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色彩のない世界

私は世界をモノクロームで切り取る。それは、色で溢れかえる世界をあえてシンプルにすることで、見る者の想像力を解き放ちたいからだ。色彩をなくすことで、むしろ見えてくるものがある——それが私の表現の根幹でもある。

そんな私が、66歳にして初めて色を識別できるメガネを贈られ、世界の色彩を知った男性の動画に深く心を揺さぶられた。

彼は選択の余地なく、モノクロームの世界で生きてきた。
私が芸術的な表現として選び取る「モノクロームの世界」が、彼にとっては人生そのものだった。その彼が初めて目にした色彩の世界。その喜びに、まず純粋に心を打たれずにはいられなかった。

しかし同時に、私の中で何かが揺らいだ。色彩の持つ力強さを知る彼の姿に、私はモノクロームで見せる意味を、もっと深く問い直さねばならないと思った。そして、彼の新たな視点への好奇心も芽生えた。彼は色彩を知ることで、それまでのモノクロームの世界に、どんな意味を見出すのだろうか。否定するのだろうか。

彼は今、どんな風景を見ているのだろう。色に満ちた世界の向こうに、かつての無彩の静謐さは残っているだろうか。それともすべては塗り替えられてしまったのか。

答えは知らない。
ただ、私のファインダーの中の世界が、彼の目の中で輝いていた世界と、どこかでそっと重なることを願っている。


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