YOSAKOI紡ぐ♡恋バナ 第2話
満点の星空の下、時折虫たちの囁くような鳴き声が聞こえてくる。
近藤ファームと吉田牧場は、敷地同士が接しているとはいえ、双方の住居施設の間は1㎞近くも離れている。
人通りはおろか、車通りも一切ない静かな夜道を、青のツナギ服を着る智哉と琉悟が歩いている。
暗闇とまでいかないが、足元がおぼつかない夜道なので、琉悟は慎重に歩を進めて…
東京では絶対に見られない、無数の星と天の川がきらめく一面の星空を、本来なら満喫したい琉悟だが、先を歩く智哉がスタスタ歩いているので、付いていくのに必死だ。
「――ほ…、ホントに、ヘーキなのぉ?」
雑草が生い茂る林に入り、地べたを匍匐前進で智哉のあとに続きながら、琉悟が不安そうに囁いている。
「ヘーキヘーキ、バレやしネェって…」
右腕左腕と交互に匍匐前進しながら、智哉が囁いている。
茂みの前方に橙のLED球が照らす、ほのかな明かりが見えてきた。
そこからは湯気が立っていて、ジャブジャブと湯をつかう音が聞こえてきている。
地面に伏せて横並びでいる琉悟と智哉が、ソロソロ頭を上げると…
「へぇ~、この露天風呂、お父さんが自分でぇ?」
ふいに聞き慣れた女子の声がしたので、咄嗟に地面に伏せる琉悟と智哉。
「あたしのパパ、牧場始める前は、温泉掘削の仕事してたンだ」
――この声は…、ハルカちゃん?!
「へ~え、そうなぁン~」
続いて、瑠奈の声がする。
「牧場の下に、温泉の水脈が通ってンだってぇ」
「空港から迎えに来てもらった途中に、温泉の看板があったンは、それかぁ~」
「そンでぇ、パパがボーリングしてぇ、この露天風呂を――」
二人が楽しげに話している声が聞こえる中で、ジッと突っ伏している琉悟と智哉…
――まさか…、これからのぞく風呂に入ってる、JKってぇぇ?!…
琉悟はハナ眼鏡を直しながら、生唾をゴクリと飲み込んでいた…
*
死んだように沈黙している琉悟と智哉が、もう一度恐る恐る頭を上げると、上手い具合に見下ろす按配で、薄明りに照らされた露天風呂が見える。
反対側は柵で目隠しされていて、二人が隠れている側が斜面に面している造作だ。
満天の星空の下、湯煙に霞む中で遥香と瑠奈が、湯だまりに浸かっているのが見える。
石像のように微動だにせず、湯だまりをガン見している琉悟と智哉…
ザバッと音がして、遥香が立ち上がった――
――おおおぉぉ(*゚◇゚)…
同学年女子の裸体を見るのが初めての琉悟は、ズレた眼鏡を慌ただしく直し、限界を大きく超えて両眼を開け、凝視している。
残念ながら湯煙に霞んでいて、遥香の裸体は肌色のシルエットでしか見えない。
大きめの白いボディタオルを身体の前にかざした遥香が、湯だまりの淵に座った。
湯煙で霞んでハッキリ見えないのが、なんとも歯がゆい…
「――瑠奈ちゃん…」
「え?」
智哉がボソボソ囁くので、琉悟が小声で返答する。
「ハルカより、おっぱいデケえ…」
湯煙で霞んでるのに、そこまで比べられるワケがないと、不審がっている琉悟。
「――ボンヤリしか見えてないのに…」
「え?」
「どうして分かンの?」
「――中3になるまでハルカと一緒に、この風呂に入ってた…」
「はぁ?!――」
奇声を上げかけた琉悟を、血相を変えた智哉が両腕で、ガッツリ地べたに押さえつけている。
「――ゴ、ゴメン…」
眼鏡に付いた土を払いながら、琉悟が囁き声で詫びている。
「に――、にしても…、中3までぇ?」
囁きながら、顔をしわくちゃに引きつらせている琉悟。
「――べつに…」
露天風呂の方をガン見したまま、シレッとしている智哉。
「――お互いのアソコに毛が生えてない時から、一緒に入ってたし…」
琉悟は顔を引きつらせたまま、露天風呂と智哉を交互に見交わしている。
「あンま変に思ったコト、ねぇし――」
その時、そよ風が吹いて、遥香の前を覆っているボディタオルが、風下へフワリと舞い上がる。
風で湯煙が飛ばされたことで、現役JKの露わなバストが、琉悟の眼に鮮明に映る。
――ふえぇぇぇ…
どう表現したらいいか分からない奇妙な感覚が、琉悟の全身を駆け巡っている。
――おぉ、ハルカちゃぁん…
股間がむずがゆくなってきた琉悟が、食い入るようにガン見している。
――おっぱいの下側に、ホクロがある…
*
「――ねぇ…」
湯だまりに浸かる瑠奈が遥香に話しかけたので、琉悟と智哉は咄嗟に伏せる。
「――さっきから、気になってンだけどサァ…」
――ヤバい!バレた?!
全身を硬直させて、二人がビタッと地べたに突っ伏している。
「なンか、臭うよネ?」
何だ、それかァと、安堵している琉悟と智哉。
「――あぁ、これネ…」
ボディタオルを上半身にキッチリ巻き直した遥香が、湯だまりの淵から立ち上がって、内風呂の入り口へと歩いて行く。
すると屈み込んで、何かを取り出しているような…
「この源泉、石油の成分が溶けてンのよ」
「石油?ヤバくない?」
思わず顔をしかめている瑠奈。
「ヘーキヘーキ、美肌にスゴい効果があンだって」
先端にノズルがついたホースを、遥香がズルズルと引っ張っている。
「なンか石油が溶けてる温泉って、日本じゃココだけなンだって」
「へ~ぇ…」
遥香が手に持つノズルのレバーを捻ると、先端から勢いよく湯が噴き出し始めた。
「北海道って、ヒグマ出ンの知ってるよネ?」
「ウン」
「ヒグマって、石油の臭いが嫌いだから――」
遥香がホースのノズルを、琉悟と智哉が隠れている斜面の方に向ける。
「こうやって撒いとくと、近寄って来ない――」
――ウッヒャああぁぁぁ…
放射した湯は突っ伏して隠れている二人に、見事に命中している。
琉悟は眼鏡を飛ばされまいと、両手で懸命に支えている。
「――なンか、同じトコしか撒いてない?」
「いいの、いいの」
不審がる瑠奈をよそに、遥香は集中砲水を浴びせ続けている。
――ブブブブゥゥゥゥ…
全身ズブ濡れの琉悟と智哉は、息を押し殺して猛烈な放水を、必死に耐えている。
「――こンぐらいで、いっか」
ようやく放水が止まり、二人は囁くようにゼエゼエ喘いでいる。
「――なンか、虫がいるみたいだからサ、内風呂に入ろ♪」
「えぇっ?虫なンて、いない――」
「変な虫に刺されちゃったら、大変だからタオル巻いてサ…」
遥香が瑠奈のことを、ボディタオルを上半身に巻かせてから湯だまりを上がらせ、強引に誘っている。
二人が入って行った内風呂への扉を、ズブ濡れになった琉悟と智哉が、恨めしそうにガン見していた…
*
*
ほうほうの体で近藤ファームに戻った琉悟と智哉が、住居施設にある内風呂に入って、ずぶ濡れになった身体を癒している。
わりに広めな内風呂の中の湯舟は、二人が並んで浸かっても余裕がある大きさだ。
「いやぁ~、やられたネェェ~…」
両腕を湯舟の淵に載せて浸かりながら、智哉がヘラヘラしている。
「バ――、バレちゃったンじゃないの?」
湯舟の淵に腰掛け、足だけ湯に入れている琉悟が、顔を青ざめて心配している。
「――かもナ…」
宙を見てシレッと呟く智哉に、
「ええぇッ?!!」
眼を丸くして、湯舟の淵から落ちそうでいる琉悟。
「しょうがねぇジャン、もう見ちまったンだから」
「そンな、そンな、そンなぁぁ…」
「ハルカの、左おっぱいのホクロとか」
「ばっ?!――」
一気に赤面してしまう琉悟。
「――折原クンってサ…」
「え…?」
「ホント、分かりやすいよナ」
ますます赤面して、俯いてしまう琉悟である。
「でも、これでサァ…」
「え?」
「俺たち、のぞきトモダチ、だナ♡」
――どンな友達だよォォ…
「なンて呼ばれてンだ?」
「え?」
「友達からサ」
「――りゅ、リューベって…」
「じゃあ、今からリューベだナ」
智哉が白い歯をみせた笑顔で、ニヤリとしている。
「俺のコトは、トモスケだぜ!」
顔を引きつらせていた琉悟が、ようやく笑顔を取り戻した。
「…ウン!」
*
「――いいネェ~、オトコの友情ぉ…」
ギョッとして、眼鏡が外れんばかりに驚いた素っ裸の琉悟が、咄嗟に両手で股間を隠している。
見ると風呂場の開いた入り口扉に、白Tシャツに青の短パンを着た遥香が座っているではないか。
「なンだよ、のぞきか?」
平然としている智哉が、姿勢を変えずに首だけを入り口に向けている。
「バ~カ、あたしはアンタ達みたいな、セコイことしネェって」
な、な、な、と、うろたえまくっている琉悟。
――詰ンだァァ…、嫌われたァァ…
身動き出来ずに、琉悟が固まって青ざめていると、遥香がよっこいしょと腰を上げる。
「折原クンのおチンチンってサァ――」
「は――、はいぃっ?!」
「トモスケのとは、違うンだネ♪」
瞬殺で、ドボン!と湯舟に飛び込んでしまう琉悟。
包茎のイチモツを馬鹿にされたと感じた琉悟は、眼鏡がズレた顔を真っ赤にして、鼻まで湯に浸かっている…
「オトコのは、ヒトそれぞれなンだよ」
温まって赤ら顔の智哉が、言い放っている。
「へぇ~、そうなン?」
湯舟の脇まで中に入って来た、裸足の遥香。
「たしかに、パパのとトモスケとのは、違うもンねぇ…」
なンの話をしてンだかと、湯に浸かっている口からブクブクしてる琉悟。
「勉強になったか?」
「ウン、なった♥」
智哉を見る遥香が、ニッコリする。
「――なンだって…」
琉悟が呟くので、遥香と智哉が同時に顔を向ける。
「――そンな、面白がって…」
「だって、折原クンだって、面白がって見てたンでしょ?」
ハッとした琉悟は、頭が真っ白になったような気がしていた…
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