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【2024大学入試】難関国立大の総合型・推薦型選抜合格者の多い中高一貫校10選

東大や京大に推薦入試があると聞いて驚く人も親世代には多いかもしれませんが、学力試験が中心だった大学入試の方向性も少し変わってきています。

推薦入試と言えば私立大学の指定校推薦というイメージを持っている方も多いと思いますが、国立大学でも、総合型選抜・学校推薦型選抜(かつてのAO入試・推薦入試)が導入・推進されています。この動きは、これから中学・高校を選ぶ際にも無視できる存在ではなくなってきているのではないでしょうか。

この記事では、それらの背景を見た上で、難関国立大(ここでは東京一工と旧帝大)の合格者数上位10校を取り上げてみます。記事の最後では集計表も載せるので、データの確認にもご活用ください。

【更新情報】
・2024.3.25 京都大学特色入試の女性枠を反映
・2024.3.16 新規公開


総合型・学校推薦型選抜に注目する理由

背景

国立大学入試は、従来通りの学力試験型の「一般選抜」とは別に、「総合型選抜」「学校推薦型選抜」が定義されています(長いので、ここからはそれぞれ総合型・学校推薦型もしくは総合・推薦と表記します)。

これらは、いわゆる大学入試改革の中で次の通り明記されています。

各選抜区分の特性と選抜の実態との整合性を図る観点から、一般選抜とそれ以外という整理を改め、入試方法を「一般選抜」、「総合型選抜」、「学校推薦型選抜」に再整理する。

令和7年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告

これまでは、あくまで一般選抜が入試の中心で、プラスαで総合型や学校推薦型、帰国生選抜などが行われると位置付けられていましたが、今後は総合型と学校推薦型を昇格させ(?)、入試方法を3つに分類するということのようです。

さらに、国立大学協会の基本方針の中で次の通り書かれています。

今後とも、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価するため、一定の学力を担保した上で、調査書等の出願書類に加えて、小論文や面接、プレゼンテーションなど多様な評価方法を活用し、これら学力試験以外の要素を加味した「総合型選抜」・「学校推薦型選抜」などの丁寧な入学者選抜の取組を加速・拡大する。   

2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度 -国立大学協会の基本方針- 

ただこれについて、2017年度に出された基本方針では「入学定員の30%」という目標値の記載がありましたが、2023年度版では削除されているので、多少後退してはいるようです。さらに一般選抜をなくすことはないとも明記されています。

ただ上で見てきた通り、一般選抜から総合型・学校推薦型へ一定程度のシフトはさせるというのが方針ということです。これは一般選抜枠が減るということも意味しているので、意識しないわけにはいかないでしょう。

ちなみに学校推薦型と聞くと、私立大学の指定校推薦のように高校内で選抜されればほぼ100%合格すると思いがちですが、国公立大の場合は公募制でそこから選抜が行われるので決して楽ではないというか、一般選抜よりハードルが高いところも少なくないです。

実際の割合

では実際にどの程度進んでいるのか、今回調査対象にした国立大学で見てみます。

出典:各大学の募集要項
*京都大学の2025年度入試からの特色入試の拡大・女性枠の新設を反映しています

【2024.3.26更新】
京都大学では2025年度入試より、理工系学部における特色入試の拡大と女性募集枠の新設が発表されました。下の表の通り、一般枠17・女性募集枠39の合計56人分が追加で特色入試に割り当てられることになります。

*一般選抜の人数は発表されていないので定員からの予測値です

東北大学はよく取り上げられるのでご存知の方も多いかもしれませんが、東北大学の約3割を筆頭に、各大学とも一定枠を総合型・学校推薦型に振り向けているのがわかります。ちなみに上の9大学での平均は12.2%でした。

東工大は2024年から総合型・学校推薦型で女子枠も新設したので、入学定員の20%近くに拡大しているようです。

実際の合格者数はこの定員に達していないことも多いので(学校の求める要件に満たない場合は合格を出さないらしい)、必ずしも入学者の割合がこの通りになっているわけではありませんが、それでも思ったより進んでいると個人的には思います。

各大学の募集要項を読むと、求める学生像として大体次のキーワードが浮かびます。

  • 主体性(大学での学びに強い意欲を持つ)

  • 多様性(ジェンダー・地域・外国人など多様なバックグラウンド)

(広い意味での)推薦入試というのは一般選抜より先に合否が決まり、基本的に辞退はできないものなので、学生集めに苦労している大学が早期の学生確保のために使うというネガティブな側面も考えられます。ただ、大学で学びたいことを先に考え志望理由を明確にして臨むこれらの試験は、学校名や偏差値からひとつでも上の大学へ、という価値観を変える可能性もあるのではと思います。

どちらが良いとか悪いとか色んな見方はありそうですが、それよりも受験生側としては、大学がこう変わろうとしているという点はおさえておくべきと思います。

男女割合

先ほど多様性というキーワードを書きましたが、一般選抜と総合型・学校推薦型では男女比が異なるところがほとんどです。調べられたところだけ挙げるとこんな感じです。

出典:各大学の入試結果データ
2023年の入学者に対する女性の比率です
*東工大は女子枠導入前のデータになります

一般選抜だと女性比率は20〜30%程度になってしまいますが、総合型・学校推薦型だと男女比が半分程度になるところがほとんどです(なぜか北大だけは逆行していますが)。

女子が総合型・学校推薦型に強いのか、大学側が意図を持って女子合格者を増やしているのかはわかりませんが、東工大の女子枠の話からも垣間見える通り、ジェンダー平等や多様性が求められる中で、女性比率を上げるツールとして期待されているところもあるのかなと感じます。

女子枠や女子優遇などの話は入学機会の平等性云々の議論になるところだと思いますが、大学がグローバルからの評価を意識し、学生の多様性も求められている中では、考え方として肯定すべきかなと個人的には思います(日本の将来を考えれば国立大学に男女差がある状態は解消すべきで、もしかすると一般選抜という仕組みにが女子に不利なのかもしれないという研究があっても良い気がします)。

総合型・学校推薦型の多い中高一貫校10選

ではそんな総合型・学校推薦型に多くの生徒を合格させている学校はどこなのか、中学受験での学校選びという視点から見ていきます。集計対象の大学は上で見た東京一工+旧帝大の9校、合格者数は大学通信オンラインのデータを使用しています。

吉祥女子

12名(一橋大1/東工大4/東北大4/阪大4)

"社会に貢献する自立した女性の育成"を建学の精神とし、全員参加のカナダ語学体験ツアー、教養講座、ライフスキルプログラムなど、様々な体験型プログラムを展開しているのが特徴的です。

近年は、海外大学との姉妹校関係や、東京農工大学、東京外国語大学、東京学芸大学、国際基督教大学、順天堂大学との高大連携など積極的に動いているようです。

大学合格実績を見ると現役国公立が20%前後なので、偏差値の割には国公立志向が強くないというのが正直な感想でした。ただ、総合型・推薦型が多いというのは、教養型の取り組みが生徒の目線向上につながっているのかなと想像します。一般選抜より女子向きかもしれない総合型・推薦型なので、こちらを伸ばしていくと面白いのではと個人的に思います。

大宮開成

11名(北大4/東北大5/名大1)

「愛・知・和」を校訓とし、英語教育、国際理解教育、プレゼンテーション教育、人間教育などが教育内容として掲げられています。

中高一貫部については学年全体が「英数特化コース」となっていて、英語・数学の授業時間数に比重を置いたカリキュラムを展開しているということです。

東京一工はゼロで北大と東北大で合格者を稼いでいる感はありますが、旧帝大にこれだけの数字を出しているのは、入学時の偏差値から考えると相当健闘していると言っていいのではないでしょうか。

海城

9名(東大1/京大2/一橋大1/東工大2/東北大3)

「新しい人間力」「新しい学力」を掲げ、コミュニケーション・コラボレーション能力や課題設定・解決能力を養うプログラムを多数展開しているのが特徴的です。

東大合格ランキングでも上位に顔を出す進学校ながら、ここでも多くの人数を出しています。今回、東京一工の全てに合格者を出しているのはこの学校のみで、難関大への強さを感じます。

総合型・推薦型だけでなく医学部や海外大実績も多く、進路の幅が広い(のに東大も多い)ところに、この学校の懐の深さを感じます。

東京都立桜修館中教

8名(東大2/一橋大1/東工大2/東北大2/阪大1)

「論理を学ぶ」という、論理的な思考力を育てる教育活動に特色があり、前期過程で「国語で論理を学ぶ」と「数学で論理を学ぶ」を設置、後期課程で研究論文の執筆とその要旨を英文でまとめるなどの活動を行っています。

卒業生数が150名前後と、ここまで紹介した学校の中では最も少人数となります。その中で、ひとつの学校に集中するわけでもなくこれだけの合格者数を出しているのは立派というほかないと思います。公立中高一貫校がこういう入試に特別強いというわけでもなさそうなので、教育内容と先生のサポートが強いということでしょうかね。

広尾学園

8名(東大1/東工大3/東北大2/九大2)

2007年に広尾学園となり、国際教育とサイエンス教育を中心に学校改革のモデルとして注目されてきました。中高大連携プログラムや広学スーパーアカデミアなど、著名人を招いての講演会や体験型講座などが充実しています。

医学・理系を目指す医進・サイエンスコースが設置され、研究活動や産学連携に力を入れていることから、それがこの合格者数にもつながっているのかなと想像します。帰国生が多く、海外大学を目指す人が多いというのも、同様の選抜方式である総合型・推薦型の強さになっているのかもしれません。

東大はじめ一般選抜の進学実績も伸びてきていますが、海外大学や総合型・推薦型などを見ると学校の進学サポートが手厚い印象を受けます。

筑波大学附属

6名(東大2/京大1/東工大1/東北大1/阪大1)

国立大学の附属は教育研究の実践校と位置付けられ、アカデミックな教育が行われていることが多いです。筑波大学の附属学校では、先導的教育拠点・教師教育拠点・国際教育拠点という3つの拠点構想に基づいて、様々なプログラムが実施されています。

東大推薦合格者も毎年のように出し、その他もどこかに偏るわけではなく難関大に輩出していることから、地力の強さを感じます。筑附は小学校・中学・高校と全ての受験で難関となっていて、素質のある子供や家庭が多いという要因もあるのかなと勝手に考えています。

渋谷教育学園幕張

6名(東大2/東工大1/東北大3)

「自調自考」「国際人としての資質」「高い倫理観」を教育目標とし、系列校の渋渋との共同プログラムや自調自考論文など、教養型のプログラムを多数行っています。

最難関の一角で東大合格者トップ10の常連でもありますが、こちらでも一定の合格者を出しています。生徒のレベルの高さと、学力一辺倒ではない教育内容、学校の進学サポートとで成り立つ数字かなと考えています。

武蔵(私立)

6名(東大1/一橋大1/東北大4)

元祖「自調自考」というか、アカデミックな校風の代表格的な存在と思われるのが武蔵でしょう。日々の授業がそもそも探求型だったり、隣接する武蔵大学の授業が聴講可能など、教養型の教育という話をよく聞きます。

東大合格者ではかつてのイメージから見劣りすることは否めないですが、教育内容からすればこちらの入試が合っている気がします。卒業生の数が多くないので絶対数では不利ですが、個人的には武蔵がこの数字を大きく伸ばしてくると面白いなと思って見ています。

神奈川県立相模原中教

6名(東大1/東工大2/東北大3)

神奈川県の公立中高一貫校で偏差値トップとされる学校で、「科学・論理的思考力」「表現コミュニケーション力」「社会生活実践力」の3つの力を育てることを目標としています。「かながわ次世代教養」「サイエンスチャンネル」などが探求活動として定義されています。

卒業生数が150名前後と多くない中で、難関大学それぞれへ合格者を出しています。学校Webサイトの中に次の資料を見つけたのですが、その中で現時点での課題感と目標・方策がかなり具体的に記載されています。こういう検証・改善の姿勢はポジティブで期待感が持てると個人的に感じます。

学校教育計画(令和2年度~令和5年度)

城北

6名(京大1/東工大1/東北大2/九大2)

「人間形成と大学進学」を教育目標として掲げ、探求活動としては中学の卒業研究、3ヶ月のターム留学制度などもあります。

京大、東工大へも1名ずつなど、特定の学校で稼いでいるわけではなく幅広く合格者が出ているのが特徴的です。

総合型・推薦型の多い首都圏の学校

人数の多い中高一貫校10校を取り上げましたが、ここではその元データとなる一覧表を掲載します。学校数が多いので、合計3人以上というところで区切っています。

首都圏(一都三県)の高校を集計対象としているので、高校入試で入る学校も含めご覧いただけると思います。

色分けは次の通りです:[緑:共学][青:男子校][赤:女子校][黄:国公立][グレー:高校のみ]

総括

以上、総合型・推薦型の多い学校について取り上げました。

以前、東大の推薦入試について調べたとき、都市部の進学校に偏った学生構成を是正することがひとつの導入目的と記されていました。

→東大推薦入試 累積合格者ランキング|推薦入試導入の背景

他の大学の総合型・推薦型を推進する背景にも同様の問題意識というか、多様性の確保や目的意識を持った学生を求める理想のようなものがあると考えられます。そういう意味では、首都圏の中高一貫校は求められていないのかもしれませんが、"目的意識を持った学生"に育つのでであれば別に地域などは関係ないでしょう。

定員割れも増える中で、一部の大学では学生確保の手段として推薦入試が使われるようになってきたり、理想とはかけ離れた使われ方もしてきそうですが、"学力試験なしで入れる手段"とかいうような貧相な考え方ではなく、中高でやりたいことを見つけて探求し"学び続けるための手段"として拡大していくと良いだろうなと思います。

学校側の負担も大きそうな仕組みなのでどこまで広がるかはよくわかりませんが、逆にそういう意味で学校の教育熱が測れる数字なんじゃないかと思ったりします。

女子に有利な入試なのかはよくわかりませんが、少なくとも今の数字上では一般選抜より男女差がないので、女子校こそこっちに力を入れてみたら面白いんじゃないかなと思ったりします。

ちょうど次のような記事を見ました。
マネー現代|18歳女子高生が大後悔…大学の「一般入試」を回避して起きた「残念すぎる悲劇」

この中で最も気になったワードは、「先生から『やりたいことは、これから一緒に見つければ大丈夫』と言ってもらいました」「総合型で頑張れば、一般入試よりもハイレベルな大学に行ける可能性があると聞き、それはいいなと思いました」という辺りです。受験の趣旨と、試験結果を知った上で聞けば明らかな営業トークとわかりますが、プロとされる人に言われれば信じて飛びついてしまう気持ちもわからなくはないです。
個人的には、そもそも受験と聞いただけで思考停止して塾に頼る風潮自体に疑問はあり、こういう被害を受けないためには、きちんと募集要項を読むなど自分の手を動かして考える習慣をつける必要があるのではと思います。塾を選ぶならその先でしょう。また、本来は学校と二人三脚で進める入試だと思うので、学校を活用する、活用できる学校を選ぶという視点も重要じゃないかと思います。

何か気付きや考える材料にでもなればと思います。

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