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ito_mi
父。
私は父が好きだった。
母には叱られてばかりで、怒鳴られ、どつかれ、蹴られたこともある。
洋裁の、あの少し厚みのある物差しで叩かれ、見事に真っ二つに折れてしまったこともあった。
でも、父には叱られたことはなかった。かといって、甘やかされていたわけでもなかった。
仕事をしている時の父は、厳しそうな感じが近寄りがたかった。
でもそれが、カッコよくもあった。
家での父は、楽しくて面白い人だった。
幼い頃、お風呂は絶対父と入った。湯船に浸かりながら機嫌良く歌を歌っていた父。その歌を聞きながら私も湯船に浸かり、そんなひと時がスキだった。一人で入るようになった時には、私もまた湯船に浸かりながら歌を歌った。浴室に声が響いて気持ちよかった。
母の腕には触ったこともない。触ろうものなら、舌打ちされて払いのけられる。まだ幼かった頃、何度となくそれをやられた。なんとも言えない気持ちだけが心に残っている。そして、二度と触ることはしなかった。ずうっと大人になってからも。
そのてん、父は優しかった。
家族で出かける時は、いつも父の腕にしがみついていた。
中学生になっても父と腕を組んで歩いた。
振り払われることはない。安心して腕を組みにいける。
日曜日でも父は仕事に出ることがあった。
そんなとき「一緒に行くか?」と言って私を連れて行ってくれた。
私は嬉しくて「行くー!」と言って父の運転する車に乗せてもらい、ついて行った。そんな時の父の仕事はたいていスグ終わる。
そして帰りに喫茶店に立ち寄る。その時のクリームソーダの味は、今でも忘れられない。こんな歳になってもクリームソーダがスキなのは、思い出も込みだからかもしれない。
そして、私が高校2年生の秋。
父は肺がんになった。
翌年の6月、父は他界した。