恐ろしい母が実はお間抜けだった話。
母は、いくつになっても子どもの話に耳を傾けることはなく、ただひたすら自分の思い通りにならないとキレる、そんな親だった。
殴られたり、蹴られたり、怒鳴られたり。
私はいつも母の前ではビクビクしていたが、大きくなるにつれ母をいかにかわすか、ばかり考えるようになっていった。
ただひたすら恐い恐い母だった。
ところがそんな母のけっこうな間抜けっぷりを見る。
買い物に行って、お金だけ支払って買った物は置いてくる。
大抵午前中に買い物に出掛けて行くが、家に戻るまで気付かず、学校から帰った私は、買った物を取りにお店まで行かせられる。
これが一度や二度ではない。
ある日、朝起きたら玄関の扉の鍵が開いていた。前の日に締め忘れて寝てしまったらしい。その日の夜、締め忘れてはいけないと自分に言い聞かせ、しっかり確認して寝た。
次の日の朝。玄関は締めたけど、今度は裏口の扉が開いてた。
そんな話を大笑いしながら話してくれた。
笑えない。
その時、一緒に笑う気にはならなかった。
もし私がそんな事をしたなら、どれだけボロカス言われたことか。
自分のミスは笑い飛ばして、人のミスは許さへん。
ふ〜ん。そんな人なんや。
子どもの頃から恐れおののいていた事が、なんだかアホらしく感じた。
母は、何でもキッチリとしていて、何をするにもテキパキとこなす。
完璧な母と思っていた。
自分は何一つ満足にできないから怒られるんだと思っていた。
そんなワケないのだ。
完璧な人間なんているワケない。
母も普通のお間抜けなただの人だった。