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ゴックンし過ぎて胸が痛い

小学生の頃の話。
学校帰りに友だちと遊ぶ約束をしては、お互いの家に行ったり来たりした。
友だちの家はどの子の家も居心地がよかった。
行くと、友だちのお母さんがおやつやジュースを出してくれた。
帰りに友だちのお母さんに「ありがとう」と挨拶すると、優しい声で
「もう帰るの?またおいでね」と言ってくれた。

うちに遊びに来てくれても、おやつやジュースは出てこない。ましてや
夕方5時頃になると、母は友だちに「もう5時やで。はよ帰り」と言う。
(友だちになんでそんな言い方するんや)
私はイヤだった。でも母には言えなかった。

友だちが来たら2階の私の部屋で遊んだ。私たちは元気はよかったけど
ドタバタすることはなかった。
でも、木造の2階は子どもが普通に歩いただけでも下の階によく響いたみたいで、下から母の叫ぶ声が飛んでくることがあった。
「ドンドンするなっ!」
私はイヤだった。(友だちが来てるのになんでそんな言い方するんや)

友だちに申し訳なかった。
それでも友だちは何も言わなかった。
きっと何か思うところはあっただろうに。
そしてまた遊びに来てくれた。

やがて高学年になってくると、自分でおやつやジュースを買ってきて友だちを迎える準備をするようになった。そして、4時くらいになったら友だちを外に誘って家から出るようにした。
友だちにイヤな思いをさせたくないし、私もイヤな思いをしたくない。

学校で地球儀を作る授業があった。
ハンドボールくらいの球体に細長くカットされた世界地図を貼り付けて完成させる。授業中に完成できなかったら宿題になり、家で完成させてくることになった。私も友だちも完成できなかったので、家で一緒に作ろうということになった。
その日、友だちは4時頃に家に来た。ちょっと遅かったけど、友だちは6時に帰ればいいと言ってたので、2時間くらいはできると思っていた。
すると母がやって来て「今何時やと思ってるの。今からでけへんやろ。帰り!」と言い放ったのだ。
(ゲッ!友だちに何言うねん!)と思い、恐る恐る母に言った。
「友だちは6時までエエねんて。せやから・・・」母は私の話を聞いてもいない。友だちに向かって「うちはな、5時まで!せやから帰り!」
友だちは泣きそうな顔をして帰って行った。
(ごめん。ごめんな。ほんま、ごめんな。)
心の中で何回も繰り返していた。
母は「こんな時間から来て。」とブツブツ言いながら部屋に戻って行った。
私はそこに立ちすくんでいた。

いつもいつも、なんで言い方考えてくれへんねん。私の友だちやねんで!・・・と、毎回母に言えるはずもなく、ことばをゴックンと飲み込んでばかりいた。

飲み込んだ言葉でお腹いっぱいになって、胸が痛かった。

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