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音楽戦争(3)

その音に私の魂は魅せられ、いつしか思うようになる。そんな錯覚は甘い罠。わたしが自分の心に迷っているうちにすでに、彼女は次の扉を開けて外に出ては、中庭で蝶々を追いかけていた。
その姿はまるで、ミツバチたちの讃歌。

彼女を自分に引き寄せることはできない。そして私がバタフライに寄ろうとするとするりするりとすり抜けて、しきりと私から離れていってしまう。そう女はネイティブダンサーだった。

それは透き通った空気に対して、空論を仕掛けるようなものだ。もはや孤独な願望だった。

どうにかして、彼女の音を録音したい。彼女の周波数を記録して世界に広めたい。そうすれば

私の人生に私の足を引っ張る私好みでない女のヘマに付き合わされることもなくなりそうだ。理由はとくにない。とくにないからこそ、それはきっと

愛の神秘なんだ。

だってそうだろ?諸君
“音楽に失敗なんてないのさ。”

何度目だろう。都会の有料パーキングに車を停めて、その置き去りにした愛車を黄泉に落としてしまった女に付き合わされるの事、あまりに多し。それも真夜中に呼び出されて明け方、空が明るくなるまで歩き続ける。

「愛車を都会の森に置き去りにしたバチがあたったんだよ。地獄への道連れさ。間違いない」

「もっともです。ごもっとも」

太陽が上がったころ女は言う

「おもい出したわ。私、電車で来たんだった」

「はあ?じゃあおい。部屋泊めろよ」

「それはダメ、だってあなた汗くさいし、都会の空気をふんだんに吸い込んだせいで、なんだかドブネコみたい」

「ドブネズミじゃなくて、ドブネコなのかい?」

「そう、ドブネコ。」

「猫はゴキブリと害虫食ってくれるって言うじゃねえか。よーし俺を部屋にいれろ」

「いいえ、あなたがする事は決まってます。私をジャングルから救い出してくれて、ありがとう」

ああ!アパートに帰ったら気晴らしに何か飲み物を作ろう。こういう時は、温かいレモネードを作るのが1番なんだ。まあ厳密にいうと60℃くらいの、ぬるいレモネードなのだが、

「あつすぎるのは猫舌で飲めないし、ぬるくなるのを待つのが面倒だから、決まってぼくはいつも、熱くなったレモネードにお水を注いで、ぬるくする。」

「水で溶けるタイプのレモネードを買えばいいじゃん、業務スーパーやトライアルに行けば売ってるでしょ」

と君は言う。だがしかし僕は言う

「温かい蒸気が部屋にふわっと広がるときの空気が風流で好きなのさ。夜は部屋の光でそれらが幻想を醸し出す。ハッピーな幽霊の召喚。そして熱くなってレモネードにゆっくり冷水を注ぐ。その時レモネードは僕に言うのさ。」

「おかえりなさい。ご主人様。あなたは今、私と出会った当初の喜びを取り戻してくださいました。そうです。あなたはインスタントなセックスを私に強要することが多々だった。暑い部屋に私を呼び出し、一言を話す前に、私の唇を奪う。でも今のあなたは違う。一緒に静かな机で共に過ごし、窓の外の風景、四季の移り変わりを愉しみ、鼻歌を歌う。そして恥ずかしまじりの愛の言葉を喋ってくださる。その言葉の甘味さが、私をよりいっそう甘く酸っぱくする」

「レモネードのこと?」

...っっつつ


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