最初の記憶
あれは多分2歳。その頃は家族4人、父、母、姉、私は小さなアパートで暮らしていました。家には風呂がなく、夕方になるとみんなで近くの銭湯に歩いて行っていました。その日はすでに日が暮れていて、父に負ぶわれた私は父の背中に身を委ね、右側に建っていた何かの工場の窓をじいっと眺めていました。
建物の上の方にある窓は、石を投げ込まれたようにバリバリに割れていました。割れた窓は一つや二つではなく、けっこうな枚数が割れていたのでした。割れた窓の向こうは真っ暗で、本当に真っ暗で、本当に不気味なほど真っ暗で、それを小さな私は、父の揺れる背中にもたれかかりながら目が離せないでいました。
父の背中は広く、とても暖かく、そのぬくもりと不気味な真っ暗な割れた窓を今でも鮮明に思い出すのです。
怖かった。本当は怖かったけど、父の背中の暖かさが怖いのを和らげていたのかもしれません。
古き良き日の日常の記憶。
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