはどちらが良い・悪いとかよりも、子供のタイプや家庭の考え方によって選択するものかと思います。そして海外研修や探究学習などのプログラムについても同様で、自ら求めていけばハイレベルな教員や仲間の中で高みを求めていくことができるタイプの学校(自立型)と、学校からの働きかけによって様々な経験を積ませていくタイプの学校(プログラム型)とに分かれると思います。

伝統校・新興校という枠組みに近いと言えば近いですが、伝統校でも偏差値が下にいくほど世話焼き型が多い傾向にあったり、新興校でも勉強は自立型の渋谷系などもあると思うので、こういう分け方の方が個人的にはしっくりきます。そういう意味で、比較記事ではこの後者にフォーカスして、どんな体験プログラムを持っているかで学校のタイプを比較してもらえればと思っています。

新しい教育って何?

最後に、教育の中身が古くさいという話ですが、じゃあ逆に新しい教育って何でしょうか。

今見えるひとつのかたちは、N高N中等部のような方向性かなと思います。現時点ではどちらかというと既存の教育をドロップアウトした人が選ぶ学校というイメージじゃないかと思うのですが(違ってたらすみません)、やっている内容からすると時代の先を行っている気がします。こういう学校(?)が日本にできたというのは、日本もまだまだ捨てたものじゃないと思えます。社会人になって成功した人などの実績が出てくるのがまだこれからなので、積極的に選ぶにはまだだいぶ勇気と覚悟が要りそうですけど(個人の感覚です)。

あとは新しい古いという軸じゃないと思いますが、話題の海外名門校などですかね。この辺は経済的な制約が大きいので普通の人は現実的な選択肢にはならないでしょうが、こういう学校の教育内容が話題になって、他の学校への刺激になると良いだろうなとは思っています。

別に古いからダメとか新しいものなら何でもいいとかいう話では全くないですが、個人的にはもうちょっと色んな選択肢があるといいなとは思っています。そういう意味で新興校には注目していますし、各学校の動向にも興味があり、今後も情報収集していこうと思っています。

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